【オリジナル小説】あきかふぇへようこそ!#1
あきかふぇぷろじぇくとのオリジナル小説が、フリーペーパー『秋コレ』の第1回で連載開始。
秋葉原で様々なお店や街を案内するツアーガイドとして仕事をしていた秋葉るきが原作を担当するオリジナルストーリー小説です。
あきかふぇぷろじぇくと概要・紹介はこちら。
原作・運営:秋葉るき 小説執筆:雪村優凪 挿絵:Mayo
あらすじ
東京の商社で営業事務をしている坂木理沙。彼女は、その多才さと仕事ぶりで周囲から一目置かれる人物だ。しかし、そんな完璧に見える彼女にも秘密がある。
それは、週に一度のカフェ巡りという趣味。週末を前に浮き足立つオフィスでも、クールに振る舞う理沙だったが、実は、昨晩見つけたとあるカフェのことが気になり……
プロローグ――
むかしむかし、この地には沢山の人に愛された喫茶店がありました。
めまぐるしく動く時代の中、店主が失踪したその店は、いつしか、時の中に埋もれるかのごとく人々に忘れられていきました。
でも、そのお店は不思議と消えることはなく。
今でも、人が訪れるのを待ちながら、ひっそりと存在しているのだそうです。
☆Lisa Side
金曜日のお昼前。
あと数時間で週末に突入するこの時間帯のオフィスは、どこか浮き足立った雰囲気の社員や、仕事を早く終わらせる為、いつも以上に真剣に業務に打ち込む社員等によって何だかいつもより空気が濃い。
そんな中私は、涼しい顔で今週の業務のまとめと、来週以降のスケジュールを組み立てていた。
「坂木さん、昨日の会議でのプレゼン、支社長からの評価良かったみたいよ」
「ありがとうございます主任!後でグループにサマリー送りますね」
……でも。
「理沙先輩〜、お昼行きましょうよー!」
「ごめんね、今日はこの後A社で会議なの。来週、お勧めのお店連れて行くから!」
「やった!先輩のお勧めって外れが無いから楽しみ」
……実は。
「ちょっと、坂木先輩に声かけたの?」
「うん、実は憧れてて……」
「勇気あるねぇ。あの人完璧すぎて取っ付きにくくない?隙が無いというか……」
「声大きい!先輩に聞こえちゃうよ!」
……聞こえています。
そう。つい周りに聞き耳を立ててしまうくらい、私は普段よりソワソワしている。
周囲とは違う、プライベートを仕事に持ち込まない。という態度を取りながら、実は誰よりも週末を楽しみにしているのだ。
でもこれは、私だけの秘密。
木曜日の夜。つまり、昨夜。
入浴中、いつものように浴槽の中で携帯端末をいじっていた私は、とてもワクワクする情報を見つけてしまった。
基本的に趣味友達がいない私は、好きな事の情報収集にSNSを使っている。昔からの友達がいないわけではない。でも、趣味に関しては自分だけの大切な領域と考えているので、特に周囲には公言していないし言うつもりも毛頭ないのだ。誰にも。そんなわけで、私は秘密のアカウントを持っている。
カフェ、喫茶店情報を扱うアカウント中心にフォローをしているアカウントでSNSにログインした瞬間、ほんの数秒前に投稿された情報が目に飛び込んだ。それは、先日フォローしたばかりのカフェ紹介アカウントの呟き。
「香りの良いコーヒーと、季節ごとに変わるケーキが美味しいお店です。優しい雰囲気に包まれた、街の人に愛される憩いの場所。住所は……」
何の変哲も無い文章だとは思うのだけど、なんとなく気になった。ピンと来た、という表現がピッタリかもしれない。
自分の勘の正しさを証明したい、この気持ちに後押しをしてほしい、という願いを込めてそのアカウントのタイムラインを一通り眺めてみる。
いわゆる老舗を中心に淡々と紹介ツイートをポストしている。どの店も外れが無いように見える。
「これは、決まりね」
一週間に一度のお楽しみ。
そう、私の趣味はカフェ巡り。そして、一番の楽しみは毎週土曜日のカフェ新規開拓。
これといって変わった趣味ではないけれど、私にとっては唯一の、何にも代え難い幸せを感じる時間なのだ。
今週の目的地が決まった嬉しさに、私は浴槽の中で小さくガッツポーズを取った。
(第二話に続く)