#2 リサーチの答えは自分の中にある
つい先日、下記の記事が話題になっていました。「データサイエンスという言葉の響きだけで、実態とは異なる過度な期待や誤解を受けてしまう」といったような内容です。データやリサーチという手段ばかりに注目が集まり、あたかもそれらが万能であると思い込み、活用する人々のリテラシーこそが重要であるという観点が抜け落ちてしまっているためかもしれません。
リサーチワークでは、様々な手法やツールを使って情報収集を行います。そこで収集する情報は、顧客や市場またはそこでの活動などに関する様々なデータです。この工程は一見すると「顧客や市場から答えを得る」という行為に見えるかもしれません。しかし本当は、答えは顧客や市場ではなく自分自身の中にあります。
自分自身のバイアスに気づけるか
先日、ある疾患・医療に関する調査を行いました。その疾患は早期に治療すれば予後良好なのですが、初期の症状が軽いため病院へ行こうとする人が少なく、いかに早期からの治療を開始させるかが課題でした。そのため事前に検討していた施策案では、早期治療の重要性や治療遅延のリスクを伝えて、早くから治療に向かわせるよう仕向けることが基本的な考え方でした。ところが患者へのインタビューから帰って来たのは「病院には行きたくない」という答えでした。患者の話によると「自分にとって病院は平穏な日常とは異なる場所で、そこに行くということは自分が正常ではないと感じてしまう。行ったほうがよくても、できれば行きたくないし、病院へ行くということ自体に抵抗がある。」ということだったのです。
確かに言われてみれば病院は特別な場所だし、自分だってできれば行きなくない。通院したほうが良くてもなんだか足が向かない、というのは見落としがちな真実だと感じました。ところがこの調査の発注元である製薬会社はこの話がなかなか理解できませんでした。「通院したほうがメリットがあるんだから、ちゃんと伝えれば通院するはずだ」というのです。病院へ行くという行為への心理的なバリアが理解できないのです。
この手の話は、自分の専門分野であればあるほど起こりがちです。ある特定の分野に詳しくなると、自分には当たり前のことが「大勢の普通の人たち」にとっては当たり前ではない、ということが理解できなくなってきます。「新しい発見は何もなかった」「思っていた通りだった」との評価をよく聞きますが、こういった評価も市場やユーザーなど調査対象に答えを期待しすぎているのかもしれません。新たな発見を得るためには、自分自身が持つバイアスの存在に気づき、リフレームすることが必要なのです。
答えは自分の中にある
このことはリサーチに向き合う心構えとして非常に重要なポイントです。リサーチでは顧客や市場に関する情報収集を行うため、顧客や市場に何らかの答えがあると思ってしまいます。ところが実際にはデータそのものは客観的な事実に過ぎず、データの背後にある示唆や意味に「気づく」ことが大切で、その主語は自分です。顧客や市場から何かを見つけてやろうという「上から目線」でいるうちは本当に良い発見はできません。リサーチが自分自身の中にある何かを探す行為であるということが分かるようになるとリサーチがもっとうまくいくようになるはずです。