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サービスデザインのためのブックリスト(2021)

以下は2018年1月に公開した入門書のブックリスト、もう3年前です。その後、新しい本がいろいろ出たので更新することにしました。良い本は残して以前のリストから転載しています。

「サービスデザイン」は領域横断的なアプローチが必要で、扱う対象も広く、必要になる知識やスキルもかなり広範囲に渡ります。デザインの知見だけでは解決できない問題も多く、マネジメントやビジネス、マーケティング分野の知識やスキルも必要になりまです。リストの後半ではサービスマーケティングの本をいくつか紹介します(入門から専門書まで)。

1.サービスデザイン入門

まず入門書です。サービスデザインの分野について概観できる本を選びました。3年前と比べるとネットにも多くの情報がありますので、サービスデザインという言葉すら知らないという超のつく初心者は想定していません。

「サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた」武山政直 著,エヌティティ出版

日本でのサービスデザイン研究の第一人者、武山先生(慶應義塾大学)の著書です。サービスの基本、デザインの基礎から、サービスデザインとその事例紹介、そしてこれからの可能性までていねいに解説されています。重要な概念のひとつ「S-D ロジック」も正しく解説されているので、難解でわからないという方は理解の助けになると思います。

「Good Service DX時代における“本当に使いやすい"サービス作りの原則15」ルー・ダウン 著,BNN

よいサービスをつくるための原則を15個に整理し、難解な専門用語を使わずに平易な文章で解説しています。

「DX 時代のサービスデザイン」廣田章光・布施匡章 編著,丸善出版

近畿大学をはじめ経営学部の先生方を中心に書かれたサービスデザインの入門書です。マーケティングや経営の理論に紐付けながらていねいに書かれており、経営学部の先生方のサービスデザインへの視座がよくわかります。(専門性からいえば当然なのですが)サービスドミナントロジックの解説が適切でわかりやすく安心感があります。
終章では、サービスデザインの組織導入、組織文化から経営のデザインへと議論が展開されていて経営学との親和性がより強く感じられます。

「ビジネスで活かすサービスデザイン-顧客体験を最大化するための実践ガイド」ビー・エヌ・エヌ新社

実践ガイドの副題の通り、サービスをデザインするプロセスを中心に解説した本です。サービス提供のプロダクト開発にとどまらず、質の高いサービスを提供し続けるための組織の問題に言及しており、広範囲に渡るサービスデザインの特徴をよく示しています。

「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases-領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」マーク・スティックドーン, ヤコブ・シュナイダー 著,ビー・エヌ・エヌ新社 

サービスデザインの辞書のような一冊です。概念から手法、事例まで幅広く扱っており、サービスデザインという分野を概観できます。出版当時(日本語版2013年)は、日本語で読める情報源はほぼこの本しかなく、分野の全体像を把握するためにたいへん役に立ちました。
本書で紹介されているサービスデザインの「ツール」に関心を持つ方も多いと思いますが、ツールはどんどん変わっていくので、まえがきや基礎編をしっかり読み込む方が得るものは多いでしょう。基礎編の「サービスデザイン思考の5原則」はサービスをデザインする際の良い視点を提供してくれます。また、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、インタラクションデザイン、ソーシャルデザイン、戦略マネジメント、オペレーションズ・マネジメント、デザイン・エスノグラフィの各分野からサービスデザインとの接続が語られます。
「ツール編」では様々な手法が紹介されていますが、本書では概略の説明のみです。実践のためには後に出版された「This is Service Design Doing サービスデザインの実践」(以下で紹介)が役に立ちます。

2.サービスデザインの実践

「This is Service Design Doing サービスデザインの実践」マーク・スティックドーン, アダム・ローレンス, マーカス・ホーメス, ヤコブ・シュナイダー 編著,BNN

実践のための膨大な数のツール・手法・ケースが紹介されています。とてもいちどでは読み切れませんので手元に置いてリファレンスのように使いつつ何度も読み返す本でしょうか。後半は、サービスデザインの組織への実装について詳しく書かれており、まさに実践の書です。
08 実装
09 サービスデザインプロセスとマネジメント
10 ワークショップのファシリテーション
11 サービスデザインのためのスペースを構築する
12 組織にサービスデザインを組み込む

▼英語版のサイトでは methods(英語)が無料公開されています。

「サービスデザイン ユーザーエクスペリエンスから事業戦略をデザインする」丸善出版

サービスデザインの実践について、具体的な進め方や方法が詳しく書かれています。ただし原書の出版は2013年ですのでサービス事例などはその時点のものです。

「マッピングエクスペリエンス ―カスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る」

サービスデザインそのものがテーマではありませんが、サービスや経験を可視化する方法を解説しています。サービスデザインに関連する「マップ」は以下の5つ。
 9章 サービスブループリント
10章 カスタマージャーニーマップ
11章 エクスペリエンスマップ
12章 メンタルモデルダイアグラム
13章 空間マップとエコシステムモデル

3.サービスデザインの研究

「デザイニング・フォー・サービス   “デザイン行為”を再定義する16の課題と未来への提言」ダニエラ・サンジョルジ, アリソン・ブレンディヴィル 編,THOUSANDS OF BOOKS

サービスデザインに関する論文集です。以下の四部構成です。
1.「サービスのためのデザイン行為」の今日の情勢
2. サービスのためのデザイン行為に関する現代的言説とその影響
3. 公共・社会領域におけるサービスのデザイン行為
4. 移行経済・新興市場におけるサービスのデザイン行為

4.サービスデザインの未来

サービスデザインの未来 The Future of Service Design 日本語版」 Birgit Mager, Adam Lawrence 編著

最近(2021.4)公開されたばかりのレポートです。タイトル通りサービスデザインの未来について様々な視点から語られています。テーマは、企業組織、行政、教育、テクノロジー、倫理、持続可能性、組織文化、未来予測の8つ。

▼日本語版公開記念イベントの記事:

5.サービスマネジメント, サービスマーケティング 入門書 

サービスをデザインするには、「サービス」の特性を正しく理解することが必要になります。サービスマーケティング、サービスマネジメントの分野からいくつか紹介します。

「サービスマネジメント入門―ものづくりから価値づくりの視点へ 第3版」 近藤 隆雄・著,生産性出版

サービス・マーケティング、サービス・マネジメントの理論を学ぶための入門書です。私が多摩大MBAで「サービス・マーケティング 」を学んだ際の教科書でした(近藤隆雄 教授・2006年当時)。第3版では「第8章 サービスの生産性向上」が書き加えられています。

「1からのサービス経営」伊藤 宗彦, 高室 裕史 著,碩学舎

初めて「サービス」について学ぶひとを対象に書かれた教科書的な本です。事例が豊富で、無形の「サービス」の特性を理解する助けになります。サービス・マネジメントの基本となる理論もきちんと押さえてあり、入門用テキストとしてとても良いです。1章 サービス経営のマネジメントと、8章 サービスによる価値創造は特に役に立ちます。
本書を読むと、ウェブ・サービスやネット系のサービスはサービス全体の一部に過ぎないということや、モノとサービスがもはや区別して考えられないことが理解できるでしょう。

「最新マーケティングの教科書2021」日経クロストレンド 編

マーケティングに関する最新の動向、キーワード、事例などを把握することができます。

6.サービスマネジメント, サービスマーケティング 専門書

以下はいずれも経営学の専門書です。読むにはそれなりの前提知識が必要になります。「理論」に関心、興味のある方はどうぞ。

「北欧型サービス志向のマネジメント―競争を生き抜くマーケティングの新潮流」クリスチャン グルンルース 著,ミネルヴァ書房 

グルンルースによるサービスマネジメントの理論です。「ノルディック学派」と言われ、アメリカのマーケティング理論(コトラーほか)とは異なる視点・価値観から「サービス・マーケティング」の理論を展開しています。

「サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用」R.F.ラッシュ, S.L.バーゴ 著,同文舘出版

サービス・ドミナント・ロジックの提唱者である、R.F.ラッシュ教授、S.L.バーゴ教授の著書です(2016.6.24刊)。S-D ロジックは、モノからサービスへという単純な構図で語られがちですが、提唱された元々の考え方はそのような単純なものではありません。オリジナルの理論・枠組みに触れてみたい方はこちらを。

「サービス・ドミナント・ロジックの進展 価値共創プロセスと市場形成」田口尚史 著,同文舘出版

7.ビジネスモデル入門

持続可能なサービスの仕組みを考えるためには、ビジネスについての知識も必要です。ビジネスやビジネスモデルについてわかりやすく図解した本を2冊紹介します。

「図解 はじめて学ぶ みんなのビジネス」ララ・ブライアン, ローズ・ホール 著,晶文社

ビジネスとはなにか?から、起業、商品販売、顧客、製品開発、会社の成長、ビジネスの全体像まで、ビジネスに関する一連の知識とプロセスが図解で学べます。

「ビジネスモデル2.0図鑑」近藤哲郎 著,KADOKAWA

様々な会社のビジネスモデルが図解されています。図解なのでステークホルダー・マップやサービス・エコシステム・マップなどと相性が良く、持続可能なサービスを検討する際に役立ちます。

8.その他、関連する領域から

近年ではサービスデザインの適用範囲が組織変革や、公共システム、ヘルスケアなどに広がっており、ますます領域横断的なアプローチが求められます。サービスデザインの周辺にある関連領域から何冊か紹介してみます。

 「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」クレイトン M クリステンセン 編著,ハーパーコリンズ・ ジャパン

イノベーション論で有名なクリステンセンの「ジョブ理論」を紹介します。サービスを考えるときに示唆に富む内容です。

「1からのデジタルマーケティング」西川英彦, 澁谷覚 著,碩学舎

デジタル社会を前提とした新しいマーケティングについて、多くの事例をあげながら解説しています。デジタル・マーケティングとは、デジタル・マーケティング戦略、デジタル・マーケティングのマネジメント の三部構成。

「行動を変えるデザイン-心理学と行動経済学をプロダクトデザインに活用する」

行動経済学の視点でデザインを考える本です。ユーザーに行動変容を促すためにどのようなことが有効なのか、がわかります。

「行政とデザイン 公共セクターに変化をもたらすデザイン思考の使い方」アンドレ・シャミネー 著,BNN

行政組織にどのようにデザイン思考を導入したらいいか?実例をもとに解説しています。サービスデザインと重なる部分も多々あります。

「ヘルスデザインシンキング 医療・ヘルスケアのためのデザイン思考実践ガイド」ボン・ク, エレン・ラプトン 著,BNN

医療分野でのデザイン思考の活用について解説しています。医療サービスのデザインとして読める事例も多く紹介されています。

「POSITIVE DEVIANCE(ポジティブデビアンス)学習する組織に進化する問題解決アプローチ」リチャード・パスカル, ジェリー・スターニン, モニーク・スターニン 著,東洋経済新報社

ポジティブな逸脱者(ポジティブデビアンス)を探すことで問題解決のきっかけとする考え方・手法を解説しています。一見すると解決策がないように見える難解な問題の解決法をコミュニティーの中に求めていく参加型手法のひとつで、サービスデザインを考える上で示唆に富む内容です。

「企業変革力」ジョン・P・コッター 著,日経BP社

数年前から、サービスデザインの文脈で「組織変革」や「企業文化」が取り上げられるようになりました。サービス提供のために組織そのものや組織文化を変えていく、あるいは、組織変革を目的としてサービスデザインの考え方や手法を適用していくなどのアプローチです。これらの「組織に対するアプローチ」は従来のデザインの枠組みにはなかったものです。

経営学の分野をみると組織やそのマネジメントについての多くの知見があります。ジョン・P・コッターは、本書の中で企業変革のための8段階のプロセスを説いています。1997年の出版ですが、本質的なことは変わらず今でも十分に通用する内容です。サービスデザインで組織変革に踏み込む際にはコッターの教えが助けとなるでしょう。

「企業文化 改訂版:ダイバーシティと文化の仕組」エドガー・H・シャイン 著,白桃書房

組織文化といえばエドガー・H・シャインの名があがります。組織文化について深く知るにはおすすめです。研究者としてだけでなく、コンサルタントとして多くの企業に関わった経験と知見が集約されています。

本格的に学びたい方は骨太のこちらをどうぞ。
「組織文化とリーダーシップ」エドガー・H・シャイン 著, 白桃書房

学術書ではなく、組織文化に関するストーリーとしては、ピクサーネットフリックスのカルチャー(組織文化)について書かれた本も出ています。こちらは事例として気軽に読めると思います。

おわりに

サービスデザインから、サービスマネジメント、サービスマーケティング、そして関連する領域までたどってみました。サービスデザインは比較的新しい分野ですが、サービス・マーケティングの研究や実践には長い歴史があり、書籍や文献がたくさんあります。これらで基本を押さえておくと「サービス」の全体像を把握する上で役に立つと思います。
サービスデザインは、既存の「デザイン」の枠組みや「デザイン思考」だけでは思うように扱えず難しくもあり、またおもしろいところでもあります。適用・応用の範囲が広がるにしたがって、より広範な知識やスキルが必要となってきているデザイン分野といえるでしょう。

関連:

更新履歴:
2021.4.23 公開[更新中]
2021.4.24 公開
2021.5.16 企業変革力,企業文化, 組織文化とリーダーシップ を追加

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