焼きそば離婚
私は卓と二人でコンビニから出たときに、店員さんから差し出されたクリスマス商品のパンフレットを差し出されたことに気が付いた。
車の鍵とスマホを手にしていたので、もう両手がふさがっているのに、さっそうと商品を持って外に出てガレージへ向かう。
「亜咲さあ、この焼きそばすごく重いよ。きっとおいしいよね、早く帰ろう」
「ちょっと待ってくれないかな、バッグにスマホしまいたいの。車のキーを持ってよ」
「なあ、塩焼きそばも捨てがたいよな。もう一個買いにいこうか?」
「卓? 聞いてる、車のドア早く上げてくれないかな」
キレ気味に私が言うけれど、さっぱりとした顔をして振り返る。全く私の言うことを聞いていないようだ。5歳年下の30歳はいつまでも子供のままだ。
私の手から、車のキーを取ろうとして落としてしまう夫。
なんだよ、もう。どこまでポンコツなんだ。この車だって私の貯金で買ったものなのに、この前、タイヤのホイールを路肩でこすって傷をつけてしまった。見積では3万円かかると言われているので、ランチに行くところを我慢してコンビニで済ませようとしているのに、まったく反省していない。
私は黙って車のドアを開けるとアクセルを踏み込んだ。
「ごめんね、気が付かなくて。怒ってる? ごめん」
「いつものことじゃない。食べるものを見たらなんでこんなに興奮しちゃうの。まるで子供じゃないの。私はソース焼きそばはいらないの。パスタがいいって言ったじゃない」
この前、スマホニュースで夕食に焼きそばだけが出たら離婚した男性がいたとのことだったが、うちは今、食べ物の買い出しで揉めている。
と、言うよりも子供のような年下夫がポンコツで使えないことにいら立っている私は不安に苛まれる。
今朝、妊娠検査薬を試してみたら陽性だったのだ。仕事もこの便りない夫も今私が抜けたらどうすることもできないのだ。隣でクリスマスのパンフレットを見ながら更にテンションが上がる夫に、私は公園の横に車を止めた。
「卓、聞いて。あなた、パパになるのよ。来年の夏が来る前に……」
「え? 亜咲、どういうこと」
「だから……」
「これからはノンアルコールビールにしようね。後で僕がバイクで買いに行くからね。パスタも買いに行くよ」
これだから焼きそば離婚なんてワードができてしまうんだな。この人が旦那で大丈夫なのだろうか。私は自信がないけれど今はハンドルを握って笑っている。これぐらいおおらかな人の子供だからきっとよく笑うのだろう。
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