ワクチンに起因する変異株の出現(考察編)

AKIRAです。
前回の記事(↓)の続きから。
まだ見ていない方は、ぜひともご一読ください。


筆者の考察

https://www.cell.com/cell-reports-medicine/fulltext/S2666-3791(24)00621-9

こちらの論文より、筆者は変異株のアミノ酸変異を発現するシュードウイルスを用いて、ワクチン接種したヒトの血清に含まれているであろう抗体の中和能とACE2の結合親和性について検証しました。

結果としては、アミノ酸変異を持ったシュードウイルスに対して血清中の抗体は中和能を下げられていることが示されていました。
これは、細菌と抗菌薬のいたちごっこ同様、最新の株に合わせたワクチンを逐一更新しなければ、ありとあらゆる変異を持つウイルスの出現が予測される未来を示唆しています。

筆者によると、この報告以前にすでに、最初のワクチン接種からの免疫逃避として、RBD内の数多の変異は指摘があったようです。もし、武漢株以降のウイルスの起源が天然であった場合、ワクチンは当初からかなり早い段階で免疫逃避を促すような素因を持っていたことになります。

そして、重要な部分が以下の文章。3回目ブースター摂取時の結果に関して。

Moreover, boosting disproportionately increased titers against specific key escape mutations across the spike including D80A, K417N, T572I, and Q677H. Recent publications have suggested that existing antibodies influence the outcome of vaccination by lowering the activation threshold for B cells to allow lower-affinity clones to participate as well as epitope masking to enable responses to previously ignored targets.70 Although boosting resulted in substantially greater breadth of neutralization against more recent strains, we observed a distinct loss of activity for boosted sera beginning with the emergence of the BQ.1.1 variant. Interestingly, this appeared to be largely driven by RBD and NTD mutations at positions 213, 445, 460, and 486, which have been retained in all variants since XBB. Interestingly, these four mutations achieved neutralization resistance without the loss of ACE2 binding in our assay.

Citation from "Alex Roederer et al. - Cell Reports Medicine - 2024 - Ongoing evolution of SARS-CoV-2 drives escape from mRNA vaccine-induced humoral im"

翻訳すると、
「さらに、D80A、K417N、T572I、Q677Hを含むスパイク全体の特定の重要なエスケープ変異に対する力価は、ブーストによって不均衡に上昇した。 最近の発表では、既存の抗体はB細胞の活性化閾値を下げて親和性の低いクローンの参加を可能にし、またエピトープのマスキングによって以前は無視されていた標的に対する反応を可能にすることによって、ワクチン接種の結果に影響を与えることが示唆されている。 ブーストにより、最近の株に対する中和の幅が大幅に広がったが、BQ.1.1変異体の出現以降、ブースティング血清の活性が明らかに低下していることが観察された。 興味深いことに、これは213位、445位、460位、486位のRBD変異とNTD変異によるところが大きいようである。 興味深いことに、これらの4つの変異は、我々のアッセイではACE2結合を失うことなく中和耐性を獲得した。」

まるでADE(抗体依存性感染増強)を彷彿とさせるような結果です。
ブースター接種の同質の抗原種による抗体誘導で、筆者の言うように親和性の低い抗体を参加させることで中和能を上げたのでしょうが、その後の変異株では見事に逃避されています。そして、その原因となる4つの変異の一部には、RBD以外の部分、すなわちNTDの領域もある。ドナーの血清から抗体を抽出して、ACE2・スパイク・抗体のそれぞれの結合度合いを比較しないとわかりませんが、ACE2との結合するRBD以外に変異が入る時点で、ACE2・スパイク間に誘導された抗体が挟まって感染が増強されている(ADEが起きている)可能性を考えるべきでしょう。
ADEについては、下の記事をご覧ください。

Our comprehensive study demonstrates that individuals receiving the full mRNA vaccination regimen, including the XBB.1.5 booster, have maximally effective neutralizing activity against recent strains of SARS-CoV-2. However, despite improvements mediated by XBB.1.5 boosters against more recently emerging strains, there is still escape, particularly by the latest JN.1 descendants KP.2 and KP.3. Surprisingly, the beta variant was also able to significantly escape both bivalent- and XBB.1.5-boosted donors. Notably, the mutations from the beta variant not seen in later variants that significantly escaped include L18F, D80A, D215G, del242-244, and A701V.

Citation from "Alex Roederer et al. - Cell Reports Medicine - 2024 - Ongoing evolution of SARS-CoV-2 drives escape from mRNA vaccine-induced humoral im"

「我々の包括的研究により、XBB.1.5ブースターを含むフルmRNAワクチン接種レジメンを受けた個体は、最近のSARS-CoV-2株に対して最大限の中和活性を有することが示された。 しかし、最近出現した株に対してはXBB.1.5ブースターによって改善されたにもかかわらず、特に最新のJN.1の子孫であるKP.2およびKP.3によるエスケープが残っている。 驚くべきことに、β変異体もまた、二価およびXBB.1.5ブースターの両方から有意に逃れることができた。注目すべきは、L18F、D80A、D215G、del242-244、A701Vなど、後の変異型では見られなかったβ変異型の変異が有意に脱出したことである。」

同じことがXBBブースター接種にも起こっているようです。
ただ、ここで先ほどと違うのは、これよりも前に出てきた変異体であるβ変異体にXBBブースターが逃避されているということ。
つまり、mRNAワクチン接種を続ければ、未知の変異ウイルスに対するリスクだけでなく、既知の変異ウイルスに対してのリスクまで我々は懸念しなければならなくなるということです。

Our findings support the development of vaccine and prevention modalities capable of eliciting broad protection against future variants/outbreaks. Of note, a number of monoclonal antibodies have been described that target highly conserved epitopes such as the stem helix93,94,95,96 or fusion peptide,97,98,99,100 which are capable of neutralizing across the entire Coronaviridae family. Next-generation vaccines that exploit these and other sites of vulnerability across coronaviruses will likely be necessary to combat the ongoing evolution of SARS-CoV-2 and may help prevent future pandemics.

Citation from "Alex Roederer et al. - Cell Reports Medicine - 2024 - Ongoing evolution of SARS-CoV-2 drives escape from mRNA vaccine-induced humoral im"

「この知見は、将来の亜種/アウトブレイクに対する広範な防御を可能にするワクチンや予防法の開発を支持するものである。 注目すべきは、ステムヘリックス93,94,95,96や融合ペプチド97,98,99,100のような高度に保存されたエピトープを標的とするモノクローナル抗体が数多く報告されていることである。 SARS-CoV-2の現在進行中の進化に対抗するためには、コロナウイルス全体のこれらの部位や他の脆弱部位を利用した次世代ワクチンが必要となる可能性が高く、将来のパンデミックの予防に役立つ可能性がある。」

筆者は「高度にタンパク情報が保存されている(変異しにくい)エピトープをワクチンの抗原種として採用すべきだ!」と言っていますが、実際の生体において誘導される抗体はポリクローナルなので、モノクロの抗体を生体内で合成するというコンセプトは机上の空論でしょう。単一のエピトープを用いたからといって、実際にモノクローナル抗体が誘導される保証はありませんしね。エピトープ関連については以下の記事をご覧ください。

研究の限界

筆者らの検証では、呼吸器系の細胞ではなく、継代細胞293Tを使っているため、肺組織への直接的な影響の指標にはなりません。
呼吸器系細胞に存在していて、293Tにはないレセプターなどが影響している可能性があるためです。しかし、この検証ではACE2に対するスパイクの結合親和性が感染のリスクファクターとしての前提条件となっているため、ACE2以外のレセプターの話となると、前提そのものが覆ってしまいます。

そんなことを言い出せば、免疫逃避が起こった結果、ウイルスがACE2以外を標的にするよう変異した、なんて話にまで発展してしまいかねませんので。大風呂敷を広げる事態になってしまいます。

ただ、この一文。

The study is limited to the evaluation of serum neutralizing antibodies to the spike protein for our pseudovirus neutralization assay and does not take into account neutralizing antibodies to other proteins including the N and M proteins.

Citation from "Alex Roederer et al. - Cell Reports Medicine - 2024 - Ongoing evolution of SARS-CoV-2 drives escape from mRNA vaccine-induced humoral im"

「この研究は、我々のシュードウイルス中和アッセイにおけるスパイクタンパク質に対する血清中和抗体の評価に限定されており、Nタンパク質やMタンパク質を含む他のタンパク質に対する中和抗体は考慮されていない。」

これは非常に重要な視点です。

シュードウイルスは、スパイクの構造のみがコロナ由来で、ほかの構造は別物です。
つまり、カプシドや核酸タンパクなど、スパイク以外を構成する抗原に対する検証はできていません。下手をすると、スパイクではないこれらのエピトープや抗原情報のほうがスパイクよりも高度にタンパク配列が保存されている可能性すらあります。
スパイクをターゲットにすること自体に疑問がある、ということです。

mRNAワクチンモダリティへの懸念

筆者は言及していませんが、これらの変異体の出現がもし生物学的な進化論に則ったモノならば、mRNAワクチンモダリティによる過剰な抗原提示に問題があるのではないか、と私は考えています。

というのも、mRNAワクチン接種ではブースター接種という概念があるため、繰り返しの接種による影響も考慮しなければなりませんが、そもそもアルファ、ベータ株、および一部のデルタ株の出現は、最初のブースター接種以前の出来事であることは論文内で提示されています。(Fig1A参照)
つまり、これらの変異株の出現は最初のワクチン接種に起因するものではないかという疑いがあるわけです。

以前より私は、mRNAワクチンはスパイクタンパクの発現コントロールができない、という話を何度もしてきたかと思います。
そして、公衆衛生学的にmRNAワクチンが適切なのかどうかという問題提起もしました。(下記記事参照)

もし、過剰なスパイクの発現が過免疫につながっていたら・・・?
IgG4抗体の増加、Treg誘導、そして増え続けるコロナ変異。

公衆衛生学的にmRNAワクチンは適切でしょうか?

最後に。
すみません、やっぱり長くなりました・・・・・(泣)

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