見出し画像

パラグライダーの選択について、もう一度深く考えてほしい ~第44話 パラグライダーで墜落 そして入院~

今回の記事は今パラグライダーをやっている人に向けた内容です。パラグライダーをやっている人にしか分からない専門用語も沢山出てきます。その点はご了承ください。

パラグライダーで飛んでいる人、特に今、2ライナーの機体に乗っている人、もしくは乗ろうか検討しているに一度読んでほしい内容です。そしてゆっくり考えてみてほしいと思っているという内容です。


〜グライダーの選択について~

死にかけた自分だからこそ、言えることがあると思っています。
「あなたのグライダーの選択、力量にあっていますか?」
この質問についてゆっくり考えてもらいたいんです。

考える時、自分の周りの人がどんなグライダーに乗っているかを基準に考えてしまう部分があると思います。

「まわりの同レベルのパイロットが同じようなグライダーに乗っているから、大丈夫だろう」
「自分と同じレベルくらいの人が、グライダーのクラスを上げたから自分もあげようと思っている」
「あの人くらいうまくなったら、自分もあの人と同じクラスのグライダーに乗ろう」

そんな風に考えてしまう部分ってどうしてもあると思うんです。でもこれって実はすごく危険なんじゃないかなと今の自分は思っています。

「周りがどんなグライダーに乗っているか」から自分の現在位置を考えるのではなく、「本当の意味で自分はそのグライダーがコントロールできるのか」で考えてみてほしいです。特に2ライナーに乗る人は大潰れをした時や、ストールに入った時にちゃんとリカバリーできるかを基準にして考えてもらいたいんです。

そういったリスクをちゃんと考えてもらいたいんです。ちなみに自分はこう考えていました。

大潰れが来ることはめったにないだろうし、なったとしてもリカバリーの動作はある程度できるから、何とかなるだろう。それがだめでもレスキューをなげればいい。さらに私はアクロバット技のヘリコに憧れていて、その練習を普段からしている。なので多くの人よりはストール、フライバック(テールスライド)の経験は豊富にある。だから他の人よりピンチを対処できる確率は高い。だから大丈夫だろう。

そう思ってました。

〜でも私は落ちました。そして、、、墜落の時、何も出来なかった〜

フライバック、ストールの経験があっても、CCCの大潰れからのグライダーのシューティングへの対応なんて全くできませんでした。完全に別の技術でした。あれはSIVで体が勝手に反応するくらい反復練習しないと得られない技術です。


〜2ライナーに乗っている方に質問です〜

・グライダーが大潰れした時、潰れた側のブレークコードを瞬時に適切な量と時間、引くことができますか?
・同時に生きている側に体重をのせつつ、グライダーが走っていかないように、適切な量のブレークを瞬時に引くことができますか?
・潰れた側の翼が戻った瞬間にグライダーはものすごい勢いで前に走ります。それを両ブレークを瞬時に思いっきり引いて、止めきれますか?
・止めた後、適切なタイミングでバンザイをしてグライダーを滑空状態に戻せますか?
・上記のすべての動作を、いざ潰れた瞬間に体が無意識に反応して、できる技量がありますか?実際にそういう練習してきていますか?

多分、上記の技量がある人は日本に数えるほどしかいないのではないかと思っています。そんな中で、Cクラスの2ライナーがでてきて、2ライナー乗りは一気に増えました。

落ちた私だから言えます。ちゃんとしたSIV訓練を受けずに2ライナーに乗るのはやっぱり危険です。

多くの人が乗っている、OZONEのPHOTON。本当に良いグライダーですよね。自分はまだ乗ったことないですが、周りの話を聞いていても、高性能なのにとても安定しているんだろうなと想像しています。Cクラスにのる技術がある人は乗れると思ってしまうのは自然です。

でもSIVの専門家が「ストール後のリカバリーはZENO2より難しい」と言っているそうです。Cクラスとはいえ、2ライナーは2ライナーです。潰れた後のコントロールはとても難しいはずです。そして高性能な分、シューティングのスピードは恐ろしく速いはず。そうなった時、コントロールできますか?いざって時にコントロールが出来ないのは本当に危険です。


〜想定外の落ち方をするかもしれない〜

私が墜落した時の話をします。
もう墜落した日の記憶はありませんが、墜落時の動画から自分が何を考えていたかはだいたい想像がついています。

レースがキャンセルになりみんな降ろすように無線で指示をされました。そのため何機かと同時進入になっていました。空中衝突を避けるため、他機との距離をとらなきゃ行けない状況でした。他機との接触を避けるため、本当はあまり飛びたくないなと思っていたであろう場所を通らざるをえない状況でした。乱気流リスクよりも空中衝突のリスクを優先していました。あの時はああするしかなかったと思います。そこで大潰れをくらいました。対地は約30m。地面に叩きつけられるまで5秒もなかったです。潰れた後の初動は反応していましたが、潰れが戻った後のシューティングを止められませんでした。ラインのテンションが無くなり、フリーフォール状態で何もできずにそのまま落ちました。シューティングを止められなかった自分にはリカバリー動作のチャンスも、レスキューを投げるチャンスも全くありませんでした。そして仮にもしシューティングを止められていても、、、結局は高度が低すぎて落ちていたと思います。つまり、潰れへの対応がうまくできていたとしても結果は変わらなかっただろうと思います。それくらい潰された高度が絶望的な高さでした。

もちろんタラレバはいっぱいあります。
・潰された場所を通らないコースもあったのでは?
・コースがなければその手前でターンしていればよかったのでは?
そういうのは沢山あります。でもそういうのって、振り返った今だから言えることで、その瞬間、瞬間での判断ではどうしようもなかったよな、と思っています。

何が言いたいかというと、

そういう絶望的な状況は確率はすごく低いけど、いきなりやってくることがある。そして次はあなたの番かもしれない。

ってことです。
すでに周りでCクラス2ライナーで落ちている人が何人かいます。幸い、みんな無事で怪我はなかったそうです。でもそれは運が良かっただけ。何かの要素が少しでも違っていただけで、無事では済まなかったかもしれません。

一方で、グライダーのクラスを一段階安全なやつに変えるだけで、その要素はクリアされるかもしれません。本当にピンチな時のグライダーのクラスの違いは、無事ですむのか、大怪我をするのか、はたまた亡くなってしまうのかの違いになるかもしれません。

なぜ高性能機に乗るのか、その理由をきちんと考えてほしい

自分はワールドカップや日本代表を目指して本気でパラグライダーをやっていました。だからこその素晴らしい経験も沢山することができました。なのでCCCのグライダーを選択して、レースに取り組んでいた事自体に後悔はないです。

でも、、、今振り返るとリスクへの認識が甘かったなと思う部分もあります。ちゃんとSIVを受けてから次のステップへ進むべきでした。

なので、これを今読んでいる方には

・自分はなぜパラグライダーをしているのか。
・パラグライダーの何が楽しいのか。
・パラグライダーで何を目標にしているのか。

そういった事をしっかりと見つめてください。そのために本当に高性能機が必要なのかをゆっくり考えてみてほしいんです。

もちろん必要とする人もいるでしょう。そういう人はしっかりと練習をして、ちゃんとSIVを受けて、相応の技術をつけてから乗ってください。

必要としないと思う人は是非グライダーをワンクラス落とす事を考えてください。
そこにはいざという時に決定的な差を生むことになるかもしれないんです。

〜自分みたいな思いをする人はいないほうがいい〜

私は本当に運がよかったと思います。あれだけの大事故で死なずにすみました。生きたとしても、半身不随になってる確率の方が遥かに高かった事故でした。なのに運動系に関わる深刻な後遺症もありませんでした。後遺症は主に左足の表面の触覚異常(麻痺感覚)だけですみました。
なので本当に幸運に恵まれて、自分はほぼ体が戻る予定です。

それでも辛い。めちゃめちゃ辛い。
体は大分動くようになってきて、今では歩行訓練で3km以上歩くくらいになってます。ほぼ毎日歩きに行っています。
それだけ回復した今でも、トレーニングの3回に1回は涙がこみ上げてきて、それに耐えるのに必死になってしまっています。

体だけじゃない、心にも、そして人生にも想像以上のダメージがきます。そのダメージの大きさは言葉にできないほどです。

みんなにはそんな体験をしてほしくないです。

周りもみんな乗っているからと、無自覚にそんなリスクを背負ってほしくないです。そのリスクの代償は想像もしない、絶望的な形でやってくるかもしれません。

不運にも私には来てしまいました。
そして次は、、、、あなたかもしれません。

最後にもう一度聞きます。
その性能、本当にあなたに必要ですか?
クラスを1つ下げてみませんか?

この記事を読んで、一人でも多くの人が正しいグライダーの選択をしてくれればと思います。


いいなと思ったら応援しよう!

前島聡夫/空飛ぶ写真家
フォローしてくれたら喜びます。サポートしてくれたらもっと喜びます!