可愛がるのは「可能性を愛する」から
2ヶ月に1回のサイクルで通う美容室は、人間観察がとても面白い場所の一つだ。
2ヶ月前はまったく垢抜けていなかった女の子が、髪型も髪の色も、ファッションも激変して一気に華やかになっていたり、
田舎から出てきた感が満載だった男の子が、後輩を指導する立場になっていて、その責任感や自信がそうさせるのか、表情が全然違っていたり、
逆に、一向に変わらない子もいたり。
もうかれこれ15年ヘアカットをお願いしている美容師・Aさんと、彼のアシスタントさんたちについて話していたとき、また名言が飛び出した(Aさんからは毎回必ず名言が飛び出すので、私はそれらを帰り道にいつもメモしている)
Aさんは店のオーナーでもあるので、スタッフを育てることが必要な立場の人だが、いち美容師として動くとき、アシスタントにつかせる人は精査しているという。
それは自分の大切なお客さんに対して、しっかり快適な対応ができる人でなければ失礼だから。
挨拶しかり、会話しかり、シャンプーやドライ技術しかり、「この子なら大丈夫」と認めた人だけをアシスタントにつける。
でもそこはまだ第一段階。
じゃあそこで自分のアシスタントたちを平等に育てるかと言われたら…答えはノー。真剣に育てたいと思わせる子と、そうでない子に、どうしても分かれるそうだ。(オーナーとしては、見捨てはしないという前提で)
Aさんは言った。
「だって可愛がるって『可能性を愛する』ってことじゃん」
Aさんはオーナーでありながら、一番多くお客さんを持ち、売り上げをあげている。一度ついたお客さんのリピート率が高く、新規のお客さんは口コミのみでやってくる。
技術はもちろんだが、その会話や放つエネルギーが私にパワーをくれるから、また会いに行きたくなる。27歳の頃から、出産しても、カット料金が2回上がっても、Aさんのところに通うことを選んでいる。
そんなAさんはスタッフにとっては目指したい高みの一つだろう。
でも憧れます、頑張りますと言うが、実際、突き抜けてくる後輩はなかなか現れないそうだ。なぜか?
Aさん曰く「すぐに『自分なり』を入れてくるから」
Aさんの言葉やアドバイスを聞いて動くが、結果が出る前に「でも僕はこう思う」「僕なりにやっています」と言ってくるという。
武士道でいう「守・破・離」の「守」段階で、自己流を入れてしまうというところか。
もしこんな風になりたい人がいたらそのアドバイスを信じて、ただ動く。その人の行動を観察して、ひたすら真似してみる。
そんなひたむきな姿勢で学び、動く人を、可愛がらない人間はいない。その先にどんな成長を見せてくれるのか、可能性しか感じないから。
実際、その店の売り上げ2番手の美容師さんは、どことなくAさんに似ている。
Aさんとは違う、その人自身のもつ雰囲気や柔和な対応の中にも、スタイリング提案の仕方や、会話のテンポ、後輩の仕切り方など、Aさんイズムが息づいているのを感じるのだ。
可愛がるのは「可能性を愛する」から。
自分の身に置き換えてみると、6歳息子がとにかく可愛いのは、つまりそういうことなんだと合点がいった。
でもそれはきっと子どもだけの話ではなくて。
足腰が弱っている父が、一人で部屋を移動できることも可能性。
ストレッチで昨日より1cm曲がるようになることも可能性。
バイオリンの4の指がうまく置けるようになることも可能性。
可能性は、実は誰にでも溢れていて、それらに目を向けたら、自分のことも、周りのことも「愛する気持ち」がどんどん広がるなと思った。
ずっと変わらずAさんのアシスタントをしていたBくんが、ついに美容師デビューするらしい。Bくんがこれからどんな美容師さんになっていくのか、また観察する楽しみが増えて嬉しい。