ずるい男

『火傷の思い出』で僕が大好きになった女性と親しくなる、少し前の事だ。

ある女の子と仲良くなった。Yちゃんという名のその子は綺麗という感じではなかったけれど、とても明るく愛嬌があって、いつもにこにこしていた。そこに愛らしい可愛さがある子だった。

Yちゃんとは段々と仲良くなって、今度飲みに行こうと約束を交わした。ほぼデートみたいなものだ。その頃、火傷の彼女(変なネーミングだけど、ここではそう呼ぼう)の存在は知っていた。僕の中で薄らと好意は持っていたけれどまだ会話すら交わした事もなく、知り合うきっかけも無かったから、自分の中ではほぼ諦めていた。そして、Yちゃんと付き合うのかなって何となく思っていた。

ところがだ。その飲みの日が近くなったある日、なんと火傷の彼女とパチンコ店内で偶然に話す事が出来たのだ。その経緯は『火傷の思い出』に書いた通りだけど、僕はめちゃくちゃ悩んだ。僕の気持ちは明らかに火傷の彼女にあるけど、Yちゃんとの事はどうしよう。その時、僕の中にいやらしい考えがむくむくと立ち上がってきていた。
「まだ火傷の彼女が僕の想いに応えてくれるとは限らない。ダメだった時は、Yちゃんと付き合えばいいか。保険みたいなもんだ」と。
なんて奴だって、今更ながら思う。けど、その時はそんなずるい考えが僕の中を支配していた。

Yちゃんとの飲みの後、酔ってフラフラの状態で「最終電車を逃した」というYちゃんを、僕の家に泊まる事になった。
Yちゃんを僕のベットに寝せると、一緒に寝てとせがまれた。僕もベットの中に入るとYちゃんが体を寄せてきた。興奮した僕は、そのままYちゃんを抱き寄せキスをした。そして上半身の服を脱がして、乳首を舐め回した。Yちゃんの下半身に手を伸ばすと、既にパンティは自分で脱いでいたみたいで、濡れたあそこが手の感触で分かった。
そのまま先の行為に進もうとした時、何故か僕の脳裏に火傷の彼女の事が浮かんだ。
「本当にこのままYちゃんとしてしまっていいんだろうか?二股かけるのか?本命がダメならこっちがあるって事か?それってズルくないか?」

行為を進めようとしていた僕の動きは、完全に止まった。
「どうしたの?」と訊ねるYちゃんに、僕は告げた。自分には想いを寄せる女性が別にいて、その人にはまだ気持ちを伝えていない。フラれるかも知れない。けど、自分の気持ちに正直でいたいから、Yちゃんとは出来ないと。
Yちゃんは悲しんだり怒ったりする事もなく、僕の言う事を理解してくれた。
僕らはそのまま、何もないまま夜が明けるまでを過ごした。
Yちゃんは「待ってるから」とだけ言ってくれた。

その後、僕がどうなったかは、『火傷の思い出』に書いた通りだ。
そしてYちゃんはその後、別な男性と知り合い、そのまま結婚し幸せになった。

Yちゃんの優しい気持ちを自分の勝手で傷付ける様な事をした当時の僕は最低だと思うし、だから未だに幸せになれていないのかも知れない。
ひどい事をした報いを受けているんだろうとも思う。
もし…もしもだ。
幸せになれそうな機会がもう一度僕に訪れたとしたら、今度こそ、その人には優しくしよう。
絶対に。

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