空の色、雨の色
暗鬱な空、彩りがない空気。
この街は僕が生まれた時からそうだった。車の排気ガスか、工場の汚染物質か、この街の空は元からそうだったのか、僕にはわからなかった。
学校の帰り道、右頬に何かがかすかに触れた。雨だ。今日は天気予報では雨が降るとは言っていなかった。
ふと右ほほを触ると、指が緑色になっていた。
空を見上げた。すると空から色とりどりの雨が降っていた。雨は透明なものしか見たことがない。しかしこの雨には色がついている。瞬く間に世界は色に包まれていった。
帰り道の真っ赤なポルシェは真っ黄色になっていた。
友達のお姉ちゃんのお気に入りの白いスニーカは、チョコみたいに茶色になっていた。色付きの雨でできた水たまりは教科書で見たピカソの絵のようだった。
色付きの雨は数日間降り続いた。
テレビでは科学者や政治家たちが雨の原因を解説したり議論をしていたが、どれも的を得ている感じはしなかった。
生まれた時から色を失っていたこの街にはいま色があふれている。
怖さや不思議さより、ワクワクしている自分がいた。いつもと違う色の世界は美しかった。
しかししばらくすると街の人の苛立ちが見え始めた。
真っ赤なポルシェに乗っていた人も、白いスニーカーのお姉ちゃんも、自分の好きな色でないことに苛立っていた。
しかし僕はワクワクしていた。今日見た色が明日には違う色になっている。
退屈な登下校もパリの美術館に変わった。
友達の家に向かおうと歩いていたら、空き地に花がたくさん咲いていた。
それも様々な色だ。赤、黄色、緑、白・・・
青がないことに気づいた。今まで気づかなかったが、街を見渡しても青がなかった。
ふと空を見上げると、淀みのない透き通った青がそこにあった。