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リジェネラティブな草刈り
「もういくつ寝るとお盆休み」
指折り数え、待ちに待ったお盆休みがやってきた。
そう、日ごろ夫と住んでいる東京のマンションを離れ、山形の家に帰るのだ。
山形の家は、9代前のご先祖様から受け継いだ土地にある。高校までを過ごし、その後大学で東京に出てからは20数年間、離れていた。
そして昨年から、東京と山形の「二拠点生活」で行き来するようになった。大半は東京で暮らしているが、月に1度、1週間ほどは山形に滞在する。
そんな暮らしを選んだ理由はいくつかあるが、一番は、リジェネラティブ生活を送るためだ。
二拠点生活に踏み切った理由
リジェネラティブ(regenerative)とは、「再生」と訳されることが多いが、私としては、「循環」とか「エネルギーの受け渡し」という方がしっくりくる。
イメージはこんな感じ。木から葉っぱが落ち、土の中で分解が進む。それが栄養となって周囲の植物に吸収され、豊かな作物を実らせる。
そんな生物間のエネルギー循環のイメージだ。
山形なら、リジェネラティブ生活が心ゆくまで実践できるに違いない。東京でも東京なりのやり方はありそうだけれど、心と体をどっぷり環境にひたらせ、循環の一部になるならやはり山形。そう考えて二拠点生活に踏み切った。
モコモコの草
それはさておき、山形に帰って一番にすること、それは裏庭の「草刈り」だ。
二拠点生活の一番のお悩みは、「草」といっても過言ではない。
夏の太陽をさんさんと浴びて、草たちはモコモコに成長する。大爆発する。
これを放置すると、「ここの家には人が住んでいません」と泥棒さんにアピールすることになる。不用心だ。
さらには、ご近所から手厳しい視線とお言葉を頂戴してしまうことになる。草との付き合いは、ご近所付き合いの第一歩でもある。
というわけで帰宅早々、日焼け対策を万全に、鎌を持ち、裏庭に立つ。
待ちに待ったこの時。
土を踏みしめ、モコモコの草をかき分け進む。
さく、さく、さく。
ワクワクが止まらない。
というのも、今回の草刈りには、明確な目標が二つあるのだ。
一つは、「畑」を作ること。
もう一つは、「土中コンポスト」の場所を作ることだ。
畑づくり
一つ目の畑づくり。憧れてやまない。しかし1か月に1週間ほどしか滞在できない二拠点生活者にとって、畑づくりは至難の業でもある。畝が雑草ばたけとなろうとも、病気や虫に作物がやられようとも、離れていれば何もできない。必要な管理ができないのだ。
畑はあきらめるしかないのか。途方に暮れていたある日、YouTubeで「協生農法」なるものを知った。
「協生農法」とは、単作ではなく、複数の作物を隣り合わせで育てることでその土地に生態系をつくり出す農法だ。作物の周辺の草や、土中の細菌、虫たちを含めて畑に自然なバランスがもたらされることで、耕したり肥料をやったりといった人為的な介入を必要としないという。
もちろん本格的な「協生農法」ではさまざまな管理が必要だろうが、私の場合、目的は二拠点生活流、リジェネラティブ生活である。立派な作物を実らせることでも、売ることでもない。できうる限り、最低限の管理で畑に生態系をつくり出す。土と作物の循環を観察する。ワンチャン、小さくても作物ができたら食べてみたい。それだけだ。
というわけで今回、この「協生農法」の畝をつくることを目的に、まずは雑草ばたけと化した裏庭の草を刈る。
刈った草はよけておいて、畝の上や周囲にしく予定だ。これを草マルチという。草マルチにより、土の乾燥を防ぎ、草が光合成して作物の成長を阻むことを防げるという。なんて一石二鳥なんだ。
土中コンポストづくり
二つ目の草刈りの理由、「土中コンポスト」の場所づくり。実はこれ、二拠点生活者のマストアイテムだ。
この地域では、生ごみを出せる日が週に2回しかない。帰宅の日が生ごみ収集日であればラッキーだが、毎回そうもいかない。不在の間、生ごみを家に置いておくわけにもいかない。なので、生ごみを「土に埋める」ことになる。
裏庭に穴を掘って、生ごみを放り込み、土とよーくかき混ぜる。すると2週間ほどであら不思議、生ごみはあとかたもなく消える。分解され、栄養たっぷりの土となるのだ。この土を菜園に使えば作物がぐんぐん育つ。これも一石二鳥。
小さな問題があるとすれば、前回どこにごみを埋めたのか毎度わからなくなることだ。うっかり前回の箇所を掘り起こして、みみずさんの仕事場を目撃することは避けたい。
なので今回2つのエリアを確保し、レンガを置き、土中コンポスト1号機、2号機として、順繰りに使用するつもりだ。
培養土ができると思うと、料理をたくさん作って、たっぷりの生ごみを出すのも楽しみになる。
草宇宙を進む
そんなワクワクを胸に、リジェネラティブ草刈りを始める。
鍬と鎌、時には手を使い分けて、モコモコの草たちを根元から刈る。
さく、さく、さく。
途方もなく、雑草ばたけは広がる。
さく、さく、さく。
炎天下、額からは汗がしたたり落ちる。ぷーーんと蚊が寄って来る。くまん蜂もいる。腕も腰も痛い。
刈っても刈っても、終わりが見えない。草宇宙。
いよいよ、リジェネラティブ生活が始まった。