見出し画像

地域の協業活動の立ち上げについて

前回は、「地域におけるブランドマネジメントの進め方」として、コレクティブ・インパクトのための3つのフェーズをご紹介しました。今回は一つ目のフェーズである「活動の立ち上げ」について、自分なりに学んだことを書いてみたいと思います。



地域の協業活動の立ち上げについて

コレクティブ・インパクトの3つのフェーズ

まず、これまでの記事で取り上げたコレクティブ・インパクトの振り返りから始めたいと思います。コレクティブ・インパクトとは、「異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたちのグループが、特定の社会課題の解決のため、共通のアジェンダに対して行うコミットメント」と定義されています。そのため、地域における協業活動において参考になる点が多いと個人的に考えています。

そして、コレクティブ・インパクトを実践する過程として、「Phase1: 活動の立ち上げ」「Phase2: インパクトに向けた組織化」「Phase3: 活動とインパクトの持続化」の3つのフェーズが整理されているようです。今回は、一つ目の「活動の立ち上げ」についてもう少し詳しく紐解いていきたいと思います。

Fay Hanleybrown, John Kanai, Mark Kramer, 2012, Stanford Social Innovation Review article "Channeling Change: Making Collective Impact Work"


Phase1: 活動の立ち上げ

活動の立ち上げ時には、地域が抱える課題を解決するための協業活動として、その取り組みの目的や成果を明確にすることが大切です。なんとなく属人的なネットワークだけでスタートしてしまうと、後々目的と沿わないステークホルダーが出てきて、調整に手間取ってしまう可能性も高いため、「地域の課題」から始めることをお勧めします。

コレクティブ・インパクトのPhase 1「活動の立ち上げ」(編集:AKIND 岩野)


① 戦略の立案

以前に書いた「地域での協業を推進するブランディング」で、共通のアジェンダの設定が重要であることに触れました。共通のアジェンダは、活動の中核を担う組織が個々にやろうとしていることや、地域プロジェクトに期待していることを把握した上で、組織がお互いに実感している共通の課題感から設定することが望ましいと考えています。

それらの課題を解決した後に達成したい将来像をビジョンとして明文化した上で、地域におけるさまざまなステークホルダーによる協業が必要であり、関わる組織が双方にメリットがあるという参加理由を整えることが大切です。そして、戦略の立案時に共通のアジェンダに沿った課題を実証するデータを絞り込み、協業の成果を把握できるような成功指標を設定できると理想的だと考えています。

② コミュニティの参画

地域での協業活動を立ち上げる際に大切なのは、その地域ですでに類似活動を行なっている主要プレイヤーの取り組みを尊重することです。設定した共通のアジェンダとつながりがありそうな地域の活動を発掘し、その活動を推進している主要プレイヤーの想いや苦労に耳を傾けるプロセスを通じて、地域プロジェクトで意識しなければいけないポイントや新たに想定すべき課題が炙り出されることがあります。

主要プレイヤーの活動をきちんと把握した上で、共通のアジェンダに沿った協業の機会を彼らが参加しやすい形で設定していきます。そして、お互いに期待値のずれが起こらないように、実証実験という限定的な形でプロジェクトをデザインし、段階的に試行を繰り返しながら、協業の最適な形を模索していくことが大切だと考えています。


③ 評価と改善

共通アジェンダに沿った活動が見える化できる、取り組み(実証時っけにゃイベント)が地域プロジェクトを推進するケースが多くあります。具体的な取り組みを実行する際、共通アジェンダに沿った実証実験の目的や成果を協業するステークホルダーや地域の主要プレイヤーと共有しておくことが大切です。あくまでも、課題の解決が協業の目的であり、現状と理想のギャップに対して共有認識を持ちながら、何を優先すべきかを把握できるように共通の価値観をお互いに持っておくことが、地域プロジェクトを継続させる重要な要因だと考えています。

この認識や期待値の共有が弱い場合、それぞれのステークホルダーの個別の思惑が前面に出てしまい、協業の不協和音が生まれてしまうケースの多々あります。ステークホルダー間で、共通アジェンダに沿った課題の解決における変化度合いを把握できるような成果指標を設定できれば、常に活動の取り組みの意義や課題をお互いに認識することもできます。何度も対話を重ねることで、この取り組みにおける共通の価値観は何かを認識し合うことが大切です。


④ ガバナンスと基盤

地域プロジェクトの推進には、行政・民間・市民などを横断できるような協業が必要となります。このようなセクターの横断を推進するには、地域で信頼され、多様な方面に影響力があり、リーダーシップを発揮できるようなキーマンに参画いただくことが重要です。当然、このリーダーの選定によって、ネガティブな要因も浮上してくると思いますが、地域での取り組みはやはり属人的なネットワークが機能するという現実もうまく活用する必要があります。

リーダー的存在が前面で地域プロジェクトを牽引する一方で、さまざまなステークホルダーが協業しやすい環境や関係性を形成するサポート組織の存在も重要です。事務局的な役割だけでなく、コミュニティ・マネージャーとしてのスキルや、行政・民間・市民などとの調整機能が求められます。活動の立ち上げ時には、前に引っ張るリーダー的存在と、実務を担うステークホルダーと、後ろで支えるサポート組織の3つに分けて、地域プロジェクトを設計する必要があります。


⑤ 継続的なコミュニケーション

地域プロジェクトの立ち上げ時では、余計な混乱が生じて調整に手間がかかるという想定から、情報を外に発信することを足踏みしているケースがよくみられます。しかし、地域プロジェクトを成功させるためには、なるべく地域での情報公開は積極的に行い、地域との関係の質を高める取り組みにも時間と予算を割く必要があると思います。情報を外に発信することを意識することで、地域プロジェクトの共通アジェンダや取り組みをわかりやすく伝える必要が出てきます。その効果は、地域プロジェクトに関わるステークホルダーとのコミュニケーションにも役立ちます。

地域プロジェクトを成功させるためには、なるべく正しいメッセージと情報を関わるステークホルダーが地域内で口コミしたくなる状態が望ましいです。地域では誰が何を言ったのかが力を持つことが多いので、知らないところで歪められた情報の拡散が起こり、地域プロジェクトの推進の妨げになることもあります。立ち上げ時期から、正しい情報の発信と地域内コミュニケーションの取り扱いを意識しておくことが重要だと考えています。



おわりに

今回は、コレクティブ・インパクトのモデルを参考に、地域での協働活動の立ち上げ時のポイントについて、書かせていただきました。AKIND社では、これまでも複数の地域プロジェクトに関わってきましたが、その中には失敗に終わってしまった苦い経験もあります。そのような反省を踏まえ、コレクティブ・インパクトのモデルに添いながら、注意すべきポイントを書き連ねてみました。今後はフェーズ2の「インパクトに向けた組織化」について考察してみたいと思います。


株式会社AKIND 代表取締役 岩野 翼

<この記事を書いた人>
岩野 翼 | Tasuku Iwano
株式会社AKIND 代表取締役 CEO / 神戸在住 / 二児の父
英国のBrunel University ブランディング&デザイン戦略修士課程終了。2014年に神戸にて株式会社AKINDを創業。ブランディングという手法は、より良い社会を創り出すために貢献できるのではないかと信じて、神戸から新しい試みに挑戦しています。