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【小学生でも分かる】トイレットペーパーは足りる。その証明をしましょう。

「うわさが広まるのは、ひとえに情報不足によって不安が解消されないことが原因である。不安を鎮めるためには、その原因を取り除くしかない。」
ーー関谷 直也、東京大学大学院 情報学環総合防災情報研究センター 特任准教授

原因は、情報不足です。


「足りるから大丈夫」と言われても、「足りないだろう」と不安に思う人には説得力ゼロです。

ならば、証拠となるデータを揃え、わかりやすく説明することが大事だと思います。


今回の噂の内容

今回噂とされている内容は、概ねこんな感じです。

1・「紙の原材料は主に中国から輸入なので、中国からの輸入に制限がかかれば生産量が大きく減る」

2・(1からの派生)「トイレットペーパーは中国からの輸入が多いので、中国からの輸入に制限がかかれば供給量が大きく減る」

3・「生産量が多くないから早く買わないと買えなくなるから困る」


不安を取り除くための調査項目

噂の内容を読むと、不安に思う人は、おそらく「紙の原料の中国依存量が大きい」、「トイレットペーパーは中国の輸入に頼っている」、「日本国内の生産能力が心配」という懸念があるはずです。


なので、そういう人達を安心させるには、まずは

「紙の原材料の輸入依存率」
「紙の原材料の中国からの輸入割合」

次に

「国内のトイレットペーパー生産量」
「国内のトイレットペーパー消費量」

を調べて、正しい情報を提示する必要があります。


なお、上記のデータは、ネットで調べると一発で公式の統計情報にたどり着けることが、今回の作業でわかりました。

そこで、日本製紙連合会のサイトや、経済産業省の生産動態統計データなどを元に、今回の調査内容をまとめましたので、ご覧ください。

ちなみに、今回の参考資料は全て文末に記載していますので、気になる方はぜひその資料を合わせてご確認ください。


紙の原材料(パルプ)の輸入依存率

まずは、紙の原材料である「パルプ」の輸入依存率を調べましょう。

日本製紙連合会HP「パルプ生産・輸入推移及び輸入依存率」には、グラフ表とともにわかりやすく説明してあるので、そのまま参考します。


噂: 「紙の原料の中国依存量が大きい」
答: 日本のパルプは、8割以上が国産です。

説明: 紙の原料(パルプ)の輸入依存率は、日本製紙連合会によると2015年度〜2018年度では概ね16%~17%前後で横ばいです。



紙の原材料(パルプ)の輸入先

紙の原材料の8割以上が国産ということが確認できました。

しかし、不安に思う人は「でも2割が中国産に頼っているでしょう?」と聞いてくるかもしれません。

そこで、その2割弱のパルプの輸入先に、一体中国はどのくらいのシェアを持っているのかを調査する必要が出てきました。

幸い、日本製紙連合会HP「パルプ生産・輸入推移及び輸入依存率」にも、輸入先を紹介しているので、そのまま参考します。


2割弱の海外産パルプの輸入先ランキング

1 米国       31.4% 北米
2 カナダ      23.2% 北米
3 ブラジル     16.7% 南米
4 チリ         8.4% 南米
5 ニュージーランド   4.7%
6 インドネシア     4.5%
7 ロシア        4.3%
8 その他        6.9%

このランキング表でわかったことは、2つあります。

1・海外産パルプのうち、中国産は、極めて少ないこと。
2・海外産パルプのうち、8割弱は北米と南米からの輸入であること。

つまり、仮に中国からの輸入が制限されても、日本国内の生産には全くダメージを与えません。


噂:「紙の原料の中国依存量が大きい」
答:「2割の海外産パルプのうち、8割弱が米州産です。」

説明:紙の原料の2割の海外産のうち、中国からの輸入はその他に分類され、その割合は6.9%以下であることが確実です。


国内トイレットペーパーの生産量と消費量

紙の原材料であるパルプに関する調査で、8割が国産で、2割の輸入のうち8割弱が米州産、中国産は実質6.9%以下であることが分かりました。

次に調査するのは、トイレットペーパーの国内生産量と国内消費量です。

トイレットペーパーの国内生産量が国内消費量より上回れば、「トイレットペーパーの中国輸入が多い」と「日本国内の生産能力が消費量に追いつかない」が間違った情報(デマ)であることは証明できます。


では、国内生産量から調べてみます。

- 国内トイレットペーパーの生産量

トイレットペーパーの国内生産量に関する統計データは、経産省の生産動態統計から確認できます。

生産動態統計を参考に、去年2019年の1月〜12月の生産量と、年間生産量、月間平均生産量を掲載します。

単位は、t(トン)です。

2019年1月 83,800t
2019年2月 84,678t
2019年3月 91,780t
2019年4月 87,703t
2019年5月 89,944t
2019年6月 85,950t
2019年7月 87,782t
2019年8月 86,289t
2019年9月 90,373t
2019年10月 91,504t
2019年11月 89,823t
2019年12月 88,796t

2019年合計 1,058,422t
2019年月平均 88,202t


去年一年の年間生産量1,058,422t、平均月間生産量88,202tです。

トンだと分かりづらいので、ロールに換算します。


簡単な数学を使ってザクっと計算します。

参考情報
1・トイレットペーパーに関する規格、JIS(日本工業規格)P4501では、1㎡あたり18g以上、紙幅 114mmと定めています。
2・エリエールのトイレットペーパー(シングル)では、1ロールの長さは60mと定めています。

定義:
1ロール = 60m × 0.114m = 6.84㎡
1㎡の重さ = 18g
1t = 1,000,000g

計算:
88,202t × 1,000,000g ÷ 18g ÷ 6.84㎡ = 716,390,513ロール

結果:
月間生産量は、7億1639万513ロールです。


平成27年度の国勢調査では、日本の人口は1億 2709 万 4745 人です。(在住外国人175万2368人含む)

716,390,513ロール ÷ 127,094,745人 = 5.64ロール

1人あたりの月間供給量は、5.64ロール


次に、国内消費量を調べます。

- 国内トイレットペーパーの消費量

トイレットペーパーの国内消費量に関する統計データは、経産省の生産動態統計から確認できます。

生産動態統計を参考に、去年2019年の1月〜12月の消費量と、年間消費量、月間平均消費量を掲載します。

単位は、t(トン)です。

2019年1月 81,361t
2019年月 84,089t
2019年月 91,220t
2019年月 91,457t
2019年月 86,618t
2019年月 83,948t
2019年月 90,899t
2019年月 86,864t
2019年月 98,859t
2019年月 87,698t
2019年月 84,335t
2019年月 90,889t
2019年合計 1,058,237t
2019年月平均 88,186t

去年一年の年間消費量1,058,237t、平均月間消費量88,186tです。

トンだと分かりづらいので、ロールに換算します。

定義は生産量のと同じなので割愛します。

計算:
88,186t × 1,000,000 ÷ 18g ÷ 6.84㎡ = 716,260,558ロール

結果:
月間消費量は、7億1626万558ロールです。


- 平均月間月末在庫量

平均月間生産量と平均月間消費量を計算したので、生産能力が消費量を上回るかどうかは、それを相殺して月末在庫量(売れ残り)を計算すれば分かります。


定義:
平均月間生産量 = 716,390,513ロール
平均月間消費量 = 716,260,558ロール

計算:
716,390,513ロール - 716,260,558ロール = 129,955 ロール

結果:
平均月末在庫量(売れ残り)は、12万9955ロール


では、お答えしましょう。

噂:「日本国内の生産能力が心配」
答:「国内の生産能力は消費量を上回っています」

説明:2019年度の平均月間生産量から平均月間消費量を引いた「平均月末在庫量(売れ残り)は、12万9955ロールです。


国内の最大生産能力と最大消費実績の比較

通常通りの消費であれば、生産量は上回っているので、月末には必ず売れ残りが発生します。

ただし、不安に思う人はさらにこう心配するでしょう。「消費量が大きくなると、果たして生産量は追いつくのでしょうか」?「「最大月間生産量」はどれくらいあるのでしょうか?」

これを解決するには、「最大月間生産能力」と「最大月間消費実績」を比較しなければいけません。


- 推定国内月間最大生産能力の計算

最大月間生産能力については、実際のデータが見つからないため、こちらでは、直近の「月間最大生産実績」と「製紙工場の平均稼働率」を使って、「推定国内月間最大生産能力」を計算してみます。

参考資料
経済産業省の生産動態統計では、2014年から2019年の間で、最大の月間生産量は、2018年3月の94,963tでした。
日本製紙が「生産能力2割削減」を決めた事情(2018.5.31 東洋経済)によれば、稼働率は約87%です。

定義:
月間最大生産実績 = 94,963t (2018年3月)
稼働率 = 87%

計算:
94963t ÷ 87% = 109,125.873t
109,125.873t × 1,000,000g ÷ 18g ÷ 6.84㎡ = 886,337,500ロール

結果:
推定月間最大生産能力は、10万9125.873トン、
8億8633万7500ロール


- 推定月間最大生産可能数と月間平均消費量の比較

通常通り消費する場合では、仮にフル稼働して供給量を増やした場合、月末の在庫量(売れ残り)はどれくらいになるのか計算してみます。

定義:
推定月間最大生産可能数 = 886,337,500ロール
2019年度月間平均消費量 = 716,260,558ロール

計算:
886,337,500ロール - 716,260,558ロール = 170,076,942ロール

結果:
想定月間月末在庫量(売れ残り)は、1億7007万6942ロール

 ここで分かったのは、平均消費量は平均生産量より僅かの差で少ないのは製紙メーカーが過剰供給にならないために需要に応じて、常に稼働率を調整していることです。


- 推定月間最大生産可能数と月間最大消費量の比較

では、月間最大消費実績との比較もしましょう。

参考資料
経済産業省の生産動態統計では、2014年から2019年の間で、最大の月間消費量は、2015年12月の98,474tでした。

定義:
推定月間最大生産能力 = 109,125.873t
最大月間消費量 = 98,474t

計算:
109,125.873t - 98,474t = 10,651.873t
10,651.873 × 1,000,000g ÷ 18g ÷ 6.84㎡ = 86,516,187.4594ロール

結果:
想定月間月末在庫量(売れ残り)は、1万651.873トン、8651万
6187ロール。


- 生産能力が心配という声に対する答え


噂:「日本国内の生産能力が心配」
答:「通常でも、最大消費時でもフル稼働すれば普通に余りますので、心配いりません

説明:通常時では平均月間売れ残りは12万9955ロール、メーカーがフル稼働して生産すれば推定月間売れ残りは1億7007万6942ロール、仮に最大消費実績が発生しても、8651万6187ロールが売れ残られるはずです。


1人あたり平均月間消費量

普段トイレットペーパーはどれくらいの頻度で買っているのか、家計簿をつけている人であればすぐに分かると思います。

こちらでは、特につけていない人や、調べるのが面倒な人にも、安心できるように、トイレットペーパーはどのくらい買えばいいかを調べてみました。

消費量は毎月の変動があるので、年間通じての平均値をとって、計算します。

日本国内在住人口は、平成27年度の国勢調査の結果を参考します。

参考資料
平成27年度の国勢調査では、日本の人口は1億 2709 万 4745 人です。(在住外国人175万2368人含む)

定義:
日本国内在住人口 = 127,094,745人
平均月間消費量 = 88186t
1t = 1000000g

計算:
88186t × 1000 × 1000 ÷ 127,094,745人  = 693.86g
693.86g ÷ 18g ÷ 6.84㎡ = 5.64ロール/人月
12ロール(1袋)÷ 5.64ロール/人月 = 2.13/月

結果:
1ヶ月の平均消費量は1人当たり約693.86g、5.64ロール、0.5袋。

つまり、

問:「独身者の購入頻度の目安はどれくらいでしょうか」
答:「独身者は、2ヶ月に1回購入を購入目安とします」

説明:独身者は、平均2ヶ月に1回トイレットペーパを購入します。言い換えると、1袋を買えば、独身者は平均で2ヶ月以上買わなくても大丈夫です。

ちなみに、1日の半分以上を職場、学校で過ごす方であれば、トイレットペーパーはその時は自宅のものを使わないので、理論上もっと持つはずです。

また、男女の消費量に差はありますが、ここでは省略します。詳しく知りたい方は文末の参考資料から探してください。


世帯別トイレットペーパー月間需要量

独身世帯は、買いだめしなくても1袋の在庫があれば2ヶ月ぐらいは耐えられます。

次に、簡単に各世帯の月間需要量をまとめてみました。

独身   5.64ロール 0.5袋  1841万8000人(平成27年度国勢調査)
夫婦2人 11.28ロール 1袋   
家族3人 16.92ロール 1.41袋
家族4人 22.56ロール 2袋



総結

1、トイレットペーパーの原料の8割以上は国産。
2、2割弱の輸入の中では、北米と南米が8割弱を占め、中国は圏外
3、生産量は消費量を参考に調整しているので、概ね1対1、生産は少し多め
4、推定最大稼動時に最大消費量が発生した場合でも、月末にはかなりの数の売れ残りが発生します。また、最大生産実績は平均より1割以上あるので、通常生産能力のピークは来ていないはず。(仮に割合の少ない中国からの原料が止められても余裕に対応できる)
5、独身世帯は、1袋12ロール買えば2ヶ月持つ
6、二人世帯は、1袋12ロール買えば1ヶ月持つ
7、本当に必要な世帯、つまり家族4人以上の世帯に購入を先に譲ったほうがいいかもしれません。

8、日本家庭紙工業会からのお知らせを読んでください。

9、ネット使えるんだから検索くらいしましょうよ


参考資料
風評被害―そのメカニズムを考える(光文社新書) 2011.5 関谷直也
経済産業省生産動態統計 時系列表 2014年12月~2019年12月 (2020.2.18 経済産業省)
荷主業界ごとの商慣行・商慣習や物流効率化の取組状況の調査報告書~ 紙・パルプ編 ~(2017.3 株式会社野村綜合研究所)
製紙産業の現状>パルプ(2018 日本製紙連合会)
平成27年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要(総務省統計局)
エリエール トイレットティシュー
日本製紙が「生産能力2割削減」を決めた事情(2018.5.31 東洋経済)
日本家庭紙工業会からのお知らせ(第2報)「トイレットペーパー、ティシューペーパーの供給力、在庫は十分にあります」(2020.3.2 日本製紙連合会)
日本工業規格JIS P4501-1993トイレットペーパー
azfit なるほど!ものしり博士 紙のトリビア02.トイレットペーパーの年間使用量はどれくらいですか?

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