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大阪G.I.
G.I.ジョーではない。日本ワインがメジャー舞台に登り、ソムリエ・ワインエキスパート試験でも必須になって久しいが、大阪のワイン作りについて考える機会はほぼ無かった。きっかけは今年。独学でソムリエ資格を取った立場としては心苦しいのだが、初めて試験対策講座を担当することになった。自分が受験した四半世紀以上前には「日本ワイン」が項目として存在することすら想像し難かったが、なんと大阪が2021年にG.I.(地理的表示)を受けたのだ。
地理的表示とは端的に言えば、その産地の名を名乗るための条件を整えた産品で、ワインの場合、酒類業界にとっては神であり、絶対的存在の国税庁長官が指定する。酒類業界が最も恐れる税務署。それは税金を徴収するだけの存在では無い。酒類の製造から販売、その全てが免許制であり、それを司るのが税務署である。まさに生殺与奪権を持っており、申請して免許が下りるのも、違反をして免許が剥奪されるのも所轄税務署の酒類指導官の一存なのだ。国税庁長官といえば全国524税務署のトップ。まさに神なのだ。
脱線した。大阪G.I.だ。(大阪G.I.ブルースという演歌がありそうだが)ソムリエ試験の教本によれば日本ワインのG.I.は山梨県が2013年に指定、続いて北海道が2017年に指定、そして2021年に長野県が指定に加わる。ここまでは現在の日本ワインの人気産地を考えれば納得である。ところが2021年に指定されたのは長野県を含めて3県。山形県はリースリング・リヨンという特徴的な品種や優秀なマスカット・ベイリーAを産し、タケダ、高畠、最近話題のイエロー・マジックなど人気ワイナリーも多く異論は無い。
驚愕は大阪だ。対策講座で受講生を前に、「はーい、全てのG.I.は超重要なので暗記してくださいね」とか言っておきながら、大阪のワインを飲んだこともなければ、ワイナリーの名前も教本で初めて知ったものばかりだ。しかも大阪G.I.の特徴として書かれている品種はデラウエア。受験クラス第2回目の講義でワイン用には適さない、と教えるヴィティス・ラブルスカ種ではないか。それでG.I.を指定されるとは・・・ 果たして時の国税庁長官はご乱心か、はたまた重たいお饅頭でも大阪からもらったのか?などと勘繰ってしまう。
マルシェ・ド・シャンパーニュという150種類以上のシャンパンが試飲できてしまう夢のようなイベントがある。5月は東京・恵比寿、10月は大阪・梅田で開催される。昨年よりシャンパーニュ・トリボー(なんでいきなりトリボーなのかは別の機会に書く)は東京に出展。大阪は今年初登場となった。マルシェ・ド・シャンパーニュ大阪は大盛況だったがこれはまた別の機会に。
10年振りに訪れた大阪。大阪G.I.の秘密をあばく絶好の機会だ。ワインの先生らしく綿密にソムリエ教本や、ホームページを調べまくって最もG.I.を表現するワイナリーを訪れるワイナリーを決定するのは当然。とはせず、新しく出来た梅田の駅ビル・ルクエでグラスの白を飲みながらGoogle Mapで「ワイナリー」と入力。梅田から行きやすく、一人でも見学ができる河内ワインを選択。河内ってのもなんとなく大阪っぽいし。
河内ワイン。当然事前知識はゼロである。行き方もGoogle先生に言われるまま。大阪の大動脈・御堂筋線に乗り、阿倍野から近鉄に乗る。初近鉄でテンションが上がる。しばらくはちょっと古めの住宅街を進むが30分ほどで車窓にこんもりとした丘がいくつか見え始めた。「ん!」遺跡好きの琴線が即反応。古墳だ!堺の仁徳天皇陵(今は大山古墳というらしいが)のイメージがあって内陸部に古墳は無いものと思っていた。慌ててGoogle Map(またか!)を見るとこの沿線は古墳集合住宅。しかも保存状態が良いものばかり。しまった。梅田でお好み焼きを食べてる場合では無かった。見学の前に古墳行けたことを悔やむ。
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気を取り直し、最寄駅の駒ヶ谷(コマガタニ)で下車。訓読みが多いのは大阪の特徴?関東では「町」はチョウの発音が多いが、大阪ではほぼマチの発音である。改札を出るとチョーヤと書かれた建物がまず目に入る。あとで知ったのだが、チョーヤ梅酒の本社はここなのだ。徒歩10分ほどで「河内ワイン館」と趣のある建物に着いた。
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見学コースの料金(2,200円)を払い、どうせバレるので先に名刺を出して身分を明かしておく。自分の経験から言っても専門家に初心者向けトークをしてしまうほど恥ずかしいことは無いからだ。見学は筆者を含めて5名の少人数。ワイナリーの中で河内ワインの歴史やワイン作りの話からスタート。
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