俺様河童
俺様は今 昼餉の時間
堤で悪さしてた童らのへそを箸に摘んで 口に運んでいる
至福の時さなー 「あ〜〜ん パクッ」
パシャ パシャ 何やら気になる音が・・あっっつあっっあああ
小さい足の裏が水面にうごめいているではないか
静寂で厳粛な俺様の聖餐の時はかき消され
いたずら心が ムクムクと内側から本能の炎のように沸き立ってきた
「え〜い いっちょやってやれー あんななまっちろい足のやつなんか
あっという間もなく 俺様のおやつTIMEの生へそにしてやれぃ」
きらきら水をかきあげている足の持ち主の童の顔の鼻先に
俺様は顔を突き出した
「おい お前 俺様が誰か分かるか?」
「誰? 知らないの あたし今日引っ越してきたばっかりだから
何にも知らないの あんた 誰? この村の初めての友達になってくれるの?」
「おい おまえ 俺様のことしらねえのか? この堤は俺様のものだ
この堤で遊ぶには キマリがあるんだぞ それも知らねえんだな」
「知らない 誰も教えてくれなかったの キマリってなあに? あんたと遊べるキマリってなあに?」
(けっ ちょろすぎる つまんねぇくらいあっけないぞ)俺様は呟いた
「それはなー とってーも すてーきな秘密が混じってるのさー
おまえ 秘密 守れるかー?」
「えっ素敵な秘密? 守れるわ 女の子だもん お母さんが言ってたの
女の子は歳の数の秘密を守れるようにならないと本当の女にはなれないって」
「お前のおっかぁ 変なおっかぁだな まあいいか 俺様との秘密は一生涯お前が死ぬ時まで続くんだぞー いいのかー」
「すっごいー 人生最大の秘密が一生続くなんて あたしラッキーかも」
(こいつ ばか?)
「で その秘密って なあに?」
「それはな おまえのへそを俺様がいただくってことなんだよー」
「へ そ?」
「へそだよ〜 お嬢ちゃんっだっけ おまえさんのその柔らかそうなへそを
俺様は頂きたいんだよ〜へへへ〜」
「あなた そういえば 顔色が悪いわ もう水から上がったほうがいいんじゃない?」
「けっ 調子狂うやつ 俺様は水の中に住んでんの! 俺様の家系はみんなこんな顔色なの! 病気じゃありません! 人のこと記にしてる場合かっ! お前って根っからのばか?」
「おへそのことね お母さんから生まれてくる前にお母さんの身体と繋がってたんだって おなたのおへそは?」
「あっ それ 聞くんだ 無いよ! 俺様は母なんぞの身体から生まれたりしないのさ 人間みたいな下等な生き物とは少しばかり違うんでね エヘン」
「あっ 運命的出会いだわ なんか本で読んだような気がする 地球外生物との出会いはある日突然だって」
「変な本読んでんのね もう いい 頂くぞ へそ!!」
「痛くなければいいよ へそ無いんだもんね あたし もうへそは使わないからあげるよ でもどうやってあげたらいいの?」
「言っとくけど 消毒も痛み止めもなーんも使わないからな
俺様のこの手のひらを おまえのへその上にくっつければ ほらみるみるうちに お前のへそが吸い寄せられて〜」
ひゅぴゅっ
「なに? 今の音?」
「お前のへそが俺様のへそ魚篭に入った音さ ケケ ケケ ケケケ」
俺様は全速前進で水面から立ち去った
後は知ったこっちゃない あの薄のろな童がどんなへそ無し人生をおくっても
何の関係もない 第一要らないって言ったんだからな へそを大事にするのは今時俺様くらいかな へその有り難みももう地に落ちたね〜
10年後
俺様河童は年を取らないから ずっと俺様のまんま
朝っぱらからなんだかさざなみが立ってるぞ
誰かが 枝で水面をかき回してるじゃねーか
落ち着かねーなー 俺様 気の向かねー時は働きたくないんだからね
ほっといてくれよ 独りが好きなええ大人なんよ 童顔だけど
さざなみは一向に収まらない それどころか
小さなポンプの発動機の音が ぽんぽんぽんぽん ジャブジャブジャブ
「ん? 何始めた? 水抜こうとしてる? ばっかじゃねーの?
ここは堤だよ 水抜いちゃダメなのよ〜 」
「コラッ お前 何やってる! 誰に頼まれて水抜きやがって
うるさいわ こんな時間に へそ 取ってやろうか!!」
「あ〜 お久しぶりです あたしです 10年前におへそ取ってもらった
希子です あたし おへそ取ってもらったおかげですごく良い人生送ってるんです ありがとうございました」
「あっ へえっ〜 いやいや ん? 御礼? じゃなんで水抜いてんの?
イキナリ来て 迷惑でしょうが」 (あ〜無理か あのこじゃ 礼儀なんか覚えなさそうだもんな〜)
「あたし 山口河童祭りでミス河童に選ばれたんです」
「あ そう 良かったね そんな祭り認定してないけどな」
「1次審査は書類で 2次は筆記 3時はプロフィール写真の撮影だったんです」
「勿体つけた審査だね それで 三人受けて三人合格なんでしょ 田舎なんだから 仲良し中3トリオで卒業記念に役場のおじさんに言われて受けたんでしょ 商品が米俵1俵ね はいそれで なんで水抜いてんの?」
「あたし パリに行くんです 」
「飛ぶねー あんたの話 いってらっしゃい 水戻してからにしてね」
「一緒に行きたいんです」
「あんた ばか? 俺様はここがいいの ここからどこにも行かないの
水っペリが俺様のテリトリーなの このままで案外幸せなのよお嬢ちゃん 俺様のことは忘れてほっといてくれたほうが俺様のためになるのよ 分かる?」
「一回だけ いってくれませんか? 一回だけでいいんです」
「やだ 帰れ!もうくんな 第一秘密のはずだろ? 守るっていったじゃねえか 俺様はお前のことなんか忘れてやってんだぞ だから女はしつこいってんだ これ以上言うと お前を不幸にしてやるからな!」
「あたし 御礼がしたいんです へそ欲しくないですか?」
「へ そ? お前 もうへそ ねえじゃねーか」
「あるんです パリに へそがいっぱい」
「ど どんな へそ な の〜 〜」
数日後 パリの最高級のホテルの最高の部屋では毎晩こんな会話が
「へそってそんなにいいの?」
「ああ いいよ〜 もう へそ さいこう〜」
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毎日この部屋に訪れる
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暁 2016/4/18