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私が株式会社イグジィットを解散するわけ の続きの続き
管理職が逃亡してしまうと、どうなるか
おおげさに書いてるわけじゃなくて、モロバレしないようにぼかしたり、変えたりしているところはありますけど、大使館相手に、英語のできない私が専門外で役割外の、お金にならないことをやるのが、どれだけ大変でバカバカしいことか。
あるときリスクマネジメントの専門家が登場して、今回のコラボのリスクについて討議されていました。たとえば通訳の仕事をされている方でも、国家レベルのリスク関連用語をご存知でしょうか?
渋谷109前などでイベントを実施する前に、広告代理店やイベント会社が銃乱射やテロ攻撃のリスクについて検証しますか?
となりに座っていた日本人ではない大使館員が、私に「付いて来ていますか?」と耳打ちします。私は親指と人差し指を塩でも摘むように少しだけ開き、「ちょっとだけ」とジェスチャーと目で返事しました。
彼はニヤっと表情で返します。
こんなことは必要ないね、私たちには。そう顔に書いています。
私はリスクなら、この内容、Twitterで炎上するリスクを検討しておいた方がいいのになと思っていました。
なら、もう大使館には行きませんとか、この段階で仕事を降りますと言えばいいんじゃない? そうツッコミたくなる人も少なくないでしょう。
会議に出ているクライアントサイドの人間は、社長と役員のふたりだけです。ふたりは観念的なことしか、しゃべりません。大使館サイドも、具体的な話のほとんどは、私にしてきます。
ここで私が逃亡して、外交問題にでも発展させますか(笑)
課長が逃亡するタイミングで私を連れてきたのは、新任の役員に引き継ぎをしたくなかったからかも。他の社員にそれをやらせなかったのは、すぐ逃げちゃうだろうと考えたからかもしれません。
課長が逃げる気持ちもわかるし、一般の社員だとパニックになって病んでしまうかもしれません。
瀬川なら、逃げないだろう。そう考えたのかもしれませんが、重要な役割がありました。
バジェットについて発言しない役員と社長
最初に課長に大使館に一緒に行ってくれと言われたとき、制作するものの内容がだいたい決まっていて、意図するところとか表現のガイドラインとかヒアリングするところから始めればいいんだろうと思っていた。
「話を聞いて出来ないことは出来ないと言ってもらっていいから」ということだった。スケジュールのお尻は決まっているから、後は予算。
制作するアイテムが決まっていないから、「出来る出来ない」を判断する要素はバジェットだ。
すると「それはもう低予算で。制作に30までは出せないと思う」という答えが帰って来た。サンジュウマンエン!? それでコラボキャンペーン!?
もちろんキャンペーン全体のバジェットは、もっとあるはずだ。商品も作るわけだし。それにしても制作費は30万円以内におさえるとなると、なんにもできない。クライアント側が事前に言ってるアイテムだけで、キャンペーン用のウェブページを事前と事後、グラフィック関係ではB倍の倍ぐらいのポスターを2回、もう少し小さいサイズのポスター2種×2回。A4両面のチラシ、POP、それに商品やイベントなどを撮影してSNSで数回分の動画と写真。
そんなんで打ち合わせすることある? それも、ものものしい雰囲気で。
8回目だかの会議のとき、大使館側から要望が出た。
キャンペーンサイトを作って欲しいと。それもものすごい機能を備えたやつをご要望された。発言したのは世界で1、2を争うIT企業出身の方だ。えーっと、ご出身企業のウェブサイトでもそんなの装備したサイト、作ってないっすよね…
とりあえずスケジュール面でもあり得ない内容だけど、予算面でまったく不可能だから、役員から発言があるだろうと、私は黙ってた。すると、役員も社長も押し黙ったまま、あらぬ方を見てる。
沈黙があって、提案者が私の方に「どうですか?」と意見を求める。〜ん、私ですか。
予算が潤沢にあったとして、と前提条件をつけた上で「無理しても半年ぐらいはかかりそうですよ。検証に1ヵ月ぐらいはかかるでしょうし。何より技術的に可能なのかどうかも、今この場では、私にはなんともわかりません」みたいなことを言って、要するに絶対に無理ですと主張した。
クライアントのトップふたりが何も発言しないということは、どういうことだろう。金がないと自分たちでは言わず、私がOKすれば、予算の増額はないけどやらせるつもりだったのか。
予算的には、そんな夢物語を言ってる場合じゃない。なんたってモデル撮影をすることになっていたんだから
見ていれば、自分でもできると思っている役員
その会議の中で、モデル撮影をすることが大使館サイドで決まってた。はあ、撮影ね。それだけで予算は消えるな、と覚悟した私。それを断ったら、きっと何も進まない状態になる。
会議が終わってから、残って私と広報の方たちとで撮影の詳細をつめることになった。私がまず言ったのは、スタジオ借りるのは予算的に無理です、ということ。すると「ヘアメイクやスタイリストは?」と聞かれたので、もちろん無理です。撮影にかける予算はまったく出ません。
カメラマンは手配します。ディレクションも合成も私がやります。それで勘弁してくださいと。
広報といっても、いわゆる報道用の素材を日夜作っている部署の方たちなので、ヘアメイクやスタイリストの役割を担う人たちはいるはずだ。スタジオもあるはずだと踏んでいた。
どうしてそんなに予算がないんだと聞かれたので、私は外注先だからなんの権限も理解もありませんが。そもそもこのコラボで、それほどの売上げが立つとは見込まれていないはず。PRだと、無料でできると思っている会社ですから。あ、という以前に、もしかしたら本当にお金がないかもしれない。課長はもう続けられないと退社されましたし。
と言うと、とても驚かれた。今回のコラボで1年以上前から窓口でやられてたのに、最近お見かけしないのからどうしたんだろうと思ってたんですと。
はぁー、やっぱり退社を伝えてないんだなぁ。
ここまで内情を話すのは、外注の立場を逸脱した行為かもしれないけど、逸脱しすぎる役割を担わされているからしょうがない。ある程度内情を伝えないと、モデル撮影で普通はこうですよね、という要求が止められない。
スタジオを見せてもらうと、報道映像用のお約束の照明装置だ。じゃあお約束のライティングで、お約束っぽい写真で行けばいいと判断した。
当日はカメラマンと私だけが、撮影スタッフとして入った。私がそこにある大道具小道具を使って、狙ったカットが撮れるようにセッティングした。カメラマンは、広報の人とともに照明装置を動かす。テレビ局と同じで、電動だ。
もう本番前から、ぐったり。本番直前には見学者がどんどん詰めかけて、それだけで騒がしい。
後日、撮影の様子を見ていた役員が「あの撮影のディレクションなら、私もできますよ。見てればわかる」とおっしゃる。
なんか怒るという感情よりも、あきれちゃって。サッカーとか野球の試合見ながら、あの監督なら自分がやった方がましだって言っちゃう人ね。
監督というより、選手兼監督の役割だと思うんだけど。サッカーや野球じゃなくて、自社の業務だから「私がやる」と言えば、こちらは「どうぞどうぞ」と降ろしてもらえたんだけどな。
そしてさらに後日、通常業務のときの担当者も退社した。
いくらでも「まだ出来るだろうと役割を増やされる。もう無理です。逃げますから」「役員から瀬川さんにはまだ言うなと口止めされましたが、ご迷惑がかかるので先にお伝えしておきます」と言って。
社名やブランド名が続いていても、人が入れ替わっちゃうんだと、私のようにまるで社員のように社員以上にとか思って仕事していても意味がない。もうとっくに時代遅れなのねと。
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今回の話は象徴的で分かりやすい内容だと思って書きましたが、もっとエグい罠だってあります。
でも会社を解散させようと考えたのは、赤字、社員が次々に入れ回ってしまう、さらにまだあります。
クリエイティブとかデザインとか、そんなものは最終的な成果とほとんど関係がない。そんな空気はありましたが、自分自身でトライアンドエラーしてみてハッキリしました。
今ごろ理解したのかよ、おっさん。と言われそうですけど、しょうがないでしょうよ、クリエイティブの会社なんだから。少なくとも会社としては、クリエイティブ専業なんてくくり、必要ないです。
続きます。