UXを知るためのブックリスト(2020)
はじめに
ひさしぶりにブックリストをつくりました。今回のブックリストでは「UX」を取り上げています(日本語で読める本だけです)。
ここで扱うUXは “User Experience” のことです。巷には様々な定義がありますが、定義の話にはあまり興味がないのでここではしません(他のブログや学術書をお読みください)。
タイトルに UXデザイン と書くか、UX と書くか迷いましたが、「UXというワード」が扱う範囲が、製品やアプリの使用経験からマーケティングやDX(デジタル・トランスフォーメーション)にまで拡張してきている状況をふまえて、あえてデザインを外して「UX」としました。(異論はたくさんありそうですがそれぞれのお考えは尊重します。定義論争と同じくそこにはあまり興味がありません)
以下で本を紹介していきますが、いざブックリストを作ろうと思うと、網羅的、体系的に書かれた本が少ないことに気付きます。たしかに「経験」を扱うのですから、そう簡単には説明できないということですね。
UXとはなにか、全体像を把握する
「アフターデジタル2」
いま2020年の時点で、デジタルのサービスやデジタルプロダクト(以下プロダクト)の現状と将来に関して、UXのもつ意味と価値を最も的確に書き表している本だと思います。とても参考になりました。
ビジネス経験がない学部生のみなさんにはちょっと難しいと思いますが、わからないなりでも「いま(2020年に)」読む価値があると思います。
著者の藤井氏によるこちらの動画もたいへんわかりやすいので参考にどうぞ。
「アフターデジタル」
こちらは前年2019年に出版された「アフターデジタル」 です。バリュージャーニーという考え方(UXのとらえ方)を提案しています。ちなみにこちらを飛ばして「ー2」から読んでも大丈夫です。
ユーザーエクスペリエンスの歴史と意義を知る
工業デザインにおけるUXの黎明期から現在のUXに至るまで「ユーザー・エクスペリエンス」の歴史と系譜がわかります。UIデザインのためのブックリスト(2020)でも紹介しましたがこちらにも追加しておきます。
「ユーザーフレンドリー」全史 世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」の法則
経験の価値と意味を知る
「[新訳]経験経済」
僕のブログでは何度も紹介していますが、パイン&ギルモアの "The Experience Economy"(1999)の再翻訳版です。経済価値としての「経験」や、経験価値、経験ビジネスについて書かれています。マーケティング分野ではすでに常識とも言える本ですが、これを知らずに「経験価値」を語るべからず、という感じですね。UXについて考える基本になる一冊です。
(Amazonに在庫が無いと高額の古書が表示されますが、他の書店では新品・定価で買えるはずです。定価 2,400円+税)
UXデザイン入門
次は入門書です。入門書といっても、UX自体がそれなりに複雑な概念・分野なので、理解するためにはユーザビリティーやウェブデザイン、UIデザインなどの基本的な知識は必要になります。これらを全く知らないという人はまず概要を知ってからUXに進むことをおすすめします。
「Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで」
書名には「Web制作者のため」とありますが、UXデザインの基本的な要素が説明されていてアプリなどのUXを考える際にも広く応用ができます。はじめて学ぶひとには良い本です。
ストーリーを語る
UXについては、エクスぺリエンスは単発のインタラクション(相互作用)ではなく、インタラクションの点と点をつなぎ時間軸に沿ってストーリーをかたちづくるもの、というとらえかたが必要になります。
「ストーリーマッピングをはじめよう」
ストーリーやシナリオとして記述することで経験(UX)が可視化され、設計(デザイン)の対象にすることができます。
「ユーザーストーリーマッピング」
こちらは少し上級編。
経験の記述・可視化のためのマッピング
最近は、マーケティング分野でもUXが重視され語られることが多くなってきました。マーケティングでは「ユーザー」よりも「顧客(Customer)」と呼ぶことが多いので CX(Customer Experience)と呼ばれることもあります。広告媒体なども含めて「経験(UX, CX)」を「タッチポイントの連続」ととらえます。たとえば、CJM(Customer Jouney Map)はもともとサービス・マーケティングで用いられていたものです。
UXとCXの違いを厳密に定義して両者を区別する考え方もあるようですが、どちらも同じくユーザー/顧客の「経験」を扱っているもので、分野と視野(見ている範囲)のちがいだけではないかと思います。
「マッピングエクスペリエンス」
デザイン(設計)をするには対象となる「経験」を何らかの形で記述したり可視化することが必要です。CJMなど記述とのための様々な形式についてが解説されています。現状の記述だけではなく、もちろん創造的な設計のための記述も含まれます。
顧客体験の実現
「メルセデス・ベンツ『最高の顧客体験』の届け方」
マーケティングの本を追加したくて探していたのですが、記事をいったん公開したあとに駆け込みで一冊追加します。理論ではなくて事例になりますが、メルセデス・ベンツの最高の顧客体験(CX)がどのように実現されたのかが書かれています。
人間中心設計におけるUX
「UXデザインの教科書」
人間中心設計の立場で主に「ユーザーが製品を使う体験」について書かれています。プロダクト開発においてUXを考えるのに良い本です。製品利用のUXについて、体系的にロジカルにアプローチしたい方はこちらをどうぞ。
ITエンジニアのためのUX
「ITエンジニアのためのUXデザイン実践ノウハウ」
新しい本が出たので1冊追加します。ITエンジニアがUXデザインに取り組む場合の基礎と実践をまとめた本です。著者はNTTデータ公共・社会基盤事業推進部の方々、みなさん開発部門の経験者だそうです。
番外編: 「経験」について深く考える
UXの本でもデザインの本でもないのですが、僕の趣味で1冊加えます。
「経験」というものについて哲学的な問いを含めて深く考察されている本です(たぶん)。たぶんというのは僕自身がまだ読み切れていないからで(途中まで読んで積読中)、そんなの無責任に紹介するなと言われても、だから趣味なので...(汗)。(興味ない方は静かにスルーしてください)
著者のエドワード・S. リードは生態心理学者・哲学者で、あのアフォーダンスのJ. J. ギブソンの系譜につながる研究者です。そんなリードが「経験」について語るわけですからこれはもう(略)。(いつか読み切りたい...。)
「経験のための戦い」
参考:
こちらはゼミ卒業生の現役のUIUXデザイナーがつくったブックリストです。重なっている本もあります。合わせてどうぞ。
サービスデザインの分野でも、当然ですが「エクスペリエンス(UX)」を扱います。こちらは、以前作ったサービスデザインのブックリストです。(もちろん、その他の要素も多いのでUXについてだけ書かれているわけではありません)
おわりに
知っている範囲、読んで内容を把握している範囲で紹介しましたが、ほかにも重要な本があるかもしれません。専門の知識や別のリストをお持ちの方はぜひ情報発信して共有していただければと思います。
また、半年もすると時代の価値観が変わったり、新しい本も増えていると思います(そのため、タイトルにあえて 2020 と書きました)。そのときはまた別のエントリーにて。
ではこのへんで。(2020.9.17)
更新履歴:
2020.9.17 公開
2020.9.18 「メルセデス・ベンツ『最高の顧客体験』の届け方」を追加2020.11.17 「ITエンジニアのためのUXデザイン実践ノウハウ」を追加
2020.11.18 「『ユーザーフレンドリー』全史」を追加
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