エビデンスは一日にしてならず
AKIRAです。
本日は概論的なお話。
生命科学研究の限界
iPS細胞の開発やオートファジーなどの細胞代謝の新たな知見の発見、in situ sequencingなどの核酸(DNA、RNA)のイメージング解析をはじめとした新規分析法の開発など、世の中をなんとなく見渡してみるとめちゃくちゃ画期的な開発がポンポンと出てきているように見えます。
しかし、どんな(生命科学)研究でもそう簡単にすごい発明がいきなり出てくるなんてことはありません。
そこにたどり着くまでにいくつもの失敗の連続があり、気が遠くなるほどの検証の数々があるのです。
その主な原因が、再現性の低さにあると思います。
つまり、査読済みの論文のプロトコルを参照してその通りに実験を組み立てても再現されない、ということは珍しいことではないということ。何なら親切な著者であれば、論文内に再現性の低さに関する言及を書き残してくれるものもあるくらいです。
だからこそ生命科学研究では、確かに結果やその考察は大事ですが、研究の限界(Limitation「リミテーション」と言います。)を明確にすることは非常に重要なことであり、論文のクオリティにも直接影響する要素でもあります。
生命科学研究における統計学の役割
こちら(↑)の記事で、私は統計学の論理的「穴」について解説しています。ぜひご一読いただきたいのですが、本記事では、この統計学が実際の研究においてどのような役割を果たしているのか、ということに軽く触れたいと思います。
通常、統計学が果たす役割はデータノイズの除去がほとんどであり、いわば研究の後詰でしかありません。
逆を言えば、中途半端な研究モデルであっても有意差を出せるような(というよりも「出せてしまう」という表現のほうが正確かもしれない)ツールなのです。
洗練されていない研究モデルの実験で叩き出されたデータと、科学的に正確なプロセスを踏んで行われた研究で得られたデータとでは、データの質に差はありますが、それが「何によって影響されたものか」まで統計は教えてくれません。
機械計算ではじき出されたものであっても、そこに論理的な連続性(過去に得られた知見や同様の実験結果を参照したうえでの結論や過程など)がないと、全く説得力がないのです。
つまり、統計学というツールは研究モデルのクオリティを保証しないということです。
大事なことは「機序ベースでの再現性」
そのうえで、皆様に覚えていただきたいことは、科学におけるもっとも重要な要素は「機序ベースで考えられた理論を実験や検証で再現する」ことです。
俗に言う、「再現性」と呼ばれるもの。
ここで大事なことは、「あくまでも機序ベースである」という点です。
有意差検定やANOVAなどの分散解析は確かに数学上の確率統計学に則って意味のある数字(偶然によるものではない)を検証しますが、あくまでも数学上のものであり、生物学的な保証は皆無です。
逆に言えば、生物学的意義の存在しない現象でも、回数を重ねて多重検証すれば、「ある一定確率で」有意な数字を導出してしまいます。
これを回避するための概念。
それが、「機序ベース」であり、「再現性の確保」です。
IgG4高値は病理所見である
mRNAワクチンの存在の有無にかかわらず、IgG4抗体レベルの増加は病理シグナルとして認識されています。
IgG4関連疾患と呼ばれるものですが、機序不明であり、臓器の炎症が複数個所で発生し、なぜか血中IgG4高値とIgG4を発現している形質細胞(元B細胞)が組織に浸潤するという難病です。
様々な見方がありますが、このIgG4そのものは抗炎症作用があることが指摘されています。(↓)
つまり、すべてにおいてそうであるとは言えませんが、「炎症所見の見られる組織におけるIgG4陽性形質細胞の浸潤は、何らかの原因によって発生している慢性の炎症を抑制しようとして働く身体の代償機構の結果である」と考察できます。
さて、ここで。以前の私のこの記事を覚えていらっしゃいますでしょうか。
Science immunologyより、mRNAワクチン接種を重ねるごとに血中IgG4レベルが増加していくという報告について紹介した記事です。
これがどこまでかはわかりませんが、このようなmRNAワクチン接種後のIgG4増加は、少なくとも何かしらの内臓の微小組織における炎症に対する防衛反応なのではないか、という疑念をぬぐえません。炎症の原因は何でしょう?
原因不明のIgG4にまつわる種々の現象は、機序ベースにおいては十分に意味のある生物学的病理所見であることが説明できてしまいます。
「機序ベース」は満たした。あとは・・・
ここまでで、IgG4関連で足りない要素はもはや「再現性だけ」です。要するに似たようなデータの数が集まってくればよい。
ちょうどよく病理学でもスパイクのイメージング技術が育っているようですからね(↓)。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pin.13491
まあ、私の記事でも同じ文献扱ってますが。一般の方は本文見れないので申し訳ありません。
スパイクを発現している組織のスパイク陽性部位にIgG4発現形質細胞が見られれば、IgG4を誘発している「原因」もわかるでしょうしね。
ついでにmodRNAも同所に検出できればチェックメイトですね。