「1day彼氏は魔法使い」 第1話 #創作大賞 #ファンタジー小説部門
【あらすじ】
社会人三年目の西森ゆりは自宅で「まったり休み前一人飲み」を楽しむべく、いそいそとワインの栓抜きを探していたところ、急に床が光だし魔法陣が…。そして現れたのは逆召喚された異世界のイケメン魔法使いだった。
1 床からイケメンがやってきた
今日は待ちに待った金曜日。私が一週間で一番好きな日だ。
会社帰りにデパ地下で豪華お惣菜三点セットと安いワインを買う。これが私の金曜の夜のルーティーン。
「あ~、今日はローストビーフがある。しかも半額シール付き! ラッキー!」
ふふふ、今日は美味しい夜になりそうだ! ヤッホイ!
誰もいない家に帰り、スエット上下に着替えてTVをつける。あとは、化粧を落として、惣菜を机に並べてっと。
「あ~、ワインの栓抜きはっと」
ガサガサとキッチンの引き出しを探るがいつもの場所にない。どこ行った?
その時、薄暗いキッチンの床が光り始めた。
「はぁ? 何これ? え? 魔法陣?」
やべっ。まさか!
これが噂の異世界転移? 巷のノベルの中じゃ鉄板の? あのあるあるネタの? しがない普通のボロボロ社畜が選ばれると言う?
「おいおい勘弁して~。私は今の人生結構好きなんだけど? 人選間違ってるよ~っと」
と、自分の足元で光っている魔法陣の内側からひょこっと飛び出た。
「ふ~危ない。危うく異世界に飛ばされる所だった。なんつって。それより栓抜きはっと。先週、使ってどこ置いたっけ?」
魔法陣は召喚者がいないんだからそのうち消えるだろうと、私は気を取り直し栓抜きの捜索を再開した。
「うわっ!!!」
ん? 男性の声? お隣さん? にしては声が近いな~と後ろを振り向くと、顔面偏差値京大並みの、背の高い美しい男性がアホ面で突っ立っていた。
「え? 誰?」
「ここは… どこだ… 私は…」
狼狽えている男性の服装はファンタジーなそれで、杖を持っているから多分魔法使いとか?
「あの~、私の家にどうやって… もしかしてさっきの魔法陣とか関係あります?」
「はっ。失礼した。平民か? ここはどこだ?」
「だからここは私の家」
「家だと? 小屋ではないのか? 天井が低い」
失敬な。イケメンのくせに… って関係ないか。まっ、ご縁がなかったと言う事で警察に連れてくか。うん、そうしよう。
私は早速コートを着て鍵と財布をポッケに入れて準備を始める。早くしないとお料理がダメになっちゃうし。
「おい! お前! 聞いてるのか? ここはどこだ?」
「はぁ~? ちょっとあなた、めっちゃ態度がデカイんですけど。それが人に物を聞く態度? ここは私の家。で、日本って国だよ。それよりあなたこそ誰よ、人ん家に勝手に入って来てその言い草」
「ニホン… 知らぬな…」
その場で考え込むイケメン魔法使い。全く人の話を聞いてないよ。ふ~、このまま放置する? いや、早急にお引き取り願おう。
「じゃぁ、警察… 警備兵に引き渡しますので着いて来て下さい」
このイケメン魔法使いに通じるようにそれっぽく『警備兵』とか言ってみた。ふふ。
靴を履いて玄関のドアを開けようとした時、イケメン魔法使いがドアノブにかけた私の手を握った。
「警備兵? 少し待て。さ、先ほどは失礼した。お前の言う通り態度を改める」
いやいや、改められてもねぇ。警察には連れてくよ?
「で? あなたこそ誰なんですか?」
「私は… 私はエスヤーラ王国宮廷魔法使いのクリストファー・ウェジットだ」
「エスヤーラ王国?」
あれ? どうせ知らないって思ったけど、なんだか聞いた事があるような~何だったっけ?
「知っているのか? 恐らくだが、ここは我らが召喚しようとした聖女の国ではないだろうか? あの時、私が魔法陣を踏んでいたから逆に召喚されてしまったのではないか? 現に先程から私の魔法が使えない」
「魔法って。物騒な事、勝手に試さないで下さい。よく分かりませんが、この日本、この世界には魔法なんて存在しませんよ?」
「はぁ? 魔法が存在しないだと?」
イケメン魔法使いのクリストファーさんは途端に真っ青な顔に変わってブツブツ独り言を呟き出した。
どうするんよ? 早う警察に行こうぜ?
「あのさぁ、このままこちらの国に保護してもらったほうが良くないですか? 私、連れて行きますよ?」
「いや… それは不味い。まずは私の話を聞いてはくれないか? その上で判断して欲しい。それで、お前の名は? まだ聞いていない」
「あ~、私は西森ゆりです。家名が西森なんでゆりと呼んで下さい」
「ユーリか。やはり女だったな。そんな姿なので坊主、一瞬男かと思ったぞ。で、家の家長はどこだ?」
「家長? 私です」
「いやいや、まだ子供だろう? ここはどこかの一室だと思うが? 応接間はないのか? 客間でもいい」
くそ~。多分だけど、小説の中のような世界の魔法使いなのかな? ついでに偉そうだし身なりも良さそうだからお金持ちだとして、この部屋はあなたの感覚では狭いんだね。ただの小部屋だと思ってるって事? しかも子供って!
「あのですね、この日本では私は成人しています。二十五歳です。それにこの部屋は私の歴とした家です。あなたには狭く感じるでしょうがね! 私が働いて私が家賃を払い、私が寝起きする正真正銘の家です。一人暮らしの婦女子の部屋でさっきから、節々不快な感じがする事を言っているあなたはどんだけ偉いんですか? てか、ご理解頂けましたか?」
「二十五歳! 若く見える… それは失礼した」
「童顔な民族なんで」
「では、ユーリ殿、改めて私の話を聞いてはくれないだろうか? お願いする」
さっきとは打って変わって、キレイなお辞儀でクリストファーさんは頭を下げた。
「… 話だけですよ。それより靴を脱いで下さい。ここは土足厳禁な世界ですので」
「そうか…」
ちょっと寂しそうに靴を脱ぎ玄関へ持っていく。時間が少し経ちクリストファーさんは実感して来たのかな?
自分が逆異世界転移したと。
2 イケメンは魔法使い
「で? どうします?」
「あぁ… 先ほども言ったが警備兵は少し待ってくれ。まずは話を」
ここで話し込んでもしょうがないので、とりあえず玄関先の廊下からリビングに移動してもらう。てか、我が家はこたつしかないけど座れるのかな?
「座り慣れないでしょうが、うちには椅子がないので。あぁ、もしよければ食べます?」
私はさっき用意したボッチ飯用のお惣菜とワインを指差す。
「いや、結構。それより魔法陣と先ほど言っていたが、こちら側にも魔法陣はきちんと現れたのだな?」
「はい。私には魔法の知識? はありませんがアレは多分そうだろうと… そして避けました」
「避けただと?」
「だって、召喚? されたくないので。誘拐ですよね?」
「ゆ、誘拐などと… 我々は百年に一度の国儀に乗っ取ってだな…」
「いやいや、それって召喚された側からすれば誘拐ですよ? 急に呼び出されるんですから。事前に手紙で知らせるとか準備期間とかないでしょ? 有無を言わせずじゃ… ねぇ?」
「いや、まぁ、そうなのか… まぁ、何だ。私はもうすぐここを去るので警備兵を呼ぶのは止めてもらいたい」
「へ? 帰る事ができるんだ! よかった〜。私の知ってる異世界モノじゃ帰還できないのが定石だったんで」
「異世界モノ?」
「あ〜、小説? 空想の物語に魔法使いが出てきて聖女を召喚する話があるんです。その話ではその聖女はほぼ帰れないので」
「そうか… 恐らくだが、私の部下が三日後にでも再度儀式をするだろう。召喚に必要な魔力が溜まるのがそのぐらいだからな。時間は私にもわかりやすいように同じ時刻だろうと思う」
「そう… って事は明後日までウチに居るつもりですか?」
「出来れば許可してくれるとありがたい。私はこの世界を知らないし、すぐに去る人間だ。ユーリ殿しか頼る人物がいないんだ。も、もちろん相応の礼はする」
ハァ〜。礼って、出来ないんじゃない? だって異世界に帰るんでしょう? てか、ついてないな… 何で私なの?
「お礼はいいです。それより、他に持ち物は? 無いか…」
「あぁ。杖も役に立たないしな… あぁ! しかし、わ、私は料理はできるぞ? これでも野営時でスープを披露した際は大変喜ばれたんだ」
クリストファーさんは急にアタフタと自分をアピールし始める。
「料理? 何で急に料理? てか、どうしよう。念のために明後日も休むか」
「何か不都合があるのか?」
「えぇ、昼間は仕事をしてるので」
「仕事か、それではしょうがないな。ここの地図と少しばかりのお金を貸してもらえればこちらでどうにかするよ。問題ない」
「いやいやいや。ここはクリストファーさんがいた世界ではないんですよ? この後街に出てみますか? 全く違う世界だと思いますよ。絶対迷子とか色々不自由しますって。常識が違うと思います! あと、その服だとここでは目立ちまくりです」
クリストファーさんはハテナな顔で自分の服を見直している。
「まずは服ですね。たかが二、三日ですが家の中だけじゃ息が詰まるだろうし… 幸い今日は金曜日です。明日は私の仕事が休みなんで。とりあえず色々買い物しましょう。ついでにこの国についてザッと説明しますので。もしも帰れない場合も考えなくちゃ」
「そうか? それではユーリ殿、短い間だがよろしくお願いする」
「はいはい」
私はため息まじりにさっきから放置気味のささやかなディナーに手をつける。あぁ〜、厄日だ。せっかくの金曜日が。
「てか、何で私なんですか?」
もぐもぐ、うん、このローストビーフは当たりだね。
「ユーリ殿だからと言うわけではない。聖女の召喚は国儀、つまり国の伝統行事であって、古来よりの魔法書に記された方法で行なっている」
「ん? つまり?」
「『聖女召喚魔法』には幾つか条件があってだな、例えば『健康な未婚女子』だったり『稀有な才能の持ち主』『身寄りがない』『美樹の年、美樹の月に妖精の涙を使って魔法陣を書く』などだ」
「稀有な才能? それって私当てはまっていないような気がする」
「そうなのか? 先ほど仕事をしていると言っていたが? 婦女子が働くのだから、相応の技能があるのではないのか?」
はぁ?
あっ、そうか。こっちの常識とクリストファーさんの世界の常識は違うか。
「う〜ん、どう説明したらいいのか。こちらの世界は年齢や性別で色々な面で平等なんです。仕事は大体自分でしたい仕事に就ていいんですよ? あと、結婚や恋愛もほとんど個人の意思で自由恋愛だし。なので、女子だから警備兵になれないって事はないんです。現に女性警察官、女性の警備兵は沢山いますから」
「な! なんと!! ちなみにユーリ殿は何を生業にしている?」
「ぷっ、生業って。私の仕事は美容師(スタイリスト)ですよ。人の髪を切ったりアレンジしたりするんです」
「髪を切る… 上級侍女か?」
「侍女がどんなのかわからないな。『お金をもらって希望に合った髪型にする職業』です。ちゃんと国の試験も受けたんだから。こう見えて結構売れっ子なんですよ?」
「そうなのか?」
「そうなんです。それより、明日ですね… てか、その前に明後日休めるか聞いてみますね。あっ、そこの料理食べていいですよ。あとお酒もどうぞ、葡萄酒? です」
私はスマホを持って一旦廊下へ出る。クリストファーさんはお腹が空いていたのかうんと頷きもう食べ始めていた。
もし帰れない場合も考えると、あの人がいるなら休んだほうがいいような気がしてきた。一人にするのが心配なのもあるけど、やっぱりね。クリストファーさんからすれば、こっちが異世界なわけで、色々と不安もあるだろうし。うんそうしよう。
🎵〜
「あ、お疲れ。今いい? 明後日なんだけど丸っと休んでもいい?」
『…(電話の向こう)』
「いやいや、去年から裏方じゃん。数少ない指名のVIPもその日は入ってないし、ね! お願い! てか、今年まだ有給残ってたんだよね〜」
『…』
「あはは、了解。あとね、夜でいいから私の休み中にカノン誘ってうちに来て。サプライズがあるんだ〜。多分、カノンはガチオタだからギャン泣きすると思う〜」
『…』
「うん、ごめんね。うんうん、じゃまた」
そっと部屋に戻ると目に入ったのは空の惣菜のトレイ達。
「え! もう食べちゃったの? しかも全部?」
「すまぬ。前菜は頂いてしまった…」
「ぜ、前菜って、じゃない! これは私の今日の夕飯! これで全部なの! もう!!!」
クリストファーさんは一瞬『はぁ?』って顔をしたが、すぐに申し訳なさそうにハの字眉毛の苦笑いで私を覗き見る。うっ、イケメンってズルイなぁ。
「もう、いいですよ。私も食べてって言いましたし… 私は料理をしませんのでうちには食料がないんです。これから買いに行きましょうか。ついでにクリストファーさんの服とか身の回りのものも買いましょう」
「いや、しかし… 外はとても暗いぞ? 商店は開いてないのではないか?」
「こっちは二十四時間、一日中開いている商店があるんです。それも食料品から衣料品まで何でも揃う大きな商店が。便利でしょう?」
「ほ〜、それはすごいな。そう言う事なら参ろうか」
と、クリストファーさんが立ち上がって私は再度気づく。
それより、やっぱり出歩くための服がいるな… う〜ん。
私はクローゼットを開け、奥の段ボールの封を解き中の服を差し出す。まっ、元カレのだけどいいよね。
「クリストファーさん。その格好はこの世界では目立ちます。これに着替えて下さい。多分入るでしょう、多少小さくてもクリストファーさん専用のは今から買いに行きますし少しの辛抱です。私は玄関で待ってますね。着替えたら行きましょう」
「… あぁ」
クリストファーさんはしばらくオーバーサイズの黒のパーカーとパンツを裏表にしたりして観察していたが、上着のボタンを外し始めたので私は急いでリビングを出た。
3 お買い物
私たちは近所のペンギンマークのドンキなホーテへ買い物に行った。ちょっとクリストファーさんの服装は微妙だけど… まぁ今だけだしいっか。
「ユーリ殿! これは… 何て色なんだ! 絵が輝いているぞ!?」
「輝く? あぁ電飾ですよ。電気… 人工的な光を当てて遠くからでも見えるようにしているんです」
「何と! 人工的… やはり魔法ではないのか?」
「はい。科学技術です。う〜ん… 職人技的な?」
「職人か! 人の手でこのような物が…」
店の入り口で立ち止まる、一見外国人に見えるクリストファーさんはとても目立っている。恥ずかしいからさ、ちょっと、早く買い物しようよ。
「クリストファーさん、感動しているところ悪いんですが… 人通りの邪魔ですので。お店に入りましょうか?」
「ん? あぁ」
口を開けてまだ看板を見ているクリストファーさんの手を引いて店に入った。
「じゃぁ、まずは簡単なものから。着替えから見に行きましょうか?」
商品が山積みになっている通路を、いちいち立ち止まるクリストファーさんを引っ張りながら歩く。『これは何だ?』『あれは何だ?』と一々立ち止まるのでなかなか進まない。
「クリストファーさん、後でたくさん見れますから。まずは目的のものを買いましょう?」
「すまん。どれも珍しくてな。それにこの音楽はどこから聞こえるのか? 楽団がいるのか? それにしても少々耳が痛くなるような曲だが」
「楽団はいませんよ。これも人工的なアレです」
ふむふむと納得したのか、やっと私の横に来て並んで歩く。ふ〜、後ろ確認しながら歩くとか… 本当に物珍しいんだろうな。しばらく店内を練り歩いたら目的地に着いた。
「ここです。パジャマは今着てもらってるのでいいとして… シャツとパンツ、靴下、下着ってとこかな? 好きな色とかありますか?」
と、商品を見ながら声をかけるが返答がない。
「あれ? クリストファーさん? はぁ… また?」
辺りを見回すと、少し離れた所で夜のお姉さん達に絡まれていた。ナンパされてるじゃん。もう!
「〜しかし、婦女子がこんな格好を。膝が見えているぞ? それより今夜は夜会か何かか?」
「夜会とかウケるんだけど。どこのセレブだよ。てかお兄さん今から遊ぼうよ」
「いや、私は買い物をしに来たのだ。あなた達は家に帰ったほうがいいぞ? もう夜も遅い。従者はいないのか?」
「はぁ全然遅くないし? てかまだ十時だし、夜はこれからじゃん? ねぇ〜遊ぼうよ〜」
お姉さん達は腕を絡ませ、何気にペタペタと腕を触りまくっている。す、すげぇ。って、入りずらいな… どうするか。
「おぉ! ユーリ殿、こちらのお嬢様達にお誘い頂いたんだが… すまない。私は連れがいるのでこれで失礼する」
と、全く悪気なくあっさりお姉さま達を置いて、ニコニコと私の元へ帰って来た。
「何あのブス。全然釣り合ってないじゃん。行こっ」
あまりにサラッと帰ってしまったクリスにムカついたのか、お姉様方は私を睨んでから、まぁまぁ聞こえる音量で毒づいてからどこかへ消えていった。つらい。
「クリストファーさん、あなたはとても顔面がいいので気をつけて下さいね。その辺りは私はあんまり役に立たないので。次、お姉さんに絡まれても助けられませんよ?」
「顔面? 顔か… しかし、先ほどのお嬢様達は『お酒を飲みたいな、どこか知らない?』と声をかけてきたんだ。なので『私は買い物をしにきた客だ』と答えたら、色々話し込んでしまったのだ… 始めは店員と間違えただけだと思ったのだが。いや、しかし、女性からあのように堂々と… こちらの女性は積極的と言うか何というか…」
と、満更でもないクリストファーさん。ほっぺが少しだけ赤い。はいはい、よかったですね初ナンパ。
「文化の違いですかね。では次も自分であしらって下さいね。それより服ですよ。数日なので、私が適当に選んじゃっていいですか?」
「あぁ、お任せする」
テンションMAXプラス初ナンパで上機嫌のクリストファーさんは、イケメン具合がさらに上がっている。ニコニコと笑顔を見せると、近くにいる女子が『うっ』『眼福』と黄色い声をダダ盛らせていた。
しかし、ファストファッションでも素材がいいので、クリストファーさんは何でも似合う。ブ〜、イケメンってずるい。って事で、これとこれとこれ、はい次だ。
「次は歯ブラシとか生活雑貨を買って、食料も買って帰りましょう。クリストファーさんはお酒飲みますか?」
「いや… しかし…」
「別に遠慮しなくていいですよ。お酒ぐらい」
「嗜む程度には好きだ」
「そ、そうですか」
やっば。『(お酒が)好き』って微笑まれるだけで心臓がバクバクする。顔がいいってすごいな。破壊力が半端ない。
「どうした? 顔が赤いぞ?」
「クリストファーさんの顔が良過ぎて… 結構、その顔のせいで誤解されがちなのかな? イケメンっていいのか悪いのか… とにかくあんまり愛想を振り撒かないように。これじゃ〜女子ホイホイじゃん」
「よくわからんが… 善処しよう」
気を取り直して、買い物の続きを。
歯ブラシコーナーではなぜかクリストファーさんはまた興奮して、展示されている電動歯ブラシに魅入っていた。歯を綺麗にする習慣が不思議なようだ。ついでに歯磨き粉にもはしゃいでいた。いろんな味があるからね。意味はわからないが、パッケージが面白いと言っていた。
そんなこんなで、このお店になぜか二時間も滞在し、その間、女子について回られ、スマホで動画を撮られ、私は… 『ブス』と何度もディスられた。早よ帰りたい。ぐすん。
「いや〜男子がいると荷物運びが楽だわ〜。ありがとう、クリス」
「ほとんどが私の物なんだ。気にするなユーリ。しかし、こんな夜更けにあんなにも街が明るいとは… それに綺麗な建物がいっぱいだった。あの馬がいない馬車も… また行きたいな」
「そうだね。明日また行こっか」
4 カップラーメン
クリスとユーリ呼びになるほど、ペンギンショップはクリスを興奮させた。買い物を一つする度に『これはどう使うのか』『これは何だ』と、目を輝かせたクリスに質問攻めにあったのだ。かなり距離が縮まったんだよね。
「遅くなってしまったな、それよりそユーリはそんな小さなもので腹が膨れるのか?」
「大丈夫。てか、クリスも食べてみる?」
「いいのか!」
私の手にあるものを凝視しながらクリスは大興奮だ。って、だたのカップラーメンなんだけどね。
「いいよいっぱいあるし。簡易食? 携帯食とでも言うのかな? どうなんだろ」
私はブツブツとカップラーメンの呼称を考えながらお湯を沸かす。
「お湯を注ぐとどうなるのだ?」
「まぁ、三分待ちましょう。それより箸って知らないよね?」
私は箸を持ってパシパシとつまむ真似をする。
「初めて見る。今手に持っていると言うことはこちらのカトラリーなのか?」
「そう。これは?」
と、フォークを見せる。
「あぁ、それはあちらにもある」
「じゃぁこれで食べてね」
三分経ったので蓋を開けて、クリスの前に出した。ふぉわ〜んと湯気が立ち、豚骨醤油の食欲をそそる香りが広がる。
「いただきます」
「い、いただく」
私はお腹が空きまくっていたので、クリスへの説明より先にズズズーと麺をすすりまくる。
「んっま!」
クリスは見よう見まねで麺をすくって食べていた。一口目。
「ん!!! ん!!!」
と、麺を頬張ったまま目を見開き私に『おいしい』と訴えている。かわいい。
「おいしいよね〜味はちょっと濃いかもだけど。熱いから気をつけて」
二人でラーメンをどんどんすする。うま過ぎ! 深夜のラーメンって何でこんなにうまいのか。背徳感ゆえの贅沢感? いや人類の謎だな。うんうん。
「ユーリ! これはすばらしい! どんなシェフにもこの味は出せない。しかもお湯で出来るなど… この技術が欲しいな。いや、この商品が是非とも欲しい。我が国でもさぞ人気が出るだろう」
「あはは、大袈裟。てか、簡易食だし、シェフが作った方がおいしいに決まってるじゃん。そうだ! ラーメンが気に入ったのなら、こんなんじゃなくてお店のラーメン屋に行こうか? めちゃくちゃおいしいから! ミュシュラン系の行列に並んでみちゃう?」
「これも手作りではないのか? ん?」
「麺を一から作って、スープも毎日作って、出来たてを出してくれるラーメン専門のお店があるの」
「そんな店が! 是非行きたい!」
「よし、明日はラーメンを食べに行こう! 決まりね。どうせだからおいしいとこ行こうか? 餃子もある店がいいな〜最近のラーメン屋さんは餃子を置いているところが少ないからな〜」
「うんうん。何でもいい。この味が食べられるのなら」
「豚骨系? どこあるかな〜」
と、スマホで調べようとしたら、やっぱりクリスはスマホにも食いつく。
「その札は光るのか? しかも小さい絵がたくさんある」
「これは〜」
と、その後はスマホでラーメン屋を探しながらクリスに操作方法などを教えた。案の定、クリスは夢中になって寝るまで触っていたけど。ふふふ。
そして、『こちらの世界では友人でも何もしないと言う信頼の下、同じ部屋で寝ても責任取るとかないですから。大丈夫』と、何度か押し問答をしたあと、私のベット横のこたつで寝るのを躊躇っていたクリスは、疲れていたのも相まってしばらくしたら眠りについたのだった。
・第2話
https://note.com/preview/n561fa16ba51f?prev_access_key=2e42e79d1c96d4d5b0582955ba4319b1
・第3話
https://note.com/preview/n2e29753acc55?prev_access_key=f35e973423ee70d1030cf0deda821424
・第4話(最終話)
https://note.com/preview/nc1db3e7beafc?prev_access_key=ae1f97233f04227b0fc58aae6187ca1e