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【私の新刊紹介】第5章・キャリアコンサルタント視点のジェンダー論

私の新刊『男はスカートをはいてはいけないのか?』が発売されて、ちょうど一週間になりました。初めての商業出版ですが、出版社から見本が届いた日の感動はひとしおだったものの、なかなかまだ実感がありませんでしたが、実際に全国の有名書店に置かれて、Amazonなどでも複数のレビューがつきはじめて、いろいろな友人や知人からも「出版おめでとう」「本を出したのね」と温かい言葉をかけてもらって、あらためて「自分が本を出したんだ」「やっぱり頑張ってよかった」と痛感しています。最初の企画から発売まで丸一年以上がかかりましたが、この間にお世話になった方、応援してくれたみなさんに心からお礼申し上げます。

先週の発売日をはさんで、章ごとの内容紹介が途中になってしまっていました。今回の紹介は、最終章である「第5章 キャリアコンサルタント視点のジェンダー論」です。今回の本は「男はスカートを~」というセンセーショナルなタイトルですが、そもそもの出版意図とするところはキャリアコンサルタントによるジェンダー論にありますので、その意味では全体の締め括りとしての最終章でありつつ、キャリコン目線からの方法論としてはいわば“本論”ともいえる部分になります。キャリコン資格者の方ともふだんからさまざまな交流がありますが、内容の賛否はともかくそういった方々には一番読んでいただきたい章になります。

第5章の目次は、以下のとおりです。

第5章 キャリアコンサルタント視点のジェンダー論
5-1 キャリアコンサルタントとは?
5-2 ジェンダーとキャリア:ワークライフバランス憲章
5-3 キャリアにおける自己効力感と自己理解
5-4 ジェンダーとライフキャリア
5-5 幸福度について
5-6 自己肯定感とキャリア
5-7 職業選択のプロセスに影響を与える4つの要因
5-8 プロティアンキャリアとアイデンティティ/アダプタビリティ
5-9 ありのままを活かす働き方/生き方に向かって:キャリアコンサルタントとジェンダー

第5章 目次

これらの論点の中で著者がもっとも指摘したかったことの一つは、キャリアコンサルティングの現場における「ジェンダー」概念の悲しい現実と限界についてです。キャリコンの世界では、これだけ多様性への対応が叫ばれる今日においても、いまだに働き盛りの中年男性がいわばスタンダードとして位置づけられています。それは実際の就労の仕組みや労働慣行、事業所や労働者の意識の実態を反映しているという意味ではやむを得ないことでもあり、あながち日本におけるキャリコンの手法のみが保守的だとか閉鎖的だということを意味するわけではありませんが、とはいえ現在においてもなお、「新規採用」「中途採用」「女性」というざっくりとした枠組みの中でさまざまなキャリコンとしての修養が行われ、ロールプレイングを経て現場実務へと落とし込まれている現状には、やはり相応の違和感を感じざるを得ません。

本章でくわしく触れているように、「女性」というカテゴリーは、あくまで女性特有のテーマに寄り添うには一定の効果を発揮しますが、それによってかえって女性であることへの無意識の偏見が生じてしまったり、行き過ぎた一般化が起こってしまう可能性もさまざまなケースで指摘されています。多様性を尊重し合うことの価値と有用性が社会的に共有されている昨今、女性の求職者や労働者の中にも、いうまでもなく「女性」という枠組みにこだわることなく活躍したいとか、「男性」「女性」というカテゴリーで評価されることのデメリットを痛切に感じて、就労を通じて自己に責任のない不利益や差別を受けている人もいます。そういった人たちからすれば、女性が女性ゆえにあくまでマイノリティに位置づけられている現状には、言葉にできない閉塞感を持っていることも少なくありません。

同じようなことは、その裏返しである男性についても当てはまります。キャリアにおける「男性」カテゴリーは、今までほぼほぼワントーンの価値観や特徴、志向性に染め上げられてきました。男性という理由で、求職市場や就労の場でマジョリティとみなされることは、表面的には彼らが基幹労働者として長期雇用されるという慣行を通して有利に機能してきたと見られますが、終身雇用が事実上崩壊し、雇用の場にも多様化の波が押し寄せ、女性活躍推進が国策として力強く打ち上げられ、さらにコロナ禍を経て働き方や暮らし方が激変した私たちの現実世界は、もはや「男性」=問答無用に疑うことなくマジョリティとしての強みや特権を享受しているとはいえない状況にあります。このような時代の変化は、あるとき突然に起こり定着したものではなく、何気ない生活をしているとまるで変化していないように見えて、実際にはじわじわと確実に色彩の変化をもたらしつつ、しかもその射程はまだまだ将来へと末永く伸びているようにも見えます。

こうしたとても壮大なテーマに挑み一定の結論を出すには、とても小著の紙幅や著者の経験、能力ではおぼつかないものですが、まずはこのような問題提起を通じて読者のみなさんに少しでも認識を共有していただき、将来像について語りあったり議論したりする前提の架け橋くらいは、何とか準備させていただけたのではないかと思います。それくらい、「ジェンダー×キャリア」のテーマは日本においてはまだ始まったばかりであり、しかもアカデミックの世界や特定の業界における実務目線に偏っているように感じます。そして、女性という視点に加えて、ジェンダーとしてマイノリティの視点も全体におり込みましたが、マイノリティのテーマは、新法の制定に向けた議論が国会でも盛んになる一方、ともすれば国論を二分しかねない複雑な問題をはらんでいるテーマだともいえます。本書では、できるかぎりフラットな立ち位置から、まずは入り口となるべき整理を少し進めることができたのではないかと思います。

わずか百数十ページの本ですから、内容的にはまだまだ仮説に過ぎなかったり、あるいは陳腐な議論に終始してしまっている論点もあると思いますが、今回はあえて社会経験の乏しい若い方々にも読みやすい体裁と文体で、マイノリティ女性のハンドバックにも収納できるようなコンパクトな本を目指して、取り組んでみました。著者の2人、そして一般社団としての活動は始まったばかりですが、今回の出版を通じてすでにさまざまなお声をいただいていることが、私たちの励みになっています。これから活動を本格化する中で、少しでも世の中のお役に立てることができたら幸せだと思っています。引き続き、よろしくお願いいたします。

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。