連作短編小説「婿さんにいってもいいか」あとがき

【あとがき】

 この物語は2001年にウェブマガジン「月間しまねIWAMIマガジン」で連載していたものを、加筆したものです。

 当時、毎月更新の暦に沿って、実在する邑智郡での祭や行事を紹介する形で描きながら、Uターンや移住してきた若者たちの一年を物語にしました。

 私自身も邑智郡で暮らした一人でした。
 1993年から農村体験実習生として1年、その後、地域の振興を司る機関の業務を4年勤め、さらにフリーのライターを名乗り2年、この計7年、邑智郡生活を営んでいました。(当時公開されたブラッド・ピット主演の映画のタイトルをもじって『セブン・イヤーズ・イン・おおち』なんて言っとりましたな、私。)結婚を機に関東へ越し、その一年目にこの物語を仕上げました。

 23年たって、実在していたイベントや店舗がなくなったりしたものもありますが、オシャレな空間は増える一方です。限界集落、過疎地、高齢化…。当時はマイナス要素としてばかりとらえられていた現実が、実は豊かな宝物だったことが証明されている形です。

 2001年から「現在」を舞台に加筆する過程で、一番難儀したのは「携帯」です。時はスマホ前のネット時代。インターネット接続するには、コードで電話線につないでピーピーガーガーやっていた時代です。携帯電話だって、まだまだ一般的に普及されていなくて、そもそも邑智郡内では電波が届かないところが多かったのです。当時の私は仕事先からの電話に煩わされたくなく、「取材」と称して山や川にふらふら出歩いては、「電波とどかないんですよねぇ」と携帯を持たない言い訳にしたりしてました。

 「今」読んでいただく皆さまを思い浮かべながら、設定を「今」にしたのですが、加筆しながら、オリジナルの2001年に20代だった敬太や栄子たちはどうなってるだろう?と想像してニヤニヤしていました。
 邑智郡の山も川も、20年少々じゃ変わっちゃいないでしょう。
 人間が「ちょっとだけ」年を拾っただけ。
 そう、年は「とる」んじゃなく「ひらう」。
 邑智郡で習いました。
 20代だった彼らは40代。
 本当にユーチューバーにもなって、農家民泊とかしてそうです。
 子どもが矢上高校野球部で甲子園まであと一歩…かも。
 50代だった親世代は70代。70代だったじいちゃんは90代。一番かわっていないかもしれません。今も赤い運搬機で田に降りていることでしょう。

 これと同時期に、財団法人邑智郡広域振興財団のHPに『やまだのおおち』を連載しておりました。もちろん、神楽の『八岐大蛇(やまたのおろち)』ではありません。いや、ねらってネーミングしていますがね。『山田家』の『おおちくん』が主人公の連載小説で、こちらは毎週更新していました。はい、この『婿さんにいってもいいか』でも【7月】にチラリと登場しています。

今日の会合は農林水産省から派遣されてきた職員の呼びかけだった。彼の名前は森野大地。大地と書いて「オオチ」と読むらしい。東京生まれでも邑智郡に派遣されてくるのが運命だったような人物だ。山田家に滞在しているので『やまだのおおち』と呼ばれているらしい。まぁ、これは、また別の話だ。

 同じ時期の同じ場所を舞台にしているので、ちょこっと登場人物をリンクさせたりしてました。
 この『やまだ』家の『おおち』君は、実は、2030年の国家公務員で、2001年の邑智郡に出張してくるという『おバカ』な話です。2030年の邑智郡は全国でも群を抜いて『裕福な暮らしを満喫できる幸せな村』となっていて、21世紀初頭では過疎であえいでいた中山間地域が、なぜ発展したのかを調査しにきたという設定です。
 冷静沈着な人格をかわれ、この任務に選ばれた彼が、邑智郡で暮らしていくうちに喜怒哀楽を表現できる人間に成長していくお仕事ドラマでもあり、ハンザケ(特別天然記念物のオオサンショウウオ)が『Aカゲン2星(ええかげんにせぇ!)』から移住してきた異星人なんてSFもあったり、基本コメディだけど、ちょっとした風刺もあって、出生の秘密とか、30年の時をこえたラブロマンスもあり、なんやかや詰め込まれた、ほんとに、なんでもありのHAPPYな邑智郡のようなお話です。
 機会に恵まれれば、こちらでも載せていきたいな…と野望を抱いております。

最後に、2001年に書き始めたとき、物語の最初につけていた文章を記して終わりとします。

この物語は島根県邑智郡を舞台とした絵空事です。
よく似た地名や人名など登場し、
「一部」モデルにしている部分もありますが、
100%事実であることは「まれ」です。
ただし、登場するイベントは本物です。
もしかしたら、他にも隠された真実が描かれているかもしれません。
興味あるかたは邑智郡へ。
その後で真実か虚偽か判断をおまかせします。
さ、皆さん、邑智郡へ!


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