
妊娠8週。いまの自分を吐き出せる場所がどこにもない
意気揚々と初記事を書いてから更新が止まってしまったのは、年末に思いがけず妊娠が発覚したからだ。不妊治療に備えて11月に風疹の予防接種をしたばかりだったので、本来は2ヶ月あけて年明けの1月の生理開始から不妊治療クリニックにて妊活を始める予定だった。そのために10月から通い始めていた。
12月、フェムテックイベントで「シリンジ法」なるものを知った。
これまで半年弱ほど、性行為の回数を重ねても妊娠しなかった。なのでどうせ妊娠しないだろう、不妊治療が必要だろうという気持ちで、「練習」も兼ねてタイミングに合わせてシリンジ法を連続で行った。そうしたら運良く検査薬が陽性となった。
検査薬を使ったのが年末で、病院が閉まっていたので、年明けに診察に行った。淡々と「妊娠してますねぇー」と言われた。
そのときどう感じたかというと、正直実感がわかず、感情はあまりなかったように思う。夫が少し泣きそうな顔をしていたことがうれしかったくらい。
その2週間後、無事に心拍確認ができて、ありがたいことに高齢出産ながら初期のハードルを超えることができた。
なにも準備ができていなかったと思う。
私は1年前から友達に勧められた暗闇フィットネスにハマっていて、12月は久しぶりにほとんどの日を通っていた。やっぱり推しのプログラムは元気が出るなぁ、すごいなぁ、来年はもっともっと通おうと思っていた。
この1年はキャリアにとてつもなく悩んでいて、かなりの行動を起こした。
多くの人と会って、話して、自分なりの価値観も見直した。自分は開発チームとプロダクトを作るのが好きだと思い込んでいたが、それだけではないかもしれないと思い、積極的に「人」と関わることもした。朝8時に京都の友達から「会いたい」と連絡があれば10時の新幹線に乗って会いに行くなどもした。全然連絡を取っていなかった友達に連絡もした。自分が進むべき道を見つける過程で、腹が立ったり悔しくて泣くことも多かったし、悩みすぎて起きられない日、考えすぎて眠れない日も多々あった。
そんな中で、特に12月は、1年の集大成ともいうべきか、自他(=夫)認める、人生が変わった月だった。自分なりの人生の軸が見つかって、毎日それに向かえているかを確認しながら過ごすことができた。「朝起きてすぐ30分ウォーキング」という新しい習慣も身につけ、性格自体がポジティブに変わった。毎日日記も書き始めた。結婚式のときにメイクさんに教えてもらったメイク用品を新しく買って、これまでと違うメイクもし始めた。
沈んでいた2024年。努力したおかげで最高のラストを迎えることができた。
こんな私、2025年はああしよう、こうしよう、とたくさんやりたいことが出てきた。くすぶっていたぶん、放出しよう!とても楽しみだった。もちろんそのうちの一つに妊活はあったが。
妊娠してまず、口角炎に悩まされた。口が開けられないので食事が楽しくない。歯磨きがつらい。1ヶ月前に発症して、これを書いている今日、やっと治りかけているというくらい、しぶとい。おそらく明日になるとまた傷が開いていると思う。それくらいしぶとい。
体調が読めないことも悩ましい。3週目あたりは頭痛がずっと続く。4週目あたりは微熱がずっと続く。5週目はずっと眠い、そもそも頻尿で夜起きてしまうので眠れない。のどがめちゃくちゃ乾く。6週目、おならがめちゃくちゃ出る。7週目、初めて「気持ち悪い」と感じる。お腹がちょっと痛い。
仕事では、報告なしに過剰に配慮されたり、されなかったりしている。なぜかもうすぐ産休に入ると思われ、頼んでもいない人員補充が勝手になされるなどして、相変わらず悔しい思いが続く。でも自分としても体調が読めないので、なにをどうすることもできない。今このタイミングで、人生に影響を与えるような重大なアクションをとることも控えたい。1月からは楽しみにしていた起業プログラムに参加する予定だったが、あまりの体調の読めなさに始まる前から気持ち的に挫折した。
今年もインフルが流行っていて、妊娠のことを考えると外には出づらくなる。人が集まる場も避けたい。ジュースばかり飲んでいるからか、体重が3週間で3kgも増えた。なにを食べても飲んでも同じ体重をキープし続けていることが密かな自慢だったのに。朝ウォーキングは続けているが、暗闇フィットネスには行けなくなった。家にいるので、メイクをしなくなった。おしゃれするモチベーションがわかなくて、毎日ほぼ同じ服を着ている。2ヶ月後に友達が私のためにパーティを開いてくれる予定だったり、結婚式の招待があったりするが、先のことについて返事をするのが難しい。毎日だらだらしているように感じる。身体がだるいし、そういう時期なのだから仕方ないのだけど。
元気を出したくて、ECサイトで大好きだったブランドの服を見るが、どうせすぐに着られなくなるしなぁと数時間スクロールだけしまくって閉じる。暗闇フィットネスに行けなくても筋トレくらいは…と思って近くのパーソナルを探すが、お腹に負荷をかけない筋トレなどストレッチくらいではないか?と思い探すのをやめる。ヨガやピラティスは安定期に入ってからとのこと。私はヨガもピラティスも苦手なので選択肢に入らないのだが。
毎日、「妊娠 仕事」「つわり 仕事」などで検索をしては体験談を見まくる。
12月から書き始めた日記。仕事や読書で学んだことや、こうなりたいという目標のメモ、ほしい物リストでびっしりあふれていた。
1月からは、毎日の体調のメモしか書けなくなっていた。何週目何日、眠いとか、熱があるとか。このために日記を始めたんじゃなかったのに、嫌でも自分の体調が最優先の日々になる。
夫はすべてにおいて支えてくれる。毎日優しい。妊娠したことも喜んでくれる。私はそれに合わせて嬉しそうにする。
全然準備ができていなかったように思う。
妊娠は授かり物であるから、準備ができる人なんて誰一人いないが、この変化を自分はどうしてポジティブにとらえられないのだろう?
高齢出産の私たちが、ありがたいことに授かれて、喜んでこの貴重な時間を過ごしたらいいのに。今はこんな時期なんだと、大事に1分1秒を過ごしたらいいのに。体調が不安定なのだから好きなように過ごしたらいいのに。
妊娠のおかげで仕事にちょっと余裕があるから、作ってみたかったプロダクトを作ってみようと思ってPCに集中しようとしても、目がチカチカしたり眠くてなかなか集中力が続かない。
食事を作ってくれる夫のためにせめて家の掃除くらいはしておこうと思ってもできればYogiboにもたれかかっていたい。
ごはんに誘ってもらって嬉しくてもどうなるかわからない体調が不安で、ごはんの間、ちゃんと笑っていられるのかと心配になる。
「気持ちの問題だ!」と思って、妊婦である自分を忘れて元気に過ごそうとしても、お腹がきゅっと痛んで現実に引き戻される。
なにかしなきゃ、と思って、妊娠中の目標を立てようとする。でもすぐに、明日できるか、明後日できるかが予測できずに計画をたてるのをやめる。
役所で妊娠手帳をもらったときのアンケートで、「妊娠がわかったときの気持ちは?」の選択をするときに、夫が見ている隣で「嬉しかった」に丸をつけることに少し抵抗があった。でもだからといって「嬉しくなかった」わけではないのだ。
妊活しなかったらよかったとは一切思わない。望んでいたことだからありがたいと思っている。これまで仕事ばかりだった人生に、変化ができることもうれしい。ありがたく産まれてくれたら、どんな名前にしようか、どんなふうに可愛がろうかと考えることも楽しい。
でも今の自分は泣いている。
妊娠に至らなかったのではなく。
つわりでつらいわけでもなく。
なんと贅沢なんだろう。
うれしいとか、悲しいとかの感情はない。
だけど涙が止まらない。
週末に会う友達にはおめでとうと言われるから、私は笑顔で喜び体調の変化などを嬉しそうに話すのだろう。
妊娠したことを知らない(安定期に入るまで報告するまでもない)仕事相手からのオンラインイベント主催の依頼には、「あなたしかいない」のセールストークに応えていつもどおりの明るい自分を演じて引き受ける。
夫には、楽しみだねと今日も笑顔をつくる。
何一つ嘘じゃない。
こんな今の自分を吐き出す場所がどこにもない。
ここを思い出して、縋るように書いている。
明日元気だったら、メイクをして、ちょっと肌寒くてもまともな服を着て外に出よう。
明日元気だったら。