UI/UXデザイナーが歩くゼルダの世界
こんにちは。Sun*デザイナーのあきおです。
2023年5月12日、任天堂から「ゼルダの伝説ティアーズオブザキングダム」が発売されました。
私は現在育休中で慣れない育児に勤しむ身ですが、その傍ら毎日ハイラルの大地を闊歩する冒険者でもあります。(時間が溶ける…)
前作同様ゲームの内容自体も素晴らしいのですが、UI/UXの工夫も光るゲームです。
今回はティアキンの素晴らしさをデザイナー視点で語っていきます。
1:不便さを残し、万能感を減らすことでリアリティを持たせている
ウルトラハンドのRスティックふりふり
今作では"ウルトラハンド"という能力によって、フィールド上のオブジェクトや特殊な効果をもつギアを繋げて工作することができます。
かなり緻密な物理演算によって処理されており、エアロバイクの部品の角度が少しズレただけで真っ直ぐ飛べなかったりと、現実世界と同じような感覚で工作できるのが楽しみの一つです。
この機能の中で部品の接合を解除する操作があるのですが、解除方法がなんと「Rスティックを左右にふりふりする」であったことに衝撃を受けました。
空いてるボタンに割り当てれば一瞬で外せて効率的なのに、わざわざふりふりしなくてはならない…
最初はこれに違和感を覚えたのですが、思えば現実世界でも接着剤で引っつけた物を剥がすには、ぐりぐりしながら引っ張ったりしますよね。
それがボタンひとつであっさり外れてしまうと慎重に考えながら作る楽しみが減少し、遊びではなく作業になってしまうのかなと思いました。
操作にリアリティを出すことで没入感を高めている
子供の頃に没頭した図画工作の感覚が呼び起こされる操作だなと思いました。
料理の仕方もある意味斬新
ティアキンでは料理鍋の前に立ち、そこに食材をぶち込むと料理が作れます。
しかし、もし私が「鍋で料理を作るためのUIを設計しろ」といわれたら…
まず料理鍋の前に立った段階で「料理をする」コマンドを表示させてから料理専用の画面へ遷移させると思います。(大抵のデザイナーがそうではないでしょうか)
なぜわざわざ食材を持ってから鍋にぶち込む設計にしたのか?
…思えばこのゲームにおいて、インベントリ・マップ・クエスト一覧以外の画面遷移ってほぼないんです。
これは「思いついたこと大抵できる」を実現してるティアキンにおいて、プレイ画面が現実であり別画面への遷移はリアリティを損なうため、極力削るようなポリシーがあるのではないかと思います。
細かいところですが、こういうこだわりがティアキンの世界観を作ってるんですね。
2:待機ストレスが大幅に改善したロード画面
前作ブレワイのロード画面では冒険に関するtipsが紹介されており、退屈させない工夫が凝らされていました。
今作ティアキンのロード画面ではtipsに加えてロード前後の周辺マップも表示されるようアップデートされています。
ブレワイでのtipsだけでも十分に感じていましたが、これはゲーム側が一方的に投げかけるものであるためユーザーが受け身になってしまい「待たされてる感」が出てしまいます。
そして熟練したユーザーにとって、tipsは知ってる情報ばかりになり次第に価値を失っていきます。
今作ティアキンではここにマップをポンと投下し、「ワープが終わったらこの道から目的地へ行けそうだ」「あ、あの辺まだ行ってないかも」と言った具合にユーザーに思考を促すことで待機ストレスを大幅に減少させているのです。
これは本当に良い変更点でした!
3:オブジェクト指向・タスク指向が掛け合わさったインベントリ
インベントリでは、選択中のアイテムを手に取る・(食材なら)食べるといった2種類の操作ができます。
アイテムは最大5つ同時に持つことが可能です。
このアイテムを手に持つ操作について、「アイテム選択→手に持つ」導線の他に、インベントリのXボタンから「手に持つモード→アイテム選択」 という導線も用意されており、後者の方がやや手順が少なく効率的です。
前者はアイテムを起点とした直観的な操作が可能であることからオブジェクト指向なUIと言え、
後者は「料理をするために食材を持ちたい」といったように、タスクを起点としていることからタスク指向チックなUIと言えます。
UIの世界ではしばしば「タスク指向は悪だ」的な語られ方をする事がありますが、システムを使いこなした熟練ユーザーにとってはタスク指向UIの方が効率的な場合もあるように思います。
オブジェクトを見せつつタスク指向的な操作を忍ばせるこの設計は、様々な場所で流用できそうだと感じました。
まとめ
まだまだ紹介したい点はたくさんあるのですがキリがないためこの辺にします。
リアリティある体験設計自体も素晴らしいのですが、それに基づいた世界を作り込むには、一人一人が高いレベルでゲームの世界観を考察し、アイデアを実現させていく必要があると思います。
私もいつかこんな良い仕事をできるように精進していきます!