共創する時代におけるパーパスの重要性
オープンイノベーションや共創事業というテーマのもと、スタートアップから大企業問わず、他社とパートナーシップを組んでビジネスを創ろう、ということは日常的に行われるようになった。3~4年位前から、経営コンサルティング会社へのCVC立ち上げ支援依頼が一気に増えた、という事実も確認している。
共創という名の丸投げ
そのような時代背景の中、私自身もいくつか、企業同士が協力してサービスを創ろうとする現場に関わったが、実態はなかなか共創とは言いがたいケースもある。
残念な例をあげると、大企業とスタートアップの共創のケースでは、大企業側は、「自分たちはアイディアは考えられないけど、圧倒的な資本と顧客基盤を有している、だから儲かりそうな新しいサービスはスタートアップが考えてね」といったマインドが根底にあったりする。
そうすると、なぜか大企業が高飛車になっていたり、話を詰めていて壁にあたると、一緒に考えるのを放棄して突然別のスタートアップに鞍替えしようとしたりする。
また、大企業同士の共創でも、経営陣どうしが決めてきた「なにか一緒にやりましょう」というふわっとバナシを具体化するために、両社の現場社員がプロジェクトチームを組成させられる。
しかし彼らがプロジェクトを心から自分ゴト化することが難しく、結果「役員会議で承認もらえそうな案」をゴール設定にして、それぞれが決められた範囲を決められた手順でこなしていこうとする。
結果、承認貰えてリリースしたけど全然スケールしない、グロスハックなんて誰もしようとしないので、ひっそりとクローズするということも頻繁に起きている。
パーパスが共創の鍵
今回講演に来ていただいた、株式会社リ・パブリックの田村大氏は、
「共創においてはパーパスが大事」と語られていた。
つまりは、我々でどんな世界観をつくりたいのか、ということをパートナー企業同士、プロジェクトメンバー間で、腹落ちできるレベルでしっかり言語化することが、とても重要であるということ。そうなると、ビジョンドリブンでものごとが進んでいき、各メンバーが同じベクトルに向かって自律して思考し、行動し始める。
ありがち、かつもっともダメなのが、「パーパスとか、大事な気もするけど、次の報告会に向けてビジネスリーンキャンバスを早く作って、今日の仕事を終わらせよう」となることだ。ここにミッションドリブンの仕事の限界がある。
パーパスはどうやって醸成するのか
たとえ集められたメンバー同士であっても、それぞれがやりたいこと、考えていることを吐き出し、統合したりアブダクションしたりしていくことで、世界観を創っていくことができる。そのために、心理的安全性の確保や、絵をかいたり、寸劇をしたりといったような、様々な手法が現場では試されている。
もう一つは、誰かの強烈な「実現したいこと」に共感した人たちが集まるケース。私はこれを「圧倒的主観力」と呼んでいる。これはスタートアップやアーティストの行動様式に多く見られる。この「圧倒的主観力」がエンジンになっているプロジェクトは、非常に厳しい困難なシーンでも、中心者は簡単には諦めず、精力的に取り組む姿が周りのメンバーに作用することで、組織として強くなっていくことが期待できる。
しかしながら、後者を企業内で推進することは難しい。個人が強烈にやりたいことがあっても、社内のいろんなミッションを持った人たちに説明して了承を取っていかねばならず、そんなことやってられないから自分でやろう、他社に行こう、となってしまう。そしてそこまでできる人は少なく、大概は諦めている。
この「やりたいことのあきらめ」を身近で見るととても悲しい気持ちになる。新規サービス立ち上げ支援に携わるようになって、あきらめと妥協のシーンにたびたび出会うようになり、なんとかできないだろうか、と思う。
個人の「主観力」がもっと発揮できる土壌をつくり、そしてそれがちゃんと成果が出せるように仕立て上げていくことが実現できれば、とても面白いはず。その実現方法の1つとして、ビジネスとデザインのスキルを融合して活用する「ビジネスデザイン」という領域に可能性を感じている。