<第15回> コーチング例 ②水飲みタイムは作戦タイム
前回同様、ラグビーコーチとして、現場でコーチングをしていたときに工夫していた例を紹介したいと思います。(大した工夫や経験ではないのが前提でご覧ください💦)
私が高校生、大学生の頃、練習中に修正点や気になることがある時は選手同士でよく話し合いました。
当時は現在のように、テレビモニターもホワイトボードもグラウンドには無く、土のグラウンドに枝や小石でフォーメーションを書いたりして、お互いの理解を深めようと話し合いました。
高校も大学も当時、他校に比較すると決して長い練習時間のチームではありませんでしたが、そういった時間は充分に取れていたように記憶しています。
私が指導者としてコーチングを開始したチームの練習時間は、平日(月〜金)は火曜日と木曜日の週2日、1日最大90分(冬は60分)というなかなかの環境でした。
「しっかり考えてプレーしよう」「仲間同士、意志疎通しよう」とコーチングすると、選手たちは当然のごとく、練習中に話し合いを始めます。
すると、ただでさえ少ない練習時間はあっという間に無くなっていきます。
「頭は使ったけど、肉体はまったく疲れず、スキルも向上せず」、そんなジレンマに陥っていました。
そこで、コーチである私の動きを90分間録画した映像を職員室であらためて見直しました。
すると、90分間の練習の間に水分補給をする回数が7〜8回あることがわかりました。
そして、水分補給の1回の時間はそれぞれ60秒程度費やしていることがわかりました。
次の日の練習で水分補給をしている選手を観察しました。
最初の10秒程度で水分補給をして、残りの時間はボトルを手にしながら会話をする選手と、ただ黙って次の練習指示を待つ選手がいることがわかりました。
【水分補給】&【60秒前後】、、、
「あ! これはトライ後(トライした後、トライされた後)の光景、状況と一緒だ!」
そう感じた私は、【水飲みタイムは作戦タイム】にしよう!と選手に提案しました。
私が選手時代、トライをした後、トライをされた後、水分補給しながらキャプテンを中心に選手同士で「ああでもないこうでもない」と話しあったり、チェックしたりしました。
チーム状況が悪いときは、そう言ったコミュニケーションも取らずに各自が黙々と水分補給して、といった時もありました。
そこで、次にさまざまなチームがトライをされた後、インゴールで水分補給しながらどんな話し合いをしているか観察してみました。
(ラグビーの練習試合では、コーチ陣はベンチではなく、真後ろから15人全員の動きや配置が見えやすいゴールポスト付近で見学するケースがあります。そこにいればトライ後のチームの会話を聞くことができます。)
すると、いくつかのパターンがあることがわかりました。
① キャプテンがリーダーシップを発揮して、1人でスピーチ。
② 何人かの影響力ある選手が修正点を提示したり指摘したり。
③ お互いの責任をなすりつけあい、険悪な雰囲気。
④ 色々と話し合っているが、精神論がほとんど。
⑤ 色々と話し合っているが、結論は出ず。
⑥ そのほか、、、
いずれのケースもゴールキック終了して、ピッチに戻る時の最後の掛け声は
「気合い入れていこうぜ!」や「集中!」が多かったです。
せっかく60秒話し合う時間があるのに、最後のまとめが「気合い入れていこうぜ!」や「集中!」では、「気合いはいってなかったんかい!集中していなかったんかい!」とツッコミたくなってしまいました。(苦笑💦)
そこで選手にはこう提案しました。
「トライされた後、トライした後、水入れタイムを作戦タイムにしよう。
我々のチームはその時間で15人の意思統一をして、トライ後にさらによくなり、トライされた後は課題が修正されたチーム力が向上した状態でリスタートしよう。」
「相手チームからしたら、我々チームはトライ前後でチームが進化していく。
そんなチームって相手からしたら厄介だし、面白いよね!」
しかし、実際に練習試合ではじめてみると、なかなかうまくいきません。
今考えてみれば、当然です。
大人のわたしたちでも「わずか60秒で課題を抽出し、その課題解決策も導き出し、なおかつ15人全員が同じレベルで共有する。」
これは相当に困難です。
しかし、一方で困難なことは極めれば大いなる強みになる。
そう信じて、このスキルを向上させることにしました。
前段が長くなりましたが、練習中の水分補給タイムをそのトレーニングに充てました。
1回の練習で7〜8回、そのトレーニングが実践できるため、まさに塵も積もれば山となるです。
その後、私の後の指導者のコーチングもさらに重なっていき、さまざまな工夫を重ねて現在に至っているようです。
現在では、<60秒間のコミュニケーションスキル専門のコーチ>も招くなどして、「最初の20秒で◯○をして、次の15秒で△△、最後の10秒で◇◇」などなどメソッド化もされているようです。
最後に笑い話ですが、
就任当初は100点ゲームで負けることもあり、インゴールでの話し合いばかりの試合もありました。
「先生、たくさん話し合いできました!」
「そうか、よかったね。次はもう少しラグビーしようね、、、」
また、自分自身が高校生の頃、当時の神奈川県絶対王者の相模台工業との練習試合で連続トライを取られた後のインゴール。
キャプテンが「もうダメだ!」と叫んだときに「何を言ってるんだ、お前は!」とみんなで総ツッコミを入れたことを思い出しました。(現在映画プロデューサーで活躍しているキャプテン熊谷喜一本人は否定していますが、私にははっきりと聞こえました。笑)