見出し画像

第2回公園 脚本紹介②『び一 あんびしゃす』

暑さ故に本来は固体で保持されるはずの肉体が液体になりそうな予感の中で生きています。気を張っていれば固体で存続できそうなので、僕にはもしかしたら、せん断増粘流体の素質があるのかもしれません。だとしたら社畜体制もある程度備わっていそうなので安心ですね。

申し遅れました。今回『クリエイターズ』の中の『び一 あんびしゃす』の脚本を担当した依月です。この名義を掲げたのがもう2年半前という事実には触れずに行こうと思いましたが、さらに上を行く懐かしさを掘り出してこの本を書いているので、2年半前くらいでごたごたぬかしていられないなと感じました。

折角このような脚本について語る場を与えられたので、この機会を有効活用したいと思います。まあこの機会を設定したのは僕の別の魂の伊月さんなのですが()

今回は、とある高校の新聞部に所属する高校2年生を描きました。
高校2年生の3月。
皆さんは何を思い浮かべますか?
僕は「高2の10月から受験生」と言われるタイプの中高一貫校に通っていたこともあり、この時期は受験生になっていなければならないが素直に勉強はしたくないし、折角の高校生活も満喫したいし、でも受験は待ってくれないし…と板挟みになっている時期を連想します。というか実際そうでした。このお話に出てくる3人の新聞部員もそれぞれ度合は違えど、その板と板の間で挟まれたり押し返したりを繰り返していたように思います。

お察しの通り?この話は僕の実体験をベースに書きました。
高校1~2年の間、出版部という学校新聞を発行する委員会に所属していました。
新聞部と聞くと、地味で特に忙しくなさそうなイメージを持たれがちですが、実はそうではなく、現状を知っている人たちからはよく「社畜」と言われていました。年に5回の通常号と年に5回ほどの速報版の発行があり、記事提出期限が迫ってくると放課後は毎日のように部室に缶詰めになってパソコンと紙面にかじりつく生活で、下校時刻に間に合わないときは「下校延長だしたので~」と虚言をぶつけたり、電気を消して息をひそめて日直の先生の見回りをすり抜けて書いたり…偉いんだか偉くないんだかよくわからない、そんな不思議な生活を送っていました。
忙しいのは事実ですが心を亡くしていたわけではなく、そこに青春を感じる瞬間は多々あって。工夫を凝らしてセルフ下校延長するのはなんだかんだ楽しかったし、内線に細工をして出られないようにしたのも楽しかったし、顧問の若い先生にお菓子をせがんで糖分補給したのも楽しかったし「パソコンを両手で打ちながら飲食したい!」という観点でレトルトおかゆをタピオカストローで飲んでみたのも楽しかった。校長室凸なんてなかなかできない経験もできたし。…野蛮に見えるけど一応総合文化祭に出場する成績は残しているから許して()

少し今回の「び一 あんびしゃす」に話を戻しますか。

卒業式速報版は、記事担当の数名が卒業式に取材で入ってそのあと一気に紙面に昇華させて在校生対象に修了式に配布します。そのため、卒業生に配ることができません。作成しながら「せっかくなら高3の先輩にも見てほしかったよね~」なんて話しながら新聞を作っていたのを今でも覚えています。

記事を書きながら
「もうこれ完成させたら私たちの出版部生活も終わりなんだよねー」
「なんだかんだもっと書きたかったな」
「…4面構成にしちゃう?」
「無理無理ww」
なんて話していたのを今でも覚えています。

…君のような勘のいいカキはフライだよ。おいしいよね。
ある意味今回の脚本は、高校2年生3月の僕たちの無茶で切り捨てた願望を叶えた形になります。
曲がりなりにも“出版部”として学校新聞を作成する“クリエイターズ”として、でも“学生”“受験生”という肩書ゆえに諦めざるを得なかった夢を、7年半後、脚本を書く“クリエイターズ”になった自分が物語の上で叶える。
そんなお話でした。

少しエピローグの話もしましょうか。
新聞のラテ欄や芸能人のブログ等で定期的に「縦読み」という手法がとられているのはご存じのことと思います。本来の文章の中にしれっと別のメッセージを残すことができますし、なんかこう秘密を共有している感覚もして面白いですよね。
学校新聞にはラテ欄はありませんが、どうしても縦読みのような手法をやってみたくて挑戦したことがありました。紙面は元々縦読みなので、行の頭の文字を横に読んでメッセージを作るイメージで。結局幾多もの文章の修正を経て達成できた試しはありませんでしたが…。一応イメージとして作成した編集後記は↓こんな感じ。

実は「び一 あんびしゃす」の2文字目の「―」は伸ばし棒ではなく、漢字の「一(いち)」にしているのはそういう裏設定がありました。

ちなみに今回小道具として、実際に当時自分たちが作成し生徒に配布した学校新聞をそのまま使用しました。1回完成させて配布した新聞に朱入れをするという謎の行為をしましたが、実際の学校新聞を使うことで演出をしながら本当に当時のことがよみがえってきて楽しかったです。まさか内線もご用意されるとは思ってもいなかったわ。

過去、新聞のクリエイターズの一員だった僕を7年半後の演劇のクリエイターズをしている僕が描き、作品に昇華させるという面白い経験をすることができました。
きっとここまで文字を追ってきた皆様の中にも、何かしらクリエイターズの一員である要素はあると思います。ぜひそのクリエイターズ魂を起こし、何か創作するきっかけになったとしたらなんか報われます。究極、生きているだけで自分の人生をクリエイトするクリエイターズになるのですから。

ここまで長ったらしい文章を追ってくださってありがとうございました。
またいつか。

依月


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?