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産経新聞の「ごまかしの選択的夫婦別姓議論」こそ「ごまかし」だ。パート1

今年の元旦から産経新聞が「ごまかしの選択的夫婦別姓議論」というキャンペーンを始めている。
そのキャンペーンの最初の元旦の記事で小中生2,000人に対するアンケート結果を用いて、子どもの半数は「反対」しているという印象操作を行った。
まず、記事を添付しておく。
 

各設問の詳細はこちら

先ず大前提として、最初の設問の「選択的夫婦別姓」に変えようというのを知っていたかという問いの回答で
○まったく知らなかった 男子 28.7 女子 23.9 合計 26.2%
○ほとんど知らなかった 男子 21.0 女子 15.0 合計 20.7%
という結果の通り、半数が初めて耳にするような状態で回答している。
(そもそも、「まったく知らなかった」と「ほとんど知らなかった」の違いも分からない……単に「知らなかった」とすると46.2%にのぼり、半数が知らない中でのアンケートだとバレてしまうことを隠す意図があるように感じる)
つまり、初めて耳にしたことについて聞かれて、熟慮したのではなく反射的に答えた結果を新聞という一般的には信頼性の高い媒体で発表したのだ。

子どもに対するアンケートに限った話しではないが、あなたならどうしますか?という問いに対する答えは、現行制度で「別姓」が認められていない中での判断になるので、実際に法改正された後では結果が大きく変わることが予想できる。
なぜなら、我が国は非常に同調圧力が強い国である。他人と異なる意見を言うことに抵抗があったり、多数の意見を異なる意見を表明する人を変な人、変わった人とみる傾向が強い。
このような背景があると法律で認められていないことを積極的にやろうとすることに心理的な抵抗を覚える人が多いと感じる。
その結果、「自分はしない」という回答が多くなるのは自明のことだ。
産経新聞のアンケートでも、「あなたはどうしますか」の回答は

回答者1955人男子女子全体(%)
○自分の名字を大切にしたいので別々の名字にしたい 
   男子14.3 女子11.8 合計13.6
○家族で同じ名字がよいので別々にはしたくない
   男子56.7 女子63.4 合計59.9
○よくわからない
   男子29.0 女子24.9 合計26.5

となっている。
この結果をみて、「短絡的に子ども達は6割以上が家族は同じ名字が良いと考えている。子どもの気持ちを考えると夫婦別姓にしない方が良い」と主張する旨が多いが、そう考えるのはかなり短絡的ではないだろうか。

なぜかというと、繰り返しになるが、この回答の前提は現状が法律上夫婦同姓で、家族は姓が同一であることが前提になっているからだ。
その結果、親子で姓が異なる家族は変だ、特殊な家庭だとなり、そんな家庭に育つ子どもはかわいそうだという発想に陥っているのではないだろうか。
そもそも、小学生から中学生の期間というのは、自我が芽生えていき、自分とはなんなのかという自身のアイデンティティを確立していく途上である。
その中で、自分の名前というのは自身のアイデンティティにとって非常に重要な要素であると同時に、家族と他者とを区別する手段のひとつでもある。
同じ姓を持つ家族の中で日々過ごし、友人の家族を見渡しても同じ姓の家族ばかりで中で中でアイデンティティを確立していく途上にある子どもが家族は姓が一緒が良いと考えるのは、現行制度が家族同姓だからそう考えるようになっているのではないだろうか。
これが実際に法改正がされて、周りの友人の中に親と姓が違う者が多く現れるようになったら、判断は大きく変わっていくのではないだろうか。

この記事を読んで強く違和感を覚えたことがある。
それは、現在でも親子で姓が異なる家族があることを無視していないかということだ。

これを聞いてそうだ!と思う人が一定数いる一方で、え?どういうこと?とすぐにはピンとこない人と両極端に別れるのだと思う。
国会の夫婦別姓の議論を調べてみたが、現在でも同姓でない家族がいることを指摘している質疑は共産党の本村議員と小池晃議員がちょこっと触れている位で殆ど触れられていなかった。

どういうことかというと、親が離婚し、再婚した場合に子どもの姓を変更しない家族がある。それも色んなパターンがあり、それぞれの家族により事情が異なるのだ。
親が離婚した時点で、子どもの姓を変更するのかどうかの問題は生じている。子どもが姓の変更を望まない為に旧姓に戻さない女性も多くいるだろう。
逆に母親が旧姓に戻したい為に子どもの意見を尊重せずに戻してしまうケースやそもそも子どもの意思の確認などもしないケースもあるだろう。
再婚する際には、再婚相手と子どもが養子縁組するかどうかが課題となるが、現行制度だと基本的に養子縁組する場合は相手の戸籍に入ることになるので子どもの姓を変えることになる。姓が変わることを子どもが嫌がるから養子縁組しない場合も多くあるだろう。

このようなステップファミリーにとっての夫婦同姓が前提の現行制度の問題点は、家族で姓が違う場合は、家族で姓が違うと変わった家族だと思われる、再婚家庭だと周りに知られる、いちいち説明が必要で面倒であるなどが考えられ、家族で姓を同じにする場合は、法的な効果を考えて養子縁組するのに姓を変えたくない子どもの意向を尊重できない、子どものアイデンティティを奪うことになる、学校などで名前が変わったことを知らせることで親が離婚再婚したことが周りに知られるなどが挙げられる。

これが選択的夫婦別姓が実現すれば、選択肢が増えて、それぞれの家族の事情に合わせてどうするかを決められるようになり、子どもの意思を尊重しやすくなるのではないだろうか。
そして、家族で姓が異なっても奇異にみられることがなくなり、子ども達も形見の狭い思いをしないで済むようになるのではないかと感じる。

つまり、夫婦同姓を強要している現行制度も、夫婦別姓に反対する方々の主張も、初婚を維持し続けている家族だけを前提に考えていて、それ以外の選択をした家族が視野に入っていないように感じるのだ。

選択的夫婦別姓に反対する議員の中に、「夫婦は別姓で良くても、子どもに選択権はない。必然的な親子別姓制度だ」と主張する愚かな者もいるが、そもそもどんな家庭に生まれるか、どういう親の下に生まれるかは誰も選択できない。同姓だろうが別姓だろうが選択権はないのだ。
そこを問題視したら、そもそも、子どもの名前を親が決めることなど出来ないということになる。
そして、現行制度で同姓が普通だと思われているから同姓が良いと感じるのであって、世界中の別姓の国は違和感なく別姓を子どもは受け入れているのだから、日本も制度が定着すれば何の問題なくなるだろう。
それよりも、現在の制度だと同姓を強要しているために親が離婚、再婚をしたことで意思に反して姓の変更をさせられている子ども達が一定数いる問題点を是正することの方が優先されるべきだと感じる。
生まれた時につけられた名前が気に入らないというのは解消しようがないが、親の都合で自身のアイデンティティになっている姓を変えられることを防げるように出来るならそういう制度にすべきではないだろうか。

離婚率も増加していたり、国際結婚でそもそも別姓であったりする家族が増加している中で、「標準的」な同姓家族だけを前提として、夫婦別姓に異議を唱えることこそ「ごまかし」だと感じる。
「ごまかしの選択的夫婦別姓議論」という「ごまかし」に惑わされない議論を国会ではして欲しいと切に願うばかりだ。

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