ショートショート 4/7 「KEMUSHO」
佐藤 道忠(24)
"我が友人 後藤充へ"
朝6時起床という健康的な時間に目覚める。部屋には4人の同居人。みな囚人である。
朝の点呼が終わると、食事の時間だ。食事が終わるとラジオ体操をして仕事をする。仕事は裁縫をする時もあれば部品作りをする時もある。数ヶ月毎に変わる制度である。そして、1時間の昼休憩を挟み、午後の仕事をする。8時から16時までの仕事を終えると夜ご飯を食べ、週4日はお風呂に入れるので入れるときは入り、21時まで自由時間を過ごし21時消灯である。
私が収監されている刑務所の1日はザッとこんな感じだ。刑務所というのは人間を更生させるのが目的であるが、ただ力で従わせ己の弱さを実感させる場所ではなく、自らが自分を律するために組まれてるプログラムなのだと思う。娯楽がないと人間色々考えることも変わり、普段考えないようなことまで頭が回るみたいだ。
ここらで、私の最近嬉しかったことを報告したい。仕事と仕事の合間に休憩時間があると書いたが、ここで私は刑務所が設置してくれた難関アスレチックに挑んでいる。「KEMUSHO」という名前らしい。この硬い施設に少しのユーモアがあるのはとても良い。このKEMUSHOをクリアするために夜の自由時間はほとんど筋トレに当てた。
ビックリするだろう。私が筋トレなんて。なんせ、ここに入る前は100キロ近くあったんだからな。後藤を驚かすために今の体重は伏せておこう。
初めは他の囚人が挑戦するのを散歩しながら見ていたがクリアするやつがごく僅かだがいる。そいつらは達成感溢れる表情をしており、周りの囚人も拍手をする。1ヶ月経ったあたりから私も挑戦し始めて、長い年月を掛け、ようやく、ようやく、クリアしたんだ。後藤よ、熱意を正しい方向に向かわせるというのは案外良いのかもしれない。刑務所から出たら美味い飯をたらふく食うのが願望だと以前書いたが、刑務所の食事メニューをそのまま食べ続けるのかもしれない。
夜の自由時間にこの手紙を書いているのだが、もうそろそろ消灯時間が迫ってくるから、私は最後に筋トレをしなければならないから、ここらで〆る。
"KEMUSHOクリア者 佐藤道忠"