BUCK-TICK『JUPITER』とともに生きる
仕事でツイ…エックスを使うので、いつものようにモニターに画面を開いた10月24日。
BUCK-TICKのボーカルである櫻井敦司さんが、横浜でのコンサート中にふらつきながら3曲を歌いきった後、スタッフに支えてもらってステージを去り、そのまま深夜、この世から去っていってしまったと。
まだまだメンバーと活動していこうとされていたところだったのに。
チケットを手元に、当日を楽しみに待っていたファンがたくさんいた。
私はずっと彼らの動向や新譜を追っていたわけではない。でも、BUCK-TICKの楽曲にはつねに、突き抜けていながら安定した大きな何かがあって、そして、櫻井敦司さんのボーカルはどう聴いても唯一無二で最高だった。
メジャーデビューから急速に、声の深み、声量は増し、BUCK-TICKの表現する世界観を拡げる表現力が満ちていった。
そこに努力がないはずもなく、素質だけでは天才になれないことを改めて感じる。
30年前からずっとそう感じていた私にとって、櫻井さんの訃報は衝撃だった。
どんな人にも、死は訪れる。わかっているのに、あの才能が天へ昇っていってしまった。
そしてここに取り残された。
とても寂しい。
でも、衝撃の大きさの一番の理由は、それではないんだ。
こんなにながい間活動しているグループだから、彼らの楽曲には聴く人の思い出が絡みついて、記憶の部屋にしまわれていく。
多くの人が感じているように、私も、櫻井さんの他界によってその記憶のその時に立ち返ると同時にその時の私も今の私も一緒に「寂しい」と言い出すからだ。
あの時の記憶まで失われるような恐怖、大きな喪失感が襲うんだ。
私の半生に大きな存在となった一人の男性と出会うきっかけを与えたのも、彼の人となりを知り仲を深めるきっかけになったのも音楽で、BUCK-TICK『JUPITER』は後者。
この曲は私も以前から好きだったのに、不意に彼が再生したライブ映像によって、初めて聴いたかのように感動し衝撃を受け、『JUPITER』は良い音響で聴かなければならないということを思い知された。
そして、彼がどんな世界を愛していて、どんな人なのか、この曲のメロディと彼らが創り出す世界観、美しい歌詞をとおして知ることとなり、私はその男性とその後、自分の10代の最後の年から30代を迎えるまでのながい間をともに過ごすこととなった。
私たちの始まりに『JUPITER』があったという記憶。
そして今はもう、彼とはいない。
櫻井さんは旅立った。
私も、一つ一つ昇華させていこう。
彼にまつわるすべてを手放すタイミングが、来ている。
櫻井さんは、見目麗しく佇まいも美しく、何より魅力的なボーカリストなのだから、神様がきっと特別な御用を彼に託したくて天国へ呼んだんだろう。
そう思ってみたりして、彼の魂が安らかにあることを心から祈った。
神様はきっと彼がほしかったんだ。
BUCK-TICKは「ビジュアル系バンドブームの先駆け」と巷で言われているけれど、私はその「ビジュアル系」に傾倒していたわけでもなく、ただ、私の耳が、心が、この曲をすごいと思った。美しいと思った。
私の身に起きた魂の別れによって、聴けなくなった曲のひとつ。
櫻井さんがもう一度聴かせてくれた。
これからは、この曲を聴く時間を大切にする。
すべてを正面から見て、抱きしめつつ、成長した自分で残りの半生を歩いていく。