遙かなる時空の中で7 直江兼続攻略感想
※ネタバレを含みます
※個人の感想です
攻略七人目は直江兼続。
上杉家の執政で、圧倒的『智』の持ち主である。
垂れ目ぎみの優しげな顔をしているが、皮肉屋で毒舌家っぽいところがあり、まさに『天の白虎』という感じ。性格がいいのではなく「いい性格をしている」といったほうがしっくりくるタイプである。つまり「厄介」。
ただ、顔とか性格とかの前に兼続は喋り方に特徴がある。変というほどではないのだが、やたらと語尾に「ぜ」を付けるのがすごく気になるんだぜ。
っていうか、『直江』の姓は婿養子になったからこそ得た苗字であり、直江家の女と結婚してなかったらそもそも『直江兼続』じゃないのでは?
ということは、ええと、どういうことだ?
などといちいち考えていては、史実で側室を山程抱えていた戦国武将どもを抱くことなど出来ないと『下天の華』をプレイした時に学んだはずだ。ということで、直江兼続は直江家の『婿養子』ではなく『養子』。そういうことにしておかなくては話が一歩も進まない。
兼続は最初、八葉という役目に対して腰が重い。それは、彼にはすでに守るべき存在として上杉景勝がいるからだ。八葉は神子を守るために存在するが、兼続は七緒に会うよりも先に大事な主人に出会っているので、彼の優先順位は神子よりも景勝(上杉家)なのである。
しかも上杉の執政として政治を任される兼続は忙しい。上杉家が越後から会津に移封になってまだニ年くらいなので、国も民もまだ落ち着かないだろう。この世界には「龍脈を正さないとやばい」という共通認識があるからこそ大人しく八葉をやっているが、本当は「そんなものやっている暇はない」と言いたいところだろう。本人が「選ばれて少し困っている」と言っているように、初期の兼続からは「仕方なく八葉をやってます」という雰囲気がビシバシ伝わってくる。
兼続は自分の能力の高さと価値をきちんと把握しているので、自分が心から「従ってもいい」と思えるような相手でなければ、敬意を尽くすところまではいかないのだ。そしてその相手として彼にはすでに景勝がいる。
分が悪すぎる。
先に攻略した武蔵と宗矩も、兼続と同じように主人(長政、家康)を持っているのだが、この二人が最初から八葉の役目に協力的だったのは、主人の長政も八葉だったからだし、家康が神子に協力的だったからだ。
だがいくら乗り気でなくとも、神子としては兼続には本気を出して八葉の役目に取り組んでもらわねば困る。
そこで七緒は「どうしたら協力してくれますか?」と尋ねるのだが、その答えは、「協力することに価値があると納得させてみせろ」。つまり、クソ忙しい兼続に心の底から協力してもらうためには、八葉として働く=メリットがあることだと示すことが必要なのである。
ただそこで「君から離れがたいと思わせてみせろ。俺を落としてみせな」と付け加えるあたりが、求めるものが実利だけではない兼続の茶目っ気というか、面白みというか、遊び心というか、大人の余裕みたいなものを感じさせる。また、何が欲しいか問われて「腹いっぱいの握り飯」と謎かけするなど、一筋縄ではいかない感じがありありと伝わってくる。
兼続は、万人にわかりやすいプレイボーイキャラではないのだがいかにもモテそうだし、こちらをからかって反応を楽しんでいるようなところがある。
そんな兼続を「落とす」ために色々するのがルートの柱。と言いたいところだが、兼続ルートは柱がめちゃくちゃ多い。一山越えたらまた一山という感じで次々に難事が降りかかるし、共通ルート終了時点ですでに、他のキャラの恋愛エンディング相当の出来事が起こる。
また、共通ルートの後は直江状で家康をキレさせ会津征伐を受けてたち、その最中に龍穴を抜けて盟友石田三成を助けに行き、関ヶ原の西軍敗北に伴う長谷堂撤退戦で奮戦し、さらにラスボスカピタンと戦うという忙しさ。そこに七緒との恋愛イベントまで加わるのだから、兼続は金田一少年の犯人なみにやることが多い。
共通ルートから順に見ていくと、兼続の気持ちが七緒に傾いたとはっきりわかる出来事がいくつか起こる。
まずは龍穴を抜けて令和に戻った時のこと。七緒の部屋にあった本を開いた兼続は、そこで日本の田園地帯の写真を見る。それは見渡す限りの稲穂の海だ。つまり豊作の米。兼続はその光景に言葉を失うほど感動する。それは兼続が夢見る理想の未来そのものだったからだ。
自分たちが頑張れば領民たちが飢えない世が必ず来る、自分たちの世界はこんなふうに豊かになれる。兼続はその写真と七緒の言葉に心の底から励まされたのだろう。七緒は兼続に未来への希望を信じさせてくれる存在になっていくのだ。
また、戦国に戻った兼続は七緒を伴って西笑承兌(このあと徳川と上杉の間に入ってくれるお坊さん)の茶会に出るのだが、そこで越後の堀秀治にいやな感じに絡まれる。堀が治めることになった越後の年貢米を兼続が移封先の会津にごっそり持っていったからだ。まあ、そりゃ怒られるわなという出来事なのだが、それを恨んだ堀からの嫌がらせを七緒の機転で乗り切るのである。
七緒にピンチを救われた兼続は、これまでの諸々を含めて彼女に謝罪し、「君の八葉として力を尽くす」と約束してくれる。七緒としては「やったー!」くらいの感覚だが、さらっと「君の八葉=俺の神子ってことでもあるんだぜ」と付け加えてくるあたり、兼続の方はこの段階でもうかなり七緒に落ちている。
とどめに、七緒は令和の世から持ってきたジャガイモの種芋を兼続にプレゼントする。寒さに強く、荒れた土地でも栽培可能なのがジャガイモなので、これを栽培して増やせばコメがとれない時も飢えなくて済むと七緒は考えたのだ。
ジャガイモは新大陸からヨーロッパに渡った新しい食物で、日本ではこの時代にようやく長崎に持ち込まれたばかり。七緒は「ジャガイモが何度も飢饉を救った」と言っているが、それはヨーロッパにおいてももっと後の時代の話なので、ここでもまた七緒は兼続に確かな未来を話して希望を与えたことになる。
戦の原因の大半が「食べ物が充分に得られないこと」だと考える兼続にとって、飢えの原因となる天変地異を鎮めてくれる龍神の神子は天女に等しい。そこに加えて、『種芋』のプレゼントである。なんの見返りもなくそれをくれたことへの驚きと感謝が兼続の心を捉えたのだろう。
兼続はこれまで七緒と過ごしてきて、神子としてだけでなく女性としての七緒にも惹かれていたのかもしれないが、やはりこのイベントにより七緒への気持ちが不動のものになったのだと思う。
さて、富士山に登って敵を倒した後に、七緒と攻略対象がほんのりと気持ちを通わせたまま個別ルートに入るのが全キャラ共通の流れである。富士山での戦い後は、八葉が各陣営に散ってしまうので、キャラによっては一旦、七緒と離れ離れになる。七緒の本拠地は岐阜、兼続の知行地は米沢なので「これは一旦離れるパターン」と思っていたのだが、なんと違った。
七緒が元の世界に戻れなくなったと知った兼続は、「それなら一緒に米沢に来ないか?」と彼女を誘うのである。これまで6人を攻略してきたが、これは新しいパターンだ。兼続と離れたくない七緒は「米沢に行く」と答えるのだが、そこからがまさに電光石火。恐ろしく手際が良い兼続により、あっという間に『婚約』が段取りされていた。
兼続ルートは恋愛の進行度が他の奴らと段違いで、これがエンディングだったとしても驚かないほどスイート。なにしろストーリーの半ばにしてすでに婚約までいったのだ。
もちろん、結婚には景勝の了承を得なくてはならないし世情は不穏だが、とりあえず岐阜城で織田秀信から許可を取り付けた兼続は、次に大垣の石田三成に会いに行く。
ここでカピタンが暗躍していることを知った兼続は、三成に忠告してカピタンの目論見を未然に防ぐのだが、代わりにカピタンの恨みを買うことに。
年貢米の件では堀秀治、ここではカピタンを敵に回してしまった兼続はここから何度も苦しい思いをすることになる。
時勢が落ち着くまで、七緒(と、あやめ)は客人として米沢で暮らすことになるのだが、そこにいよいよ『直江状』のエピソードがくる。
直江状は、上杉景勝に叛心あり上洛して弁明せよと疑いを蹴られたことに対して兼続が、ざっくり要約するに「謀反とかそんなわけあるか。噂に惑わされるな、ボケ。上洛はしねえ」みたいなことを長々と書いた書状のことで、これを読んだ家康がぶち切れ、家康の会津征伐の起因になったといわれている。
そして、その会津征伐は関ヶ原の戦いのきっかけになった戦いなので、間違いなくここが歴史のターニングポイントだとわかる。遙か3の神子なら逆鱗を握りしめて臨むであろう大事な場面である。
景勝のメンツがかかっているため兼続は上洛に渋い顔なのだが、五月の助言と西笑承兌が間に入ったことにより妥協し「上洛します」と書いた改訂版直江状を出すことに。
七緒は龍穴を通って岐阜に行き、改訂版直江状を直接、西笑承兌に届けるのだが、上杉と徳川の不仲を望む者たちによって書状は改変され、家康を怒らせる内容の文書がそのまま届けられてしまう。
こうして七緒が岐阜に留まっている間に、史実通りの会津征伐が始まってしまうのである。
未来の夫がピンチで、しかも遠くにいるのだから七緒は気が気ではない。ハラハラするイベントが続くが、七夕の夢イベントや、龍穴を通って兼続が岐阜に来た時など、この2人は隙を見てはイチャイチャしているので、年下の妻(予定)である七緒の事がとにかく可愛くて仕方ない様子の兼続が見られる。
七緒たちは岐阜城にこもり、令和の利器を使いまくって善戦する。だが結局、関ヶ原の戦いは避けられず、徳川に恩を売りたいカピタンの暗躍により、石田三成は敗走することになる。
戦場での長政との対峙、三成との友情など、関ヶ原のイベントだけでもかなりのボリュームだが、この後兼続は龍穴を通って米沢に戻り、長谷堂撤退戦に臨むのである。
私は長政ルートの感想に「大きな戦をしてることを初めて実感した」というようなことを書いたが、兼続ルートはそれ以上に「戦をした」という感じであった。それはやはり兼続が西軍で、戦いに負けるからだ。兼続ルートに限らず、敗北する側に寄り添ったシナリオというはつらいのである。
その後、カピタンが石田三成を殺害して佐和山城を占拠。その討伐に力を貸せば上杉家と兼続への咎めを軽くするという沙汰が下る。
長政ルートでは、カピタンの意図や目的や手段がわりと丁寧に説明されていたのだが、兼続ルートでのカピタンの行動は「佐和山から日本を支配ってどう考えても無茶だろ」と言いたくなるほど雑である。だが、カピタンという共通の敵が現れたことにより、八葉が再結集して、東軍西軍関係なく日の本を守ろうぜ!という流れになる。
ということで、見事カピタンを倒した後、七緒は兼続とともに米沢へ。ラストは、実る稲穂を2人で眺めるスチルである。
兼続ルートは、随所に戦いの描写が入り、戦国時代らしいエピソード満載のストーリーだったと思う。人気武将『直江兼続』の有名エピソードを確実に拾いつつ七緒と恋愛させ、三成との友情を描き、しかも徳川家康や東軍の八葉と決定的に仲違いさせないようにカピタンをラスボスに持ってくる。これまで攻略した中で一番「このシナリオ考えるの大変だっただろうな」と思った。
戦国時代らしいシビアなストーリーではあるのだが、七緒との恋愛は早い段階から『婚約』まで持っていき、随所でスイートネオロマンス的なイチャイチャも見られるのでシリアスとイチャラブのバランスも良かった。
ただ、兼続の気持ちを七緒へと大きく動かしたきっかけが稲穂の写真と種芋プレゼントだったことは少し残念である。もちろん種芋も稲穂の海も、その後のストーリーに続く大事なエピソードなので「必要ない」と言いたいのではない。だが、あれはどちらも「七緒にしか出来なかったこと」ではない(なんなら、どっちも五月がやってもいい)。
兼続が自分で写真を見つけるのではなく、七緒が兼続に希望を持ってほしくて自主的に稲穂の写真を見つけてきたのならもっと良かったと思う。
また兼続が感激した種芋は、天野家にストックされていたものであり、七緒はそれを持ち出して渡しただけだ。令和の世では貴重品でもなんでもない。だから、それをもって「見返りを求めない天女の慈悲深さ」としてしまうのは天女エピソードとしてちょっと弱いと思うのだ。種芋には感謝してもらいつつ、もう一つくらいは七緒が令和のアイテムに頼らず兼続を唸らせるようなエピソードが欲しかったと思う。
あと、劣勢を挽回して岐阜城を守るために仕方ないとはいえ、このシナリオはとにかく令和のアイテムが多用される。そういうもんかなと思いつつも、元の世に戻れずに不便を経験した歴代の神子たちの苦労を思うと「スマホで解決!」「防犯カメラ!」「正確な時計!」「食料に水!」をあまりにも当たり前に使われると少しばかり興ざめである。さらに龍神パワーで水が湧いたり、ちょうど良い場所に龍穴が開いてどこでもドアのように使われたりするので、いささかチートすぎでは?と思ってしまった。ただ、その感覚は、前のナンバリングをやったことのあるプレイヤーのみが感じるものであり、遙か7で初めて『遙かシリーズ』をプレイした人はあまり気にならない部分かもしれない。
また、教養人として名高い兼続なので、それを示すためには仕方なかったのかなとは思うのだが、漢詩と古文を使ったセリフがやたらと多い。古今、新古今、徒然草、杜牧に白居易。和歌漢詩を当たり前のように引用してくる上、たとえば「雨に打たれた梨の花のようだ」と、これはおそらく『梨花一枝』が頭にあるんだろうなというような匂わせのセリフを多用するので、途中から「意味とかいちいち考えてたら疲れる」という気持ちになってくる。
せっかく兼続の戦術や政策がわかるエピソードを挟んだ丁寧なシナリオなのだから、漢詩古文をそこまで多用しなくても、彼の博覧強記ぶりはちゃんと伝わってくる。引用は要所要所ならかっこいいと思うし感心もするが、やりすぎると正直うるさい。もう少し減らしてもよかったのではないだろうか。
しかし、そう感じつつも、それまで散々持って回った言い回しを聞かされていたからこそ、ここぞという時の「愛してる」という直球のセリフや兼続の照れた表情が一層沁みるのかもしれない。ここは個人の好みだと思う。
まあいずれにせよ、余裕たっぷりで人をからかいがちな大人の男として登場した兼続、頭が良いだけに厄介なタイプの兼続が、年下妻の七緒に白旗を上げて一目置いているのがとても楽しいルートであった。
あと、兼続とは関係ないが、龍穴を通って一時帰宅した七緒が両親に「好きな人が出来たので向こうで暮らします」みたいな書き置きを残すシーンがあるのだが、あれは別になくていいと思った。
七緒が両親と血の繋がりがないと知ったのはつい最近なので、七緒にとって心情的に天野家の両親は、限りなく『実の両親』だと思う。だが、あのあっさりした置き手紙は、もう二度と会えない『両親』に向けて書くようなものとは思えない。かといって、大和のように親ときっちり話してこいと言うわけにもいかない。となれば、中途半端な置き手紙シーンなど描かずに「兄さんにが家に戻る時に伝言を頼む」くらいでよかったのではないだろうか。
私は兼続ルートの前に阿国ルートをクリアしているので、阿国が織田秀信とともに岐阜城防衛戦に臨むシーンにすごくときめいたのだが、阿国の話を知らなければ特に刺さらなかっただろう。大和ルートを先にクリアしているので、やりたい放題のカピタンを見ても「まあこいつ、アレだしな」というおおらかな気持ちで見ていたし、このゲームは攻略順によって細かい部分の印象が結構変わってくるのかもしれない。
次はいよいよ攻略ラスト八人目、真田幸村である。
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