ライフテーマの遠心力
2024年の個人的ニュースを振り返ると、「ライフテーマの遠心力」を感じた1年だった。
外に出る
コロナ禍に働き方を変えた。「意思決定層の多様化」をライフテーマに据え、複数企業に従事するようになった。
2022年には大学院にも進学し、時間的な余裕がほとんどなくなった。この2年間は、新しいことをしないように極力セーブしていた。
しかし、思えば2023年夏頃からウズウズしていた。大学院修了後のことを考えるようになった。ライフテーマを深めていくためには、諸外国と比較して相対的に後退している日本の中だけで呼吸していてもダメなのではないか。そんな思いがどうしようもなく膨れ上がっていた。
1. "d&i Leaders Global Forum2024"in UKに参加
まずは、D&Iに関する海外カンファレンスがないかを闇雲に調べた。そして見つけた"d&i Leaders Global Forum"に参加することを決め、2024年の開催概要が出るや否や、イギリス行きのチケットを取った。
月並みな感想だが、フォーラムに参加して真っ先に感じたのは、日本で開催されるカンファレンスとの景色の違いだった。登壇者や参加者における性別、年代、人種はさまざまで、グローバルフォーラムならではの空気感があった。
こういった交差性の中で語られる心理的安全性やインクルーシブ・リーダーシップの重要性は、生存上の意味合いを感じたし、「インパクトは何か」「なぜD&Iが進まないか」「D&Iはチャリティか」「(イマイチ認知されていない)D&I責任者の役割は何か」といった発言は、表現ひとつとっても非常に生々しいもののように感じた。
2日間を通じて良い刺激をもらった。
素晴らしいキャンペーンは、数多のドア、違うエントリーポイントがある。
データから得られるInsigthtは、戦略に勝る。データに隠された真実はないか。
DEI戦略があったとして、それは会社の戦略にリンクされているか。切り離されていたら意味がない。その上で、産業全体でも取り組む必要がある。
2. ケルン大学 MBAサマープログラム"Leadership & Diversity"
大学院に入学した時から、海外プログラムにも参加してみたいと思っていた。どのテーマに応募するかは未定だったが、留学要件だけでも満たしておこうと、2023年の夏にTOEICの準備もした。
年明けにケルン大学MBAサマープログラム"Leadership & Diversity"の情報をキャッチし、挑戦しないわけにはいかなかった。参加要件を満たしているか不安はあったが、何とかクリアして参加が叶った。留学準備は、大学院修了に向けたケースの執筆が重なり、スケジュールは苦しかったが、全く苦ではなかった。
「ダイバーシティとは何か」「ダイバーシティを推進するとチームのパフォーマンスは上がるのか」「企業はダイバーシティを本質的に推進しているのか」「何を解決しようとしているのか」、前提を問い直すことが出来て、非常に充実したプログラムだった。
チームにダイバーシティは必要か
何のためのダイバーシティか
世界から見た日本文化
権力とダイバーシティ
いつもと違う社会的アイデンティティ
3. MBAでダイバーシティに関するケースを書く
9月に、名古屋商科大学大学院EMBAを修了した。ケースは、「みんなのコード2024」と題して、D&Iの観点で組織と事業がどのように変化したか、それは企業戦略にどう影響するのかと向き合った。
大学院生活はとにかく大変で、1年目は、大量の課題と授業へのコミットをすることに必死だった。ダイバーシティ経営どころの騒ぎではなかった。
2年目に、担当教授の加藤先生に出会い、ダイバーシティ経営について書こうと腹を決めることが出来た。ゼミの同期も一緒に向き合ってくれた。こういった後押しが積み重なって、企業成長論のど真ん中で、ダイバーシティ経営がライフテーマであることを少しずつ主張できるようになった。
4. 国際会議"Asia Pacific Computer Education Conference 2024"で英語プレゼン
11月には、みんなのコード主催の国際会議"Asia Pacific Computer Education Conference 2024"で英語プレゼンをさせてもらった。主催者だからプレゼン枠があって当然と思われるかもしれないが、みんなのコードには、スピーカーができる専門家メンバーがたくさんいる。そんな中、任せてもらったのだ。
登壇する目的をよく考え、ダイバーシティ経営の観点から"Make Information Education Inclusive"と題して「情報教育をインクルーシブにするために出来ることは何か」に振り切ることにした。
プレゼン当日は、久しぶりに原稿を持つ手が震えたが、皆さんが前のめりに聞いてくださっているような会場全体の雰囲気が伝わってきた。その後の反応も含めて、ライフテーマが本業でも武器になっていることを実感することが出来た。
存在意義を問わざるをえない
外に出てみて感じたのは、余計な雑音が消える感覚だった。
特に海外では、性別よりも、人種や言語の違いが上回った。言語によって、個性といつもの勝ちパターンを封じられた。存在感がまるでなかった。個性や実績が封じられると、自分の強みに集中せざるを得ない。
私は何者なのか。なぜここにいるのか。
そして、たとえ拙くても、自分の存在意義が誰かの胸に届けば、どのコミュニティでも背中を押してくれる人が現れることを実感した。
大学院では、ゼミの同期がケルン報告イベントを手伝ってくれたり、ケースの翻訳を買って出てくれた。大学院で書いたケースを、登場する関係者の皆さまにご快諾いただき、さらにプロに翻訳してもらった英語版でリリースできるなど、本当に想像もしていなかった。
ライフテーマの遠心力
私の本業はダイバーシティ推進ではない。専任者を置けるような規模の会社で働いたことがない。本業に加えて出来ることをやってきた。
そんな中、2024年は、ライフテーマとなると本能的に手足が動いてしまうことを再確認した。特にケルンでは、毎日上手くいかなくて、なぜ私はこんなにも自分を試練に晒しているのだろうと内省せざるを得なかった。
一方で、自分を晒す範囲が広がったことで、本業である経営においても輪郭がはっきりしてきた。みんなのコードは、ビジョンにおいても戦略においてもダイバーシティの観点が欠かせなくなっている。信念にも近い。
遠心力が強まった分だけ、中心に向かう力も強くなっているように感じる。
さて、D&Iを取り巻く状況は決してポジティブではない。投資家との対話の中で、ポリシーを取り下げたり、アクションを控えたり、人的投資を取り止めるといった報道も目にする。揺り戻し(バックラッシュ)が起きている。
もともと名もなかった議題が、なかったことになる未来が待っているかもしれない。
そんななか外に出てみたわけだが、効果的な突破口や魔法の杖は見つからなかった。むしろ、そんなものはなかった。
しかし、世界が揺らいでいるこのタイミングで外に出たことで、ライフテーマが揺らがないことを確認し、自分なりの持論を磨けたことは幸いであった。
バックラッシュするほどやれていない。まだ。
見通せない2025年を楽しみにしよう。