B2Bのユーザーコミュニティを半年で2つ立ち上げた話(中) ステークホルダーはどこ?
こんにちは。この記事は、「B2Bのユーザーコミュニティを半年で2つ立ち上げた話(前) ファーストピンを探せ」の続きです。まだ前編をお読みでない方は、よろしければぜひ読んでみてください。
前編では、私が入社してコミュニティを立ち上げることになるまでの経緯や、ファーストピンの探し方、コミュニティの設計について書かせていただきました。2回目となる今回は、ステークホルダーの探し方をはじめ、コミュニティを運営する上で気をつけた点などについてまとめていきたいと思います。
※この記事の内容は、筆者が在職していた時点(2019年7月〜2020年7月)での内容になるため、現在の状況とは異なる可能性があります。また、個人としての見解であり、企業としての公式見解ではないことをご理解いただければ幸いです。
ステークホルダーはどこ?
コミュニティの立ち上げに当たり苦労した点はいくつかありますが、そのうち一つが「社内ステークホルダーの説得」でした。
コミュニティマーケティングのコミュニティであるCMC_Meetupでもよく話題に上がるテーマの一つですが、私が最も苦労したのは「そもそも、ステークホルダーはどこにいる誰なのかを見極める必要があった」という点でした。
私が入社した当初、ユーザーコミュニティが必要であり、その立ち上げを期待されているという認識は社内にあったのですが、実際にやろうとすると、当然ですが自分一人ではできません。そこで、様々なチームや人に協力を仰ぐことになります。その際に説得すべき相手が最初はなかなか分からず、苦労しました。
必要そうであると思われる人・チームに順々に当たっていき、最終的には以下のステークホルダーに対して合意形成をしていきました。
1. 直属の上司&グローバルチーム
私の場合、直属の上司がアメリカ本社にいるカスタマーマーケティングの責任者になります。
外資ならではだと思いますが、私が入社した時点で、本社で実施しているユーザーグループのプログラムのフォーマットがすでに存在する状態でした。ですが、このフォーマットでは、私がユーザーグループの形として考えていた「ユーザー主導のユーザー会」は実現できません。そこで、本社のフォーマットはある程度踏襲しつつ、日本独自にカスタマイズする形でユーザーグループをスタートさせる、ということについて上司の理解を得る必要がありました。
2. マーケティングチーム
日本の組織においてはマーケティングチームの所属だったため、日本のマーケティング責任者が日本での上司に当たります。この方の理解と協力を得て、日本の他のチームやリーダーへの説得をスタートさせ、同時にマーケティングのリソース(集客プラットフォーム、イベントキットなど)を使うことについての承諾を得る必要がありました。
3. カスタマーサクセスチーム
カスタマーサクセス チームとは、ライン上は関わりはありませんが、実際には一番密に連携していたチームです。
カスタマーサクセスの戦略上、ユーザーコミュニティが必要であることを理解してもらい、後ろ盾になってもらうこと。そして、ユーザーミーティングや分科会を行う際の集客や、運営ロジ面で協力が必要不可欠でした。
4. セールスチーム
カスタマーマーケティングではユーザーグループの予算を持っていなかったため、最初に大規模なユーザーミーティングを行った際のケータリングやノベルティグッズなどの費用をセールスチームから拠出してもらうことについて承認してもらう必要がありました。また、各セールスのメンバーによる集客への協力も必要でした。
こうやって書き出してみると、要するに自分が普段仕事をするに当たって関わりのあるチームすべて、ということになります。
一つ一つの調整については長くなるので割愛しますが、まあ大変でした(笑)これまでのやり方を変えることへの反発や、ユーザーを巻き込むことについての是非などからなかなか理解や協力が得られず、最初の相談時の反発が大きく、しばらく放置していたケースもあります。
また、予算の承認を得る際など、私が個人で動くよりは上司や他の責任者からお願いする方が適切なケースもあり、日本の上司からアメリカ本社の上司を経由して、APACの責任者を説得してもらう、というなんだかよく分からない調整をやることになったりもしました。
コミュニティ界隈には「社内政治を制する者がコミュニティを制す」という言葉がありますが、蓋し名言なり、と思います。
ファーストピンを探して口説くことよりも、社内を説得することのハードルの方が正直高かったという実感です。
こうして徐々にではありますが、社内で合意形成が進み、ユーザーの幹事メンバーも決まってコミュニティの立ち上げが現実的になってくると、当初反対していたメンバーも、皆さん協力してくれるようになりました。
コミュニティの心理的安全性をどう確保するか
コミュニティの立ち上げに当たり、私が一番心を砕いたのが、コミュニティの場を参加者にとってどうやって心理的に安全な場所にするか、という点です。
自分がこれまで見てきたコミュニティでは、名前こそコミュニティとついているけれども、主催者側の都合を優先させていたり、特定の誰かの利益のための場作りとなってしまい、参加者が心から楽しんで見るように見えない、あるいはその場では盛り上がってもその後につながらないケースが多くありました。
こういったことを避けるために、参加者が安心してその場を楽しめない要素となるものを、徹底的に排除するようにしました。具体的には、以下のようなものです。
・営業要素を排除する
"Sell to the community"はNG、というのはコミュニティを志す方であれば誰もが理解している定説ですが、これは徹底しようとすると案外難しいものです。特に、コミュニティに関わる他の社員にいかに理解してもらい、徹底するかというところに苦労しました。
例えば、ある参加者が運用で困っていると点について話をしているときに、すかさず「それを解決できる弊社のこんな製品があります」と社員が製品説明を始めてしまうケース。途端に、聞いている方や他の参加者がさあっと引いていきます(苦笑)ベンダーがユーザーコミュニティの場で営業的な製品紹介をするのは、ユーザーから望まれない限りは極力避けるべきですし、商談はコミュニティとは別の場でやるべきだと思います。
また、案外見落とされがち、かつ線引きが難しいところもありますが、同時に幹事メンバーや参加者からの営業的な話題も極力排除するべきだと思っています。
たとえば、ある幹事企業候補と最初に話をした際に、先方がコミュニティの場を活用して自社の宣伝を行いたいという意向を持っていることがわかりました。自社も含めて宣伝は一切行わない趣旨であることを説明し、理解した上で幹事メンバーになっていただきました。
・パートナーの主管部門の参加を遠慮していただく
直販のみのプロダクトであればこの心配はないと思いますが、パートナー経由の販売を行っている場合、パートナー企業からも参加したいという声(あるいは、パートナー担当の自社社員から、パートナーを参加させたいという声)が上がります。
ここは悩みましたが、結果的にパートナーの主管部門(つまり販売にかかわる方)は参加を遠慮していただくというポリシーにしました。理由としては、営業要素を排除するため、そして複数のパートナー企業が参加することで、ユーザーの奪い合いのような利害が発生するリスクを避けるためです。ただ販売パートナーであっても、エンドユーザーとして自社内の推進を担当する立場の方であれば参加OKとし、エンドユーザーの立場で参加していただくことにしました。
・お客様要素を排除する
参加者を「お客様」としておもてなししてしまうと、その場は「ベンダー対お客様」という構造の、ベンダー主催セミナーのような場所となってしまいます。
ユーザー同士の活発な意見交換や、当事者としてコミュニティを作っていく機運を生むためには、参加者を「お客様」として丁重に扱うのではなく、コミュニティの場を一緒に作っていく同士として関わっていただくことが大事だと考えます。
例えばわかりやすいところでは、ベンダーのセミナーでありがちな「お客様の到着時、お帰り時に担当社員がアテンドする」「会の間中、スーツを着た営業担当者が会場の後ろで何十人も立って聞いている」「懇親会中、お客様を社員が独占する」といった行為をしないよう、社内で事前に周知しました。
・ベンダーへの忖度を排除する
愛あるユーザーほど、プロダクトへの積極的なフィードバックがあり、時にベンダーにとって耳の痛くなるような意見をくださるものです。また、時に批判的なコメントが出ることもあります。場の雰囲気にそぐわない、一方的な批判や要求であればある程度コントロールも必要でしょうが、私の場合は、議論の中で自然と出てきた、事実に基づく自社への批判的な意見に対しては、できるだけ反論や自社の擁護は行わず、フィードバックとして中立的に受け止めるようにしました。でないと、ベンダーから反論を受けるのでは、という忖度から発言を躊躇する参加者が出てきてしまう可能性があると思ったからです。
これらの行動規範をルールとして定めているコミュニティも多いかと思います。
私の場合は、最初から全てを想定するのはなかなか難しく、やっていく中で特定の状況に直面する都度「これはありか?なしか?」を判断していくという形で進めていきました。社内外、様々なところから意見や圧が発生したこともありますが、「参加者の心理的安全性を確保する」ことを最優先に考えて、毅然とした態度で臨むことがやはり大事だったと思います。
ユーザーの声をどう受け止めるか
]上記の最後の項目にも関連しますが、コミュニティの場で聞けるユーザーの生の声というのはベンダーにとっては本当に貴重で、宝の山として大切にするべきだと私は本気で思っています。これは何も、すべてのユーザーの要望に応えるべきだと言っている訳ではありません。
例えば、ミートアップで出てきたユースケースや運用上のTipsをSalesやSEが知ることができると、彼らが顧客と会話する際や商談のネタになります。
一般的に、SalesやSEは自社が担当している特定の顧客以外のことをあまり知らないので、いろいろな顧客のケースをネタとして教えてあげると、喜ばれることが多いです。生の情報を商談の場で生の話ができれば、顧客の信頼にもつながるでしょう。
(もちろん、話し手の承諾なしに顧客名や機密情報を伝えることのないよう、抽象化や配慮は必要です)
機能に関するフィードバックがあれば、それをプロダクト担当者に伝えます。複数の顧客から同じ要望が上がっていれば、開発の優先順位を上げやすいため、コミュニティの場でたくさんのユーザーからのフィードバックを吸い上げることはとても意味のあることだと思います。
私が立ち上げたコミュニティの場合は、Slack上でユーザー同士が情報交換できるオンラインコミュニティを立ち上げ、メンバーからの要望で「リクエストチャンネル」を作りました。
改善要望をベンダー側に上げる窓口は他にあったため、Slackチャンネルは窓口ではなく、「ユーザー同士で、ベンダーに対して、どのような要望を持っているかを情報交換する場」として設定しました。参加者の期待値を調整しつつ、ユーザー同士でどのような要望を持っているかを意見交換してもらうことで、ベンダー側としても要望の背景がよく分かって良い取り組みになったと思います。
これらの点を工夫しながら、ユーザーさんと一緒にコミュニティの準備を進めて行きました。
ということで、これまで、コミュニティを立ち上げるまでの準備の話を主にしてきました。後編では、立ち上げとその後に直面したコロナ・ショックの対応についての話をしたいと思います。続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです!
追記:公開しました!
これまでのところでご意見やご感想、ご質問があれば、ぜひどうぞTwitterでお気軽に話しかけてください!待ってます。
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