デザイン本の名著|デザインの輪郭
はじめに
建築設計事務所を構えて仕事をしています。仕事なのか趣味なのか、たくさんの建築・インテリア・プロダクトの本を読んできました。ちょっと愛読している本をいくつか紹介させてください。
未読のものがあればぜひ。
一冊目は深作直人著『デザインの輪郭』です。
テーマをくれた本
建築の専門書って難しいんです。哲学書と一緒で言い回しが独特。また専門用語や建築史も理解していないと読めません。
なので、読後も結局わかったような、わからないような感想しか残らないなんてことが多いものです。うーん難しいな・・・若干うんざりしていた時に手に取ったのがこの本でした。読後は清々しかったです。
当時の私は、まだ夜間の専門学校生で昼間は組織設計事務所でアルバイトに励んでいた31歳。
「デザインとはなにか?」今も続く疑問の入口にいました。
若い学生の特権のようなリアリティのない無邪気なデザインをするには社会経験あるので抵抗感が湧きますし。自分の建築への能力・適正に対しても冷静に判断しなきゃいけない(設計者になるにはスタートが遅いので夢を見ていられるほど悠長な状況ではなかったです)。そして、なにより早く実務経験を積まなくてはと焦りがあるという。なかなか複雑な状況にいました。
でも、この本をきっかけにして『人の心理とデザイン』というデザイン観をテーマとして持とう。それはきっと自分にもできるんじゃないかと頭の整理
ができたという。影響力抜群な一冊でした。
抽象概念からの造形
この本では無意識について多くふれられています。
デザインの過程を言葉にする難しさ。デザインは最終的には現物として目の前にできてくるわけですが、最初は誰でも抽象的な世界にあるものです。
ローリングストーンズのギタリスト、キース・リチャーズは『曲はある時、降ってくるもんだ。』と言っています。無意識化から意識化への移行を説明なんて私にはできないですが。小さな頃に絵を描いている状態はかなり、この無意識と意識が曖昧な気がします。ほとんど無意識で書き上げていたような。そもそもデザインとはそういった無意識領域のものかもしれません。
一方で、今仕事としてやっているデザインは、依頼された与条件や目的を意識してから、なんとか一度、無意識化に自分を置こうとしているように思えます。本書にある通り「できるだけ考えない」こと。浮かんでくる像を忘れないようにスケッチでメモしておいて発展させていく。
深澤さんのように優れたデザイナーとは行かないまでも、過程そのものは同じです。
いろいろと必死にやってデザインの像が浮かばない時は、私の場合は散歩したりお風呂入ったりと関係ないことした方がいい。思考を一度カットオフした方がむしろ、ひょんな時に思いついたりします。不思議なもんです。
本書は、安直なデザインの方法論ではなく。デザインが言語化などできないことを前提とした思考の過程を見せてくれている。そのスタンスに何より共感できた。自身同様に学生の方にこそおすすめだと思います。
才能とは
本書から離れますが、では才能とは何だろう?と思います。仮に無意識化で発想する像の優劣を才能と呼んだとすると、おそらくはそれまでの人生の積み重ねによる無意識化の自分が才能を持つか持たないかを問われることになります。付け焼刃に意識化の自分が何かをしても、才能はすぐに得られるものでもないように思えてきます。
無意識化ですから、自分自身でありながら才能を意識することは実はできないみたいな話もできてしまいます。これは本書から心理学へと分け入っていけそうなテーマです。
何度読み返しても都度発見があり、考えさせられる。
まさに名著だと思っています。深澤さんこの本を書いてくれてありがとうございます。ものすごく楽しませてもらっています。