裸のmRNA
AKIRAです。
本記事では、論文を扱います。
LNPの負の影響
↑最近こんな報告が挙げられました。
現在のmRNAワクチンにおいて、LNPが全身に回ってしまうことでmRNAワクチンの反応原性(ワクチンによる副作用)が重大なリスクであることを指摘しており、それの解決策を講じた論文です。
筆者は、LNPの強いアジュバント作用や無差別に導入される性質に着目し、現行のmRNA-LNPが様々な臓器に導入されることで誘発される副反応がある可能性を指摘しており、これを踏まえてLNPを使わない新たなmRNAの運搬方法の確立を提案しています。
つまり、現行のmRNAワクチン製剤における副反応疑いの根本的原因は、LNPによる全身へのmRNA分布であり、LNPのもつ強力なアジュバント作用が疾患を誘発しているのではないか、という内容であるようです。
実際に、本論文内ではLNPを利用しないmRNAをむき出しのまま、針無し注射で皮下だけに暴露させることで、脾臓や肝臓へのmRNAの暴露を防いだ結果が示されています。
そして、針無し注射の物理的衝撃にアジュバント作用があることで、皮下組織に遊走した樹状細胞にmRNAが導入されており、スパイクタンパクを発現した樹状細胞がリンパ節組織に戻ってきていて、IgG抗体を誘導していることから、筆者の提案する方法ではmRNAワクチンを安全かつ効果的にワークさせることができると結論付けています。
論点ずらし
以上がこの論文の主旨ですが、私はいろいろと誤解が生じそうな内容であると感じました。
その「いろいろ」の中の一つが、「論点がずらされている」ということです。
そもそもの話、mRNAワクチンの副反応疑いでLNPを主たる原因として挙げてしまうのは、ナンセンスなのです。
仮に、LNPを除去したにしても、炎症や細胞のストレスを作り出しているのはスパイクタンパクであり、その発現量が制御されていないから臓器障害にまで至っているのです。
しかも結局抗原提示細胞である樹状細胞がmRNAを飲み込んでしまっているので樹状細胞は単一のスパイクタンパクを提示し続ける羽目になります。
そうなれば、私の記事に何度も書いてる通り、
1、抗原提示を受けた免疫システムは、何度も単一スパイクの情報を提示される
2、そうしてIgGクラスタイプの分布がどんどんIgG4へと偏る
3、提示されたスパイク抗原以外のスパイクを持つ株やほかのウイルス株に対する抗体情報が提示されない(抗原原罪)
4、免疫が脆弱になる
この顛末をたどることになるだけです。
さらに、
1、IgGは誘導されたか?
2、肺野のウイルスタイターは減少したのか?
3、針無し注射でどの程度のアジュバント作用があるのか?
こういった視点のデータで構成されているせいか、
1、そもそもIgG抗体は呼吸器感染症のウイルスに有効なのか?
2、論文内で扱っているウイルス株は2020年のもので、変異株の中でも下気道感染が主体。のちのオミクロン以降の株に対する評価として肺野の検証は意義のあるものなのか?
この点が無視されているように見えます。
重要なことは、「どれだけ中和抗体が生成されているか」ではなく、「中和抗体がどれだけ感染防御に寄与しているか」という点です。
血流の多い肺組織では、血中IgG抗体がダイレクトに届くためウイルスタイターがIgGである程度中和されるのは当たり前の話です。
しかし、オミクロン株以降はそもそもコロナ感染症の病態像が変化し、上気道感染症へとなりました。こういった粘膜組織への感染個体の暴露に対して有効な抗体は、IgGではなくIgAです。
それでも論文では、「下気道感染に対してIgG活性」といった的外れ検証がされているわけです。
Discussion
本論文では、Discussion部分の後半で、「安全性の点からmRNAと抗原の分布をコントロールすることは、局所注射において非常に重要な問題である」としており、筆者らの方法がLNPを用いる潜在的なリスクを回避したと主張しています。ここでいう「潜在的なリスク」はもちろんmRNAが全身に飛んで行ってしまうことを指しています。
ただ、もうちょっと読み進めると以下のようなことが書いています。
"These safety profiles of naked mRNA vaccines might solve several concerns of current mRNA vaccines, including rare cases of hepatic autoimmunity,
myocarditis, hyperthyroidism, and allergic reactions."
ここで重要なことは、"might"という単語。
文章の意味としては、「これら裸のmRNAワクチンの安全性プロファイルは肝臓の自己免疫や心筋炎、甲状腺機能亢進症、アレルギー反応などのまれなケースを含めた現行のmRNAワクチンのいくつかの懸念を解決するかもしれない」となります。
通常、ある程度の傍証があって、今後も知見として取り扱えそうな概念は、"can"や"may be"、あるいは"suggest"などの表現を使うことが多いです。
しかし、この文章では"might"を使っており、非常に控えめな表現をしています。この点について、私の推測にはなりますが、おそらく筆者自身も「現行のmRNAワクチンシステムが適切でない」ことに薄々感づいているのではないかと思うのです。
この直後の文章では、「LNP-mRNAワクチンシステムの肝が脾臓やリンパ節へのmRNA分布にあるのに対して、針無し注射ではAPC(樹状細胞)内(つまり脾臓、リンパ節組織そのものへのタンパク発現は見られない)でmRNA由来の遺伝子発現が見られたことを根拠にこの課題を解決した」という趣旨の記述があります。
ただ、そのAPCも結局細胞であることには変わりがないので、APCを宿主細胞とするスパイク工場が再び展開されるストーリーは変わりません。
通常、抗原提示には抗原タンパクを細胞内で分解するプロセスがありますが、APC内で作られたスパイクが全長の情報を持っていることはすでに明らかになっているので、下手をするとスパイク全長が分解プロセスを踏むことなく抗原提示されていることも考えないといけません。
意味がないわけではない
しかし、この検証も無意味ではありません。
最初にも申し上げた通り、mRNAワクチンシステムの害悪の根本的な原因は、mRNA(正確にはmodRNA)そのものにあるわけなので、そもそも無理してRNAを利用する必要などないわけです。
そして、本文中でも述べている通り、針無し注射では、mRNAを含まない(スパイクを発現しない)状態で打っても注射部位へのリンパ球浸潤が確認されています(Fig6B)。また、論文内でもN&S注射(通常の針とシリンジの注射)ではこれがなかったことも書かれています。
つまり、抗原種に限らず免疫細胞を誘導することのできる方法を確立したということになります。
従来のタンパクワクチンの課題は、免疫を誘導するだけのアジュバント活性がないことにありました。
ウイルスのタンパクを体内に接種しても、濃度が少ないからなのか、はたまた抗原の免疫原性が低いからなのか、うまくいかないという問題。
しかし、この針無し注射を使えばこの問題は解決する可能性があります。
針無し注射のアジュバント活性は、ジェット噴射による物理的な機序によるものなので、抗原が何であろうが十分なアジュバント活性を得られるということになります。
さらにその抗原は、皮膚組織内にとどまるので全身への分布することなく末梢の組織への白血球遊走やリンパ球の誘導を引き起こせるわけです。
実際に、APCはmRNAを飲み込んでいるため、同じ要領で抗原のタンパクを飲み込むことだってできるでしょう。
どうしてmRNAにこだわるのか意味が分かりませんね。
結論
というわけで、本記事の要点です。
・どうもLNPを使わないmRNAワクチンがあるらしい
・LNP-mRNAはLNPが内臓へ導入されることが問題であると考えられているようだ
・いやでもそれって結局mRNA(modRNA)を使うからおこるんじゃねーの?
・現に抗原提示細胞はmRNA由来のタンパクを発現しながらリンパに入ってるし
・針無しで物理的アジュバント活性が得られるんなら抗原タンパクを使う従来の方法でいいじゃん
少々長くなりましたが以上です。
お読みいただきありがとうございました。