結局、語学学習の秘訣って?――20言語以上学んで分かったこと

ここで分かること
この投稿では、20の言語を学んできた筆者の語学学習の秘訣として、音読を挙げます。これまで20の言語を学んできて、最も上達した英語(TOEICは800点以上)とスペイン語(大手語学学校スペイン語講師登録、スペイン語指導経験)では、音読をしてきました。どんなに会話の量をこなしても、正しくその言語を理解し話すことはできません。具体的に音読するべき語学学習書は、文法書の例文単語帳です。


はじめに

 語学学習は「なりたい私」になる、つまり最も自己実現に適(かな)うものである。たとえば、日常的に仕事で必要になるから英語を学ぶ、大学で英語が必修だから学ぶ、中学や高校で英検(実用英語技能検定)を受けて高校や大学に進学するために学ぶ、純粋に、語学が好きだから学ぶ。この「なりたい私」になる過程の語学学習は――仮に今、少しでも語学学習に向き合おうとしている/向き合っているならば――、私は怠惰の欲望に対して控えめで、そして自分が最も輝く瞬間である。
 こうした語学学習が「なりたい私になる」自己実現の最たるものであるからこそ、世間では様々な語学学習法が提案され続けている。たとえば、「ネイティブは言わない?ネイティブが使う英語を学ぼう!」とか「語学学習にAI chat GPTは最強!」とか、SNS上で流れてくる「教科書英語v.s. ネイティブ英語」など。ここで筆者はこの状況を〈アイディアの洪水〉と呼ぶことにしたい。つまり、語学学習においてアイディアが洪水のごとく溢れ出ていて、最小限の規律(discipline)で最大の効果を上げることができない状況であるということ。具体的には、未だアイディアが洪水のように溢れ出てくるということは多くの語学学習者にとって語学学習の成果を身近に実感できない(リアルではない)ということ。
 語学学習に関して、筆者の自分自身が成果を身近に実感できる学び方を探求してきた。これまで、20以上の言語を学んできた。具体的な内訳は次の通りである。

英語、スペイン語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語、カタルーニャ語、ガリシア語、プロヴァンス語、古典ラテン語、俗ラテン語、古代ギリシャ語、ドイツ語、ロシア語、古代教会スラブ語、インドネシア語、韓国語、漢文、文語アラビア語、ベルベル語、ズールー語、他

これらの言語学習において、均一に上達したわけではないことは強調しておきたい。たとえば、英語はTOEIC(L&R)で800点以上を取得した。スペイン語に関しては、語学学校でスペイン語講師として講師登録をしたり、あるいはいくつかの授業を担当したり、これまで個人として

  1. 大学非常勤講師にスペイン語レッスン(初級)

  2. 社会人にスペイン語レッスン(中上級)

  3. 元スペイン語学科学生にスペイン留学準備のレッスン(上級)

などを担当した。また、専門学校でスペイン語コースを専攻し、大学外国語学部でスペイン語学科に在籍し、スペイン語学を修め、大学院でも学んだ(科目履修生)。他、イタリア語は大学で1コマ1単位のイタリア語の授業で、8コマ全て100点を取得した。一方で、ポルトガル語やロシア語などは大学でも専攻したけど「得意」とか「できる」とは一切思えない。

 このように、これまでの語学学習でも「得意」だったり「習得できた」言語があれば、できなかった言語がある。本稿ではそれぞれの語学学習歴、20の言語を学んできた学習方法を顧(かえり)みて分かった〈効果的な学習方法〉について言及する。

各言語の学習歴(リスト)

 これまで学習してきた言語のいくつかの学習歴(学習方法)についてリスト的に書き留める。それぞれの言語で言及することは、1.学習動機、2.上達度、3.学習方法の3つである。ここでのリスト化の目的を、個人的な語学学習における上達度と学習法の関連を観ることとする。

  • 英語

 英語は中学1年生の頃から始めた。中学で英語が義務教育として学ばなければならなかったから。専門のスペイン語と比べると、英語はあまり好きではない。しかし学習塾では英語講師として採用されている。資格はTOEIC(L&R)805点。TOEICで800点以上を取るために取り組んだ学習法は、同じ『公式問題集』をそれぞれ5回繰り返して解き、音読をしたことである。


  • スペイン語

 専門学校、大学、大学院(科目履修生)として専攻した言語。大学のゼミナールはスペイン語学である(研究テーマは、clitic seの自動詞化問題である)。本当はイタリア語を専攻したかったのだけど、イタリア語の大学に落ちてしまったので、似ているスペイン語を専攻した。大学・大学院を終えたあと、語学学校で講師登録をしたり、実際にある語学学校でスペイン語を教えた。また、個人的にもスペイン語の指導をしている。スペイン語を専門として学ぶスペイン語教材は次の通りである。これらは、スペイン語学で大学院受験を考えている人にはオススメである。スペイン語の学習方法として専門学校と大学で一貫していたのは音読と作文である。しかし個人的には、スペイン語作文よりも音読の方が効果が高かったと感じている。


  • イタリア語

 大学の語学科目として履修してきた。1コマ1単位のイタリア語の授業を合計8コマ受講し、全て100点を取った。具体的に使用してきた教材は次の通りである。そして具体的な学び方として音読と暗唱が挙げられる。たとえば、苦手な文法の箇所(遠過去)などの例文は音読し暗唱すること


  • フランス語

 スペイン語学(言語学の一つの分野)の研究の際、私はフランスで行われてきた言語学の動向を押さえた。したがってフランス語の学習は研究でフランス語の文献を読めることが優先であった。私は、辞書を使いながらフランス語を読むことはできるが、あまり音読と暗唱をしてこなかったがゆえ、話すことは苦手であるし、フランス語にとって命である発音も下手である。

  • ポルトガル語

 大学のポルトガル語の授業を2年間履修していた。評価は85点から90点ほどである。ポルトガル語で書かれた言語研究の文献は読める(スペイン語で言語研究の文献が読めれば、中級程度のポルトガル語文法を理解しておけば読めるだろう)。しかし、ポルトガル語を音読し暗唱する経験は乏しかったため、発音や会話に不自由を感じる。

  • ロシア語

 大学の第二外国語でロシア語を3年間、専攻していた。受講した講座は「ロシア語地域特講」や「上級ロシア語」などである。大学卒業後は、次の本を使って書写をしつつ音読をしてきた。個人的には、単語力が圧倒的に欠如していて課題だと思う。


ロシア語のノート
ロシア語のノートと修正
  • ドイツ語

 2024年7月と8月に、次の初級のドイツ語の文法書を3回音読して学んだ。一語一句読み飛ばさずに音読をして、それを3回繰り返した。単語や文法を音読ベースで学んだため、これまで文字で学んできたポルトガル語やフランス語よりもより良く理解できた感じがする。

  • 漢文

 中学と高校で学び、専門学校と大学で離れたものの、社会人になり講師の仕事をするようになってから学習を再開した。学習の際、どうしても黙読して漢文を学びがちだったが、この面倒臭さを乗り越えて声に出しながら音読するようにしたら、漢文の理解と読みの実践が開花した(と思う)。もし漢文で曖昧にしているところがあれば面倒くさがらず声に出して訓読をする。すると理解していなかった読みが浮き彫りになる

  • インドネシア語

 2019年3月から学習している言語。コツコツ続けてはいるものの音読をしていないため効果は無に等しいと思う。一度、集中して音読すれば効果はあると思う。

多言語学習で見えてきた語学学習の秘訣

 こうしていくつかの言語学習をリスト化してみると、英語とスペイン語、イタリア語、ドイツ語とロシア語、漢文が得意なのかもしれない。これらの言語の学習では、圧倒的に音読をしてきたというのが大きい。TOEIC(L&R)では800点以上を取得できた。こんな私がTOEICで800点以上を取得できるとは思っていなかった。私には「才能」がないと、誰とも変わらない考えを抱いていた。しかし英語に関しては偶然、音読だけは続けてきた漢文は指導する立場として深い知識と読みが求められるが、音読がそれを可能にしてくれたように思う。というのも、先述の通り、面倒臭さを乗り越えて声に出して音読をしたら漢文の読みが開花した。言語教育者である黒田龍之助は次のことを述べている。

教育は流行り廃れの激しい世界だが、日本ではすでに何十年も「暗記教育」が敵視されている。意味も分からず、ただただ暗記をするのは無駄であるばかりか、学習者の創造性まっで奪うとでもいうように嫌われる。その代わりに、なにやら与えられたテーマを闇雲に調べたり、未熟なプレゼンテーションをさせたりすることが、推奨されるようになった。だが外国語教育についていえば、暗唱は欠かせない。というか、暗唱してこなかった学習者の外国語は、底が浅いのだ。(太字 引用者)

黒田龍之助(2023)pp. 65-66, 『ロシア語だけの青春』東京:筑摩書房. 

 先ほど、スペイン語の学習歴のところで「スペイン語作文よりも音読の方が効果が高かった」と書いた。というのも、作文は書くたび修正されるばかりで、なかなかより良い作文が書けるようにはならなかった。たしかに、初めからスペイン語の教科書を音読し暗唱していれば修正に翻弄されることもなかっただろう。まさに「暗唱してこなかった学習者の外国語は、底が浅い」という黒田龍之助の言葉が心に刺さる。
 結局、フランス語とポルトガル語を比較的専門として学んできたにもかかわらず習得ができなかった理由として、音読をしてこなかったからだと思う。そして今からでもフランス語の文法書や会話の教材を音読すれば変わるだろう。

どの語学書を音読するべきか

 音読の重要性が浮き彫りになったところで、語学学習における音読の実践の方法へと移る。どの語学書を音読するべきか
 先ほど、ドイツ語の学習で示した文法書は非常に分かりやすく簡単な本である。どんなに厚い語学書を「黙読」し「目で見て覚える」よりかは、簡単な語学書を3回から5回ほど音読するのが効果的である。1回目は、とにかく語学書を音読して読み切るので精一杯。2回目は、少し楽になるけど身についていない。そして3回目で身につくきっかけを得る。もし3回で足りなければ、5回ほど音読する。薄い語学書を全て音読すると、経験上、1日2時間を2日間要する。しかし、たったそれだけで一冊の文法を押さえることができる

 

ポイント
厚い語学書を黙読するよりも、薄い語学書を音読すること

どのような音読学習が有効か

 では、具体的にどのような音読学習が有効か。
 それは、薄い語学書と単語帳の1冊ずつを音読して1回は読み終えるということ。とにかく、最初の1回は大いに苦しむ。なぜなら、その語学書と単語帳の内容を知らないから。1冊の本なのに、まさしく未知である。だからとにかく決めた単語帳を1回音読すること、語学書を1回音読することを目標に。そして2回目は、1回目より慣れて先を予想しながら音読するゆとりが生まれる。そして3回目、4回目、5回目へと進む。
 たとえば、1時間の勉強のうち、薄い語学書の音読を30分、単語帳を30分としてみる。これを1ヶ月続ければ、語学書も単語帳も1回は終わるのではないだろうか。この重々しい1回を、たった1ヶ月で終えられるのは、大きいのではないだろうか。普通だったらきっと、一生終えることが叶わない。

ポイント
薄い語学書と単語帳を用意して、音読して1回は読み切る。最初の1回は、重々しく苦しいことを自覚しておくこと。1時間の学習のうち、30分を薄い語学書の音読と単語帳に当てる。1ヶ月続ければ、あの重々しい最初の学習も終えているだろう。まずは初学において全体像を網羅すること。

 最後に、これまでの投稿については次を参照。


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