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No.8【変態的ラブコメ】『出汁の効いた彼女』第8話「この出汁、科学的に解析させてもらおう!〜片瀬遼の回想〜」
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第8話「この出汁、科学的に解析させてもらおう!〜片瀬遼の回想〜」
夜の街。
冷たい風が吹き抜ける中、俺は静かに歩いていた。
目の前にあるのは、和食レストラン「和膳 かぐら」。
特に期待はしていない。
単なる通りすがりの一杯――のはずだった。
「すみません、スープを一つ。」
店主が無言で差し出す湯気の立つ椀。
レンゲを手に取り、一口。
――その瞬間、俺の脳内に警報が鳴り響いた。
(……これは、何だ……!?)
俺の味覚が、全力で悲鳴を上げる。
舌の上で踊る未知の旨味。
昆布でも、鰹でも、煮干しでもない。
何かが違う。
何かが、おかしい。
俺は身を乗り出した。
「このスープ……誰が作った?」
無意識に口をついた言葉に、店主がちらりと厨房を振り返る。
そこにいたのは――
一人の若い女。
茶色のエプロンを慌てたように外し、店の裏口へと猛ダッシュ。
「す、すみません! 私、帰ります!!」
(逃げた……!?)
一瞬の沈黙の後、俺は立ち上がった。
「待て。」
しかし、女――澪は一切振り返らない。
全力で逃げている。
やはり、これは確信犯だな?
俺は静かに眼鏡を押し上げる。
「……興味深い。」
出汁、それは俺の人生そのものだった。
物心ついた頃から、俺の家にはルールがあった。
「この味は何だ?」
「このスープの成分を言え。」
普通の家庭ではない。
普通の食卓でもない。
俺の家は――食品研究の最前線だった。
幼い俺は、母の作ったスープを飲むたびに、
「昆布40%、鰹30%、椎茸20%、隠し味は焼きアゴ……」
と正確に答えなければならなかった。
間違えれば、次の日も同じスープ。
正解すれば、新たな味の扉が開かれる。
そうやって、俺は味覚を研ぎ澄ませてきた。
大学では食品科学を専攻し、
フードサイエンスの研究所を立ち上げた。
俺の味覚と、分析機器があれば――
この世のあらゆる味を解明できる。
そう、思っていた。
――だが、今日、それが崩壊した。
あのスープ。
あの香り。
俺の味覚センサーをもってしても、解析不能な味の層。
ありえない。
ありえない、はずなのに――
俺の舌は、確かに感じている。
(……この出汁には、“未知”が含まれている。)
今までどんな料理人も成し得なかった、
この感覚――
解析不能の味。
俺は拳を握った。
(あの女……澪とか言ったな?)
逃げたって無駄だ。
俺は、味を追う男。
君の出汁、そのすべてを科学的に解明してみせる――!!
路地裏を走る澪の背中が見える。
俺は静かに、だが確実に、彼女へと歩み寄る。
「……澪。」
ピタッ。
澪の肩が震え、ゆっくりと振り向く。
「あ、あの……どちら様……?」
俺は静かに、無駄のない動きで名刺を差し出した。
「片瀬 遼。食品科学者だ。」
「は、はぁ……?」
俺は白衣のポケットから、小さな装置を取り出す。
味覚測定システム Ver.3.1。
君の出汁――解析させてもらおうか。
澪の表情が、絶望に染まった。
「やめてえええええ!!!!!!!」
だが、俺はもう止まれない。
この味、この出汁――
君がどう拒もうと、俺は必ず捕まえる。
「……さて、実験を始めようか。」
澪の悲鳴が、夜の街に響き渡った――。
明日に続く。
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