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#2 小説 フライドポテト計画
夏休みが終わるのは、いつもあっという間だ。今年も例外ではなかった。そして、二学期が普通に始まるころには、龍也もあの双眼鏡のことをすっかり忘れていた。
そんなある日のこと。学校の帰り道、交番の前を通りかかると、橋本さんに声をかけられた。
「あ、龍也君!」
「はい?」
「ちょっと寄っていってくれるか?」
呼び止められるまま、龍也は交番の中へと通された。そこには、どこか懐かしい双眼鏡が置かれていた。
「この双眼鏡だけどな、持ち主が見つかったんだよ」
橋本さんが説明を始める。
「え、そうなんですか?それはよかったですね」
「まあな。でもちょっと聞いてくれ。その持ち主ってのが交番に来て、『双眼鏡を探している』って言うから、色々話を聞いたんだ。どこで無くしたとか、形や特徴とか。そしたら条件がぴったりでさ、これは間違いないと思って返そうとしたんだが……」
橋本さんは少し言葉を区切った。
「そしたら、その人がこう言うんだよ。『もう新しい双眼鏡を買ったから、見つけてくれた人に差し上げてください』ってな。何度も確認したんだぜ、本当にいいんですかって。でも、そのたびに『ぜひそうして欲しい』って。そんなわけで、君に渡そうと思ってな」
そう言って、橋本さんは双眼鏡を差し出した。龍也は一瞬、頭が真っ白になった。
(あの双眼鏡が?僕に?)
ふいに、あの日スナモンの顔が脳裏に浮かんだ。迷惑そうにしていたあの表情が。
「いや、僕はいいです。橋本さんがもらってくださいよ」
龍也は慌てて言った。
「それがだな、そうもいかないんだ。持ち主に譲渡の同意書も書いてもらってるからな」
「じゃあ、一度僕がもらってから橋本さんに渡しますよ。それなら問題ないですよね?」
「そんなに欲しくないのか?」
橋本さんはクスッと笑った。
(あんまり拒否すると怪しまれるのかな……)
「わかりました。ありがとうございます」
仕方なく受け取った双眼鏡を手に、龍也は家路についた。
(とりあえずもらっておいて、あとでどこかに捨てるか、誰かにあげればいいよな……)
そう思いながらも、双眼鏡を握る手に、どこか重みを感じていた。
自分の部屋に戻ると、もらったばかりの双眼鏡を机の上に置き、その形をじっと見つめた。
「なんだよ、もらって欲しいって……」
呟きながら、不思議な違和感を覚えた。
その時だった。