箱
人生には区切りがあって、一つ一つが箱に入って分類されるようだ。僕の箱はまだ大学の分までしかないけど、ほとんどが空っぽで軽い。その鼠色をした箱は、スマホ片手にだらける自分しか入っていない。それはまるで僕が暮らしている部屋のミニチュアで、努力とか夢とかは全然入っていない。君のはどうなんだろうか。君の箱を勝手に覗いてみると、海とか空とか苦労とか恋愛とかがいっぱい詰まっている。密度が大きくて、そして輝いてみえる。自分の箱と比べると違いが大きすぎて嫌になる。ひたすら前に向かう君と何もしないでいる僕でこんなにも箱は変わっていく。人生は続くんだし、そのうち綺麗な色の箱ができるよ、自分に言い聞かせてみるが本当だろうか。僕はいつになったら変われるだろうか。君を考えてる時だけ、時間が伸びて、いつもより何倍も良い色が箱に入っていくけど、そんな君とももうすぐ会えなくなってしまう。だけど、僕には止める資格もない。今日もまた布団でゴロゴロしている。そんな時に突然、枕から香る君の残したかすかな匂いが、がむしゃらに駆けまわる君を思い出させた。とにかく走ればいいんだよ。君の声が聞こえてきた。僕は布団を飛び出てカーテンを開いた。南の太陽がお昼を知らせている。やけに眩しい光に追い出されるように、僕はねずみ色の箱から抜け出した。そして鍵も閉めずに見よう見まねで駆け出した。パジャマ姿で走る僕を気味悪がっている通行人さえ全く気にならなかった。君にさよなら、そしてありがとうを伝えに行こう。
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