見出し画像

SoLジャパン x ロバート・フリッツ特別ワークショップについての超主観的まとめ!

SoLジャパン事務局の福谷アキです。10月2日のイベントの運営委員です。

画像1

私、ボストンのSoLノース・アメリカ(当時はただSoLって呼ばれていました)で働いていたことがあって、当時ピーター・センゲや周りの人たちから、フリッツについていろいろ聞いてきました。その個人的な体験、私見と主観と独断に基づき、「なぜ、今回のフリッツ初来日の特別ワークショップに参加すべきか?」を解説したいと思います。

1. 「学習する組織」のコア・コンセプトの1つ「創造的思考性」を創った「大御所」!

画像2

「学習する組織(原題The Fifth Discipline)」の著者はピーター・センゲですが、そのアイデアの多くは、センゲが師事したり、当時MITの組織学習センターで一緒に仕事をしたりした、たくさんの人たちの知恵の結集です。

そうした知恵をセンゲに授けた大御所たちの中には、ハーバード大学のクリス・アージリス、フォード社のロジャー・サイヤンやハノーバー保険のビル・オブライエンと言った実践者など、学習する組織の礎を築いたと言える人物がいます。

で、フリッツはもちろんその1人です。原著The Fifth Disciplineの索引を調べれば、フリッツの名前が作中に5箇所も引用されています。これね、すごいんですよ。伝わらないかもしれないけれど、「組織学習」って言葉や「メンタルモデル」って概念をこの分野に広めたアージリスと同じ数なんですよ。学習する組織にいちばん大きな影響を与えたコンサルタントやアカデミアを2人挙げれば、アージリスとフリッツになるんです。大げさじゃなくて。

2. 自己マスタリー(Personal Mastery): 「ビジョン」と「今の現実」を明確化し続けること

では、フリッツは学習する組織の理論にどう貢献したのでしょうか?まず、学習する組織の第一のディシプリン「自己マスタリー」から見ていきます。

センゲは、学習する組織の第一のディシプリンは、自己マスタリーでなければならないと言います。個人が学んでいないときに組織が学ぶことはあり得ないからです。自己マスタリーの要諦は2つ:私が心から存在してほしいと望むもの(ビジョン)を明確にし続けること。そして、今何が事実として起きていて、私の思考や行動がどのように現状に一役買っているのか(今の現実)をありのままに見続けることです。

この「ビジョン」と「今の現実」の間にテンションを生み出すというシンプルなモデルを生み出したのがフリッツです。通常、ビジョンと聞くと、何か大きな志、立派なもの、組織の上から押し付けられるものといったイメージが先行するかもしれません。しかし、学習する組織において、ビジョンとは「私が望むもの」とシンプルに定義されます。そして、「ビジョン」と「今の現実」の間に生まれる緊張を解消しようとする力を「創造的緊張」と呼びます。

この「創造的緊張」を提唱したのがフリッツです(フリッツは「構造的緊張」と呼んでいますが、同じものです)!この驚くほどシンプルな構造が明らかにすることがあります。私たちには「ビジョン」と「今の現実」の両方が必要で、それは「何を創り出そうとしているのか」と「今何があるのか、起きているのか」の両方に目を向けなければならないということです。

今起きている問題に対処することに精一杯で、すべての問題を解決したときに何を生み出そうとしているのか、どうあって欲しいのかというビジョンが欠如してしまうことってありませんか?でも、ビジョンと今の現実、両方が存在してはじめて、創造的緊張は生まれます。

3. 構造思考:創造的緊張の背景にあるメタ的枠組み

しかし、フリッツの貢献は、創造的緊張に(ちっとも)留まりません。ロバートと親交の深い、メタノイアの田村洋一さんからは「ロバート(フリッツ)がピーター(センゲ)に『自己マスタリー』を教えたっていうのは、まったくもって誤解を招くような表現なんだ」と教えてもらいましたが、センゲがボストンでやっているワークショップでの、フリッツ発コンテンツの多さを鑑みるに、いやはやその通りだなと感じています。

今、これらたくさんアイデアの背景にあるんじゃないかと個人的に思うのが、今回のワークショップのテーマ『構造思考』です。「あらゆる動きには、その『根底となる構造』が存在していて、『構造』が動きを規定する」というアイデアです。構造を捉えて変化させることで、揺り戻しから前進へとパターン変化を生み出すことのできる、『創り出す思考』って呼んだ方が良いのかもしれませんが。

構造思考についてネガティブな側面を見れば、「構造を変えない限り、あらゆる変化は持続せず、逆に拒絶されてしまう」ということ。逆に、ポジティブな側面を捉えれば「構造を把握して、適切に変化させることができれば、変化はむしろ自動的に起きるんだ」ということです(個人的な解釈なので、今度のワークショップで確認できたらいいなあと思います)。

こんな風に書いていれば、そろそろ構造思考の中身が気になってくる頃だと思うので、フリッツ自身が構造思考について話している記事をシェアします。一人で8月の熱帯夜に夜なべして翻訳しましたよ(半裸で)。

この記事の中の動画をざっくり書き起こして翻訳したものがこちら。構造思考の最初のステップを解説しています。

↑ ③に登場する「現実をありのままに見る」ことの難しさについてのお話は秀逸なので、ぜひご一読をお願いします。なぜ、ピカソたち印象派の画家は、ある時期すべての絵画を青く描いたのか?そこには、とても論理的な理由があったのです。

4. 至言:「ビジョンが何であるかじゃない。ビジョンが何をするのかが大切なんだ」

画像3

ピーター・センゲは、フリッツを評してこう話します:

「ロバート・フリッツのワークは、真の天才の証だ。最も目に見え難く複雑なものを取り上げ、それを明確で直観的、役に立つものにしてくれる。紛れもなく、フリッツは、ビジネス、芸術、サイエンス、そして生命全般における創造プロセスの現代で最も独創的な思考家の一人だ。彼のワークは、私の人生と仲間の多くの人生に深い影響を与えてきた。」

そのフリッツの名言の中で、いちばん有名なものがこれです。

画像4

「ビジョンが何であるかじゃない。ビジョンが何をするのかが大切なんだ」

私はこれをはじめて聞いたときにとても感動したんです。個人的な話ですが、ビジョンについて考えるのはとても苦手でした(いい大人になった30歳の頃の話です)。叶うかどうか分からないことを言葉にすることの怖さがあったのかもしれませんし、心の中でこっそりと願っている自分のありたい姿を言葉にしてしまうことで「所詮自分なんてこんな安っぽいことしか想像できない人間なのだ」と思うのが怖かったのかもしれません。あるいは、大切なことなんて言葉にできるはずがないという思い込みもあったかも。

ピーター・センゲのワークショップに出て、参加者それぞれがビジョンを明確にしていくワークをやったわけですが、とにかく言葉にならない。ましてや英語で他の人とワークしながらですから、四苦八苦しながら言葉を紡いでいきます。で、気付くことがあるんです。それは、自分が大切に思うこと、車が欲しいとかお金がどうとかじゃなく、何々が無くなったら良いなっていう「ネガティブ・ビジョン」じゃなく、自分がほんとに願っているものを言葉にして人に伝えるとき、いちばんエンパワーされるのは、他でもない自分自身なんです。本当に一生懸命なことについて語るときって、自分の体温が2度くらい上がった感じがするんですよ(当社比)。

「ビジョンが何であるかじゃない。ビジョンが何をするのかが大切なんだ」

私にとって、この言葉の意味はこんな感じです。本当に自分にとって大切なことを、いつも明確に思い描いていることができたなら、つい目の前の問題に反射的に対応しそうになるとき、長期的にやりたいことと合致しないのに、目の前の妥当な解決策を選ばなければならない気がするとき、私のビジョンが、私の意識の向け方、選択の仕方、行動を正してくれるんです。しかも、妥当性を離れて一歩踏み出すエネルギーまで与えてくれるのです。

立派なものじゃなくていいんです。自分に勇気を与えてくれるなら。

書いてて恥ずかしいですが。

5. フリッツのプログラムに参加した人のビジョン達成率は、平均500パーセント!?

ロバートつながりでややこしいのですが、私の先生の1人にロバート・ハニッグという人がいます。Arthur D. Littleという世界で一番古い経営コンサルティング会社の元Vice President(えらい人)、SoLの立ち上げメンバーであり、今もピーター・センゲと一緒にいくつものワークショップで共同ファシリテーターを務めています。コンサルタントとして世界銀行やIFC、IMFといった国際機関と協働している凄腕です。ちなみにニューヨーカーなので、早口でアメリカンジョークを飛ばします(笑えるようになるまで1年かかりました)。

画像5

さて、そのロバート・ハニッグは、フリッツの下で学んでいた当時を振り返ってこう言います。

「プログラムの参加者が週に1度集まって、自分のビジョンの実現に向けた進捗を共有するんだ。5~6ヵ月の間にね、自分が当初掲げたビジョンを実現したら達成率100%としようか、参加者のビジョン達成率は平均で500~600%くらいだったよ

ビジョン達成率=500% だなんて、意味が分かりません。どこかの南米の国のインフレ率の話なのでしょうか。つまり、このプログラムに参加する中で、参加者のビジョンが高まり続けた、しかも、みんながより高いビジョンを実現し続けたというのです。

私自身を含めて、ビジョンを真剣に具体的に考えることは、あまりないのではないでしょうか?そもそも個人にビジョンがあってよいのだと、今の(普通の)学校では教えません。また、叶え方を知らないビジョンを描くことに意味があるのか?と自分の想像力に蓋をしてしまっているかもしれません。でもきっと、フリッツのワークショップに参加することで、普段は自分でも知らなかった「私が望むもの(ビジョン)」に手を延ばすことができるかも。

6. なんだか表現が天才的

あともうひとつ。ピーター・センゲが、ロバート・フリッツに触れているブログを紹介します。

ここで紹介されているのは、ボストンで行われているワークショップのコンテンツで「Choices」という演習ですが、これも(たしか)フリッツが設計したか、少なくともその思考がベースになっています。

このブログの中に、ものごとをおそろしくシンプルな言葉で、ものすごく的確に言い当てる、フリッツの天才性が現れている箇所があります。

・・・私たちの誰もが1人の人間として選択を行う、その根本となる前提は何でしょう?「自由」です。選択とは、私たちが自由で自律した人間であることを示す、最も根源的な表現だと言えます。(中略)私たちは、自分の人生とは自らの自由意志の表現=「選択」の結果であると分かっているにも拘らず、一方で、この能力を育てなければならないと気付いていません。その結果、ただ「選ばなければならないから」という理由で選択を行っているのです。
ロバート・フリッツは、こんな素晴らしい表現を用いました。「私たちの多くは、たくさんの意味で『勝利の瀬戸際で、敗北をつかみ取る』マスタリーを身に付けている !」

私たちはいつも「ビジョン」と「今の現実」の間で選択を行います。大きな選択や、小さな選択、意識して選ぶものもあれば、無意識に選んでいるものもあるでしょう。その選択を支配しているものは何か?多くの場合、選択を支配するのは環境条件だと、センゲは指摘しています。本来「自由意志」の表現である選択という行為を、自分以外の外的要因に依存すること。この矛盾を、フリッツは「勝利の瀬戸際で敗北をつかみ取る」という言葉で表現しています。この言葉は、ムズッとする感じでバカバカしいんだけれど、実はそんなことを私たちは日々卓越したスキル(マスタリー)を以って行っているのです。

このエントリーを書いた(訳した)のが私なので、思い切り手前味噌ですが、このブログ自体おもしろいので読んでください。

7. 経歴がなんかクリエイティブでとっても不思議

フリッツは、どこからこの思考法を生み出したのでしょうか?その答えのひとつは彼のキャリアの冒頭にありました。

音楽の演奏と作曲の研究・指導でキャリアをスタート。作曲家の技術の大きな要素である構造原理が、人間の発達に用いられたときに根本的な重要性を持つことに気付く。こうした洞察からフリッツの構造アプローチは生まれた。
同時に、クリエイターが音楽、絵画、彫刻、ダンス、演劇、映画、詩、文学に用いるのと全く同じプロセスが人間の日常生活に応用可能であること、そして、あたかも人生が芸術作品であるかのように、人生を築くプロセスにも全く同様のアプローチが応用できることに気づき始める。

ミュージシャン、アーティスト、コンサルタントとしてのフリッツのコアにある(もののひとつ)が、人間の「創り出す」力への洞察にあるのではないでしょうか?フリッツの面白さのひとつは、その思想が、ビジネスだけではなく、芸術やサイエンスなど、さまざまな分野を横断するものであることです。きっとこれまでの長い作文を読んで、自分に関係ありそうだと思った人にも、なさそうだと思った人にも、きっと、自分自身の「創造性」の種に触れられる機会になるはずです!

【結論】になっているかどうかはさておき。

⇒ 10月2日(火)特別ワークショップに来てください。

画像6

フリッツの特別ワークショップまであと2週間です!チケットはまだちょっとだけ残っているので、ぜひこのタイミングを逃さずにお申し込みください。

きっと、自分で想像していた以上にワクワクするような自分の願いやビジョン、そして、今まで気付けなかった「今の現実」を自分が作り出している事実、そして全ての動きを生み出す「構造」が見えるようになるはずです(個人の期待であり、参加者全員が得る効果を保証するものではありません)。

上のバナーをクリックするか、ここからお申込み可能です

10月2日(火)秋葉原UDXカンファレンスでお待ちしています。

そんじゃーね。

SoLジャパン事務局 福谷彰鴻(アキ)

------------------------------------------------------------------------

書いた人

画像7

大阪生まれ育ちの未婚アラフォー、A型、ふたご座。「童顔でスローテンポで雰囲気ふわっとしてるのに、実は芯が強くてけっこう口が悪い」(友人談)。27歳になる頃、新卒で務めたベンチャーをやめて英国大学院留学。現地で少し働いた後、ボストンでMBA取得。現地で欧州系大企業に勤めるが組織変更に巻き込まれて失業。縁あって「学習する組織」で知られるMITのピーター・センゲの下、SoL(組織学習協会)のマーケティングマネージャーとして3年間勤務。その後、NGOの役員秘書・日英通訳を経て帰国。2018年上京し、センゲの著書の日本語訳をしたチェンジ・エージェント社で「システム思考」と「学習する組織」を軸とした研修・コンサルティング業に従事。教育分野、ソーシャルセクターにも、これら概念やツールを持ち込もうと教員向けワークショップなど企画・運営中。趣味の翻訳ブログ「My Learning Sandbox」は、センゲに関する貴重な日本語の情報源として多くの人に愛読されている(はず)。2018年3月から、組織学習のコンサルタントと実践者のコミュニティーSoLジャパンの世話人。

いいなと思ったら応援しよう!