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母に「あなたを産んだ記憶がない」と言われた話

ある日、母に「あなたを産んだような気がしないのよね」と言われた。
“知らない人”というわけではないが、自分の子どもだという感覚でもないらしい。
私が、31歳の時のことだった。

母は認知症でも、記憶喪失でもない。
精神病なのだ。

母は言う
「眠っていた人格が起きてきて、あなたを産む前に戻った気がする」と。

私は驚かなかった。
「そっか、それなら今同い年くらいかな?」と笑ってみせた。

母が“普通”とは違うと気付いたのはいつだっただろう。
どうやら、私が生まれる前からうつ病だったらしい。

幼い頃は、感情が目まぐるしく変わる恐い母だと思っていた。
「一寸先は闇」常にその言葉が頭に浮かんだ。
ついさっきまでケラケラ笑っていても、
次の瞬間には鬼の形相で私をまくしたてる。
昨日は許されたことが、今日は許されない。
思春期にはそんな母が嫌で、早く家を出たいと思っていた。
大学生で一人暮らしを始めると、母と疎遠になっていった。

そんな母とまた関わりを持つようになったのは
私が就職した頃だっただろうか。
なにがきっかけだったのかはもはや覚えていないが、
今まで恐ろしいと思っていた母が、
歳を取ってやけに小さく見えたことはよく覚えている。

おそらくその頃から母は精神病なんだと思うようになった。
私も大人になり、さまざまな情報に触れるようになったことや
母の過去のトラウマを聞いたことでそう考えた。


私は決して母が嫌いなわけではない。
幼い私にとって母は恐い存在ではあったが、
母が私のことを一生懸命愛してくれていたことは分かるのだ。

ただ、この気持ちをどうしていいかわからないのだ。
「病気だからしょうがない。」それで片付けられたらどんなに楽か。
いまだに母の感情に振り回されることが多く、
その度に「母は病気だからしょうがない」と言い聞かせる。
でも、自分の感情が追いつかない。


今までどこにも吐き出すことのできなかった感情を
ここで少しずつ吐き出させてほしい。
きっと私よりもずっと大変な思いをしている人は世の中にたくさんいるだろうし、
病気である本人が一番辛いのは承知の上だが、
ただ、知らない誰かに聞いてもらいたかった。

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あきかん
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