医療とデザインをつなぐプロジェクト(共同研究)のはなし (追記あり)
はじめに-医療と情報デザインの出会い
ここ5,6年くらいのあいだに取り組んできた医療とデザインをつなぐプロジェクトについて、学会での発表や記事など公開されているものを中心にまとめました(全てではありません)。医療について知識がない状態から手探りで始め、少しずつ成果と言えるものも出ています。とはいえ、医療分野で何かデザインをしようと思うと、前提として知るべき膨大な情報にまず圧倒され、難解な医学用語に悩まされ続けることになります。病気の当事者ではない自分が患者さんの立場に立つにはどうしたらいいか、なにをすれば問題が解決するのかなど、わからないことや戸惑うこともまだ多いのですが、できることから少しずつやっていくしかないよなぁと思いつつ試行錯誤しています。
順天堂大学 泌尿器科との共同研究 (2015-17)
順天堂大学のドクターからお声かけいただき、相互訪問と意見交換から始まり、医療とデザインがどう関わるのか、情報デザインが医療にどんな貢献ができるのかを探りながらプロジェクトを進めていきました。議論する中で、まず、医療者と患者の間のコミュニケーション(情報伝達)に焦点を絞ることにして、いくつかのデザイン提案をおこないました(有志学生が参加)。
▶︎共同研究の初年度(2015年)に制作した「ロボット手術を説明するための情報伝達ツール」では、ひとまず実現性は保留にして(こちらに判断基準がなかった)デザインで何ができるか試すことにしました。提案を具体的に形にしてみることでデザインの価値を確認でき、また同時に医療現場に実装する場合の様々な条件や課題が明らかになりました。
ロボット手術における医療者 - 患者間の情報伝達ツールのデザイン(1) サービスデザインによる新規医療サービスを創出するための手法の研究
磯谷 周治, 吉橋 昭夫, 吉田 光治, 堀江 重郎
日本デザイン学会 第63回研究発表大会[2016.7.3]
ロボット手術における医療者-患者間の情報伝達ツールのデザイン(2)患者視点から見た医療情報の可視化とサービス提供の研究
吉橋 昭夫, 磯谷 周治, 吉田 光治, 堀江 重郎
日本デザイン学会 第63回研究発表大会[2016.7.3]
・発表スライド
▶︎2016年には「前立腺生検のご案内」(説明パンフレット)をデザインしました。前立腺がんの検査(生検)を受ける際の注意事項など、患者さんに伝えるべき情報を整理してわかりやすくまとめました。ドクターの監修の元で制作し、順天堂医院泌尿器科の外来で当該検査を受ける患者さんに配布して説明に利用されています。
サービスデザインの手法を用いた患者中心型医療の構築に関する研究 前立腺生検における入院時の説明ツールの作成
磯谷 周治, 吉橋 昭夫, 吉田 光治, 堀江 重郎
日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会[2017.7.1]
ヤンセンファーマ Uro Connect:【医療者のみ閲覧可】[2018.12.12]
第15回 医療と情報デザインの連携による情報伝達ツールの開発 医療者-患者間コミュニケーションを支える 前立腺がん検査・治療の新たな情報伝達ツール
http://www.janssenpro.jp/…/z…/special/uro-connect/index.html
▶︎2017年度は、泌尿器科で考案され実践されていた順天堂大学医学部の教育プログラムに関して、教材のリ・デザインの提案をしました。
Medical Tribune:(要登録)
美大とのコラボで臨床実習生の意欲が向上[2018.8.22]
医療法人社団KNI,NECとの共同研究(2016-18)
▶︎八王子にある北原国際病院(医療法人社団KNI)さま、日本電気株式会社さまかと、未来の医療サービスについて共同研究をおこないました。現在の医療分野での様々な規制や制約をいったん横に置いて、技術の進歩や社会制度、人々の健康への意識などの変化を予測しながら、市民にとってどのような医療サービスが必要なのか、健康的な生活を送るにはどうしたらいいかを学生とともに考え、未来の八王子の医療サービスを提案しました(3年次演習「サービスデザイン」にて実施)。
日経デザイン 2016年11月号 特集 シニアデザイン新潮流
美大生と一緒に考える、新しい医療サービスとは 北原グループ×NEC×多摩美術大学/メディコ ・ ポリス構想(p44-45)[2016.10.24]
Join 北原グループ×多摩美×NECのコラボレーションが日経デザインに掲載されました![2016.10.24]
Join KNI×NEC×多摩美「医療共生プロジェクト」多摩美期末展で公開展示![2017.1.18]
医療領域を対象としたサービスデザインの試み(1)シナリオ・プランニング手法を取り入れた未来のまちづくり共創活動
稲舩 仁哉, 長田 純一, 吉橋 昭夫, 浜崎 千賀, 亀田 佳一
日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会[2017.7.1]
医療領域を対象としたサービスデザインの試み(2) 八王子の医療サービスのデザイン
吉橋 昭夫, 長田 純一, 稲舩 仁哉, 浜崎 千賀, 亀田 佳一
日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会[2017.7.1]
・発表スライド
日本電気株式会社 NEC DESIGN デザイン事例と手法:
医療現場での共創活動で見えてきたデザインの効果とはー医療法人社団KNIとNECの共創プロジェクト[2018.11]
サンガク 情デの産学協同授業(冊子,非売品)(p06-09) 地域によるトータルライフサポートに関するサービスデザインの研究(1)(2)[2018.4.30]
多摩美術大学情報デザインコース
▶︎デザイン賞の受賞:共創の取り組み全体が新たなサービスモデルとして評価されました(共同受賞)。(上記の個別の研究が受賞したわけではありません)
GOOD DESIGN AWARD:2018年度グッドデザイン賞
新しい医療サービスモデルの提案 [サスティナブルな「医療」を実現する-八王子モデル-][2018.10.31]
iF Design Award 2019
Sustainable healthcare ecosystem / Healthcare ecosystem management solution[2019.3.15]
▶︎そのほか関連する学会発表、記事など
医療をサービスとしてデザインすることの試み(2)
油井 千佳子, 亀田 佳一, 浜崎 千賀, 田丸 和寿, 吉橋 昭夫, 長田 純一
日本デザイン学会 第66回春季研究発表大会[2019.6.29]
PARTNER:
タマビ情報デザイン学科情デコース「後期末展」に行ってきた[2019.1.13]
医大生と美大生の交流ワークショップ(2018)
▶︎医学部の学生のみなさんと出会ったことをきっかけに、デザインを共通言語にしたワークショップを企画・実践しました。DeNAさまのご協力で、美大生と医療系の学生が出会い共創する場を設けることができました。(この時の参加者は、その後、美大や医大を卒業して社会で活躍しています)
日経メディカル Cadetto.jp:
体験リポート 未来の医療者とデザイナーに「共創の場」を[2019.1.24]
医大での講義
▶︎医学部学生を対象に講義をしました。
順天堂大学泌尿器科学講座にて「医療とデザイン」[2016.7.14, 2016.11.10, 2017.8.14](共同研究の一環として)
聖マリアンナ医科大学にて「デザインによる創造的な課題解決」(講義と演習)[2019.9.13-10.3](医学教育文化部門講師・非常勤)
聖マリアンナ医科大学にて「4年研究室配属:デザイン思考による課題解決」(講義と演習)[2022.10.31-11.25](医学教育文化部門講師・非常勤)
医療者向けの講義
医療デザイン大学(第一期)(主催:一般社団法人 日本医療デザインセンター)
「医療とデザインーUXの視点から」[2022.10.12] オンライン講義 講師
MBAでの授業
青山ビジネススクール(ABS)にて「ヘルスケア×コミュニケーション」をテーマにしたサービスデザインの授業を行いました。
専門科目「MPP(マーケティング・プランニング・プロジェクト)サービスデザイン」(担当:黒岩健一郎教授・非常勤講師 吉橋昭夫)
MBA青山ビジネススクール授業前編:お題提供と中間発表[2022.6.15]
MBA青山ビジネススクール授業後編:最終発表[2022.8.16]
医療とデザインのより良い関係へ
すでに世の中には、医療機器や器具のプロダクト開発、電子カルテや医療用アプリのUIUXデザイン、病院や病室の空間、ブランドデザイン、メディカルイラストレーションなど、医療とデザインが深く関わっている分野も数多くあります。
患者中心の医療の文脈で語られることが多いPX(Patient Experience:患者経験価値)はUXデザインやサービスデザインとの関連が深く、医療コミュニケーションは、医療者と患者をつなぐ大切なもののひとつです。微力ながら今後も貢献できればと思います。
医療の分野では、これからさらに「デザイン」の知見が必要になると思いますので、若手デザイナーのみなさんにも興味を持ってもらえるといいなと思いつつ。
更新履歴:
2021.8.27 公開
2022.6.26 講義を追記、リンク修正、編集
2022.12.31 医療者向けの講義を追加
2023.2.6 MBAでの授業を追加
関連リンク
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