これからのスタジアム・アリーナビジネスの可能性について
先日、KYOTO SIDE様の記事についてTwitterで何気なくRetweetしたところ、思った以上の反響がありました。
この反響の裏には何が隠れているのか?
考えたことを書いてみたいと思います。
スタジアム・アリーナビジネスへの機運の高まり
プロ野球の歴史は83年、Jリーグの歴史は26年、Bリーグの歴史は3年、Tリーグの歴史は2年、半プロリーグではFリーグも歴史は12年と、日本のプロスポーツの歴史は積み上がり、そして徐々に拡大していっています。実業団スポーツとしても、ラグビー、バレー、陸上、バドミントン、アイスホッケー等、様々なスポーツが日本で行われてきました。東京オリンピック、札幌オリンピック、長野オリンピック、日韓ワールドカップ、ラグビーワールドカップ、TOKYOオリンピック2020というビッグイベントも開催されてきました。それはつまり日本にはスポーツの文化形成が積みあがっていることの証左となります。
①利用者からの要望
利用者というのは主には地元住民、観客、選手を指します。近代日本の100年のスポーツの歴史の中、高度経済成長期、バブル期に建てられたスタジアム・アリーナ施設は老朽化が進み、現代のスポーツ観戦やスポーツプレー環境の満足度を満たす事が難しくなってきました。
②運営者からの要望
スポーツ競技を運営する協会、会社としても、今までは企業スポーツ、または「広告宣伝」活動として赤字を出しても良い業界であった昭和・平成の時代は終わりをつげました。赤字、コストを支えるだけの企業、日本の経済体力が高度経済成長と平成不況と共に終わったのです。今後は「スポーツ産業」自体でマネタイズできる環境が令和の時代に必要になっています。
③日本政府としてのスポーツビジネスへの投資
日本政府は2025年までに現在の国内スポーツ産業規模5.5兆円を15兆円まで引き上げる計画を発表しています。
ここには「スタジアム・アリーナ改革(コストセンターからプロフィットセンターへ)」が含まれており、つまりスタジアム・アリーナ施設への投資を国として奨励していく流れができていることを表しています。スポーツ庁も立ち上がり、いよいよ日本のスポーツビジネスの変革の時がきていると感じます。
以上①~③の各方面を考えてみても、ほとんどのステークホルダーの思惑が一致している状態になっており、スタジアム・アリーナビジネスへの機運の高まりを肌で感じられる所まで来ています。
実際、新規のスタジアム・アリーナ建設計画は既にいくつかあります。よくまとまったサイトがあるので、リンクを張らせていただきます。
日本と欧米のスタジアム・アリーナビジネスの構造の違い
日本における今までのスタジアム・アリーナビジネスの特徴は、「スタジアム・アリーナは公共団体の所有物である」ということです。土地、建物、交通機関などすべてはその地域の公共団体が主体となって設計、建設され、所有されています。各競技団体や会社は地方公共団体から「借りて」競技運営やビジネスを行うという方式です。もしスタジアム・アリーナの改修をする場合には、地方公共団体に主体的に行動してもらうよう陳情して予算を獲得してもらうか、もしくは「営業権」を獲得し自らの改修投資を地方公共団体に寄付する形をとるか、となっています。もちろん新築の場合は、地方公共団体の議会承認されたうえで、地方公共団体予算で建設となります。
一方、欧米におけるスタジアム・アリーナはオーナーの所有物(土地+建物)であることが多いです。もしくは、地方公共団体や投資家がクラブと連携し、持続可能な運営ができる設計がされています。
地方公共団体の関わりは、逆に「投資してもらえる」立場から、土地や周辺環境への協力を行うスタンスです。また、スポーツ自体が地域自体で象徴的な存在である文化が根付いているため、公共団体として協力することが地域住民に違和感なく受け入れられやすい、ということも大きな違いです。
そして、欧米ではオーナー所有であるスタジアムは、改築、デザインの自由度が非常に高く、コンセプトが悪い意味で「汎用的」にならず、ビジネス面と公共性の両面を考慮できた建設がしやすい環境となっています。
スタジアム・アリーナビジネスの可能性
日本は今、まさにこの「スタジアム・アリーナビジネス」の第二の興隆期に入ったと思っています。そこには今後10年単位で多くの投資がされることを意味します。
1.スポーツ自体が地域のアイデンティティとなり得る
先日のラグビーW杯の熱狂を見ても、日本人は「スポーツ」で熱狂できる文化的土壌が既にあります。そして、少子高齢化、過疎化の進行する地方経済においても、スポーツはその地域の人たちを結びつけるアイデンティティとなり得る力を秘めています。
例えば、Jリーグでも地域社会との連携強化に動き始めています。
2.すなわち、スタジアム・アリーナはシンボル、ランドマークとなる
その中心となるのはスタジアム・アリーナです。スタジアム・アリーナが地域のシンボル、ランドマークとなり、そこを中心とした経済圏を生み出すことができます。地域住民のコミュニティ、生活の拠点となる場所になります。
ヨーロッパにおけるスタジアムはその地域住民にとっての魂の拠り所になっています。バルセロナのカンプノウ、レアルマドリードのサンチャゴベルナベウ、リバプールのアンフィールド等々、旧来型のスタジアムから最新のコンプレックス型スタジアムまで様々です。しかし、共通するのは地域の象徴となっていることです。STVVのスタイエンスタジアムも100年近くの歴史があります。スタイエンという名前は地域のシンボルです。
日本で印象に残っているのは、北海道の北見市常呂町カーリングホールです(広義のアリーナ施設という意味で例示します)。以前テレビ取材があった番組をみたのですが、人口5,000人ほどのこの町に、地域住民が利用できる最新のカーリング場があります。地域住民はそこでリーグ戦を行うなど、ほとんどの住民がカーリング経験者だということを知りました。そして、そこから「ロコソラーレ」というオリンピック代表チームをも生み出しています。
飯塚自身の考え
私自身、ヨーロッパに来て1年になりました。ヨーロッパ各地のサッカースタジアムを回っていく中で、ここにある事例が今後日本には絶対に必要になるという思いを強くしています。
もちろん日本が100%この欧米型のスタジアム・アリーナ運営に追随する必要はないと思っています。むしろ、今までの日本の文脈、歴史を通じた蓄積へのリスペクトの上に、日本独自の「スタジアム・アリーナ文化」の在り方を構築できる最高の機会がきていると思っています。
そして、自分自身のOutput領域の中でも、ここで貢献できることはあるのではないか?と考えています。
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