競争に疲れた、そんな時に。
こんにちは。
先週、沖縄旅行に行ってきました。
せっかくゆっくりした時間を過ごすんだから、と思って持っていたのが、こちらの一冊です。
読んだことはなかったんですが、名作だって評判と時間泥棒と闘うお話だってことは知っていたので、リゾートの旅にはぴったりなんじゃないかと思って選びました。
皆さんは「モモ」、読んだことがありますか?小説というよりは児童文学でした。子どもの頃に読んでなかったら、知らないって人も多いかも知れません。
漢字が少なく、ちょっとでも難しい言葉はすべてひらながで書かれていました。本の裏側にも対象年齢が「小学5・6年以上」と書かれていてますので、おそらく小学校で習う漢字だけで書かれているんでしょうね。
では、さっそくあらすじから見ていきましょう。
あらすじ
まず時代背景からです。物語は「むかし、むかし…」から始まります。その時代に栄華を極めた都市が没落。郊外には以前にたくさん演劇が上演された円形劇場が残されていました。そこにいた天涯孤独の女の子、モモが主人公です。時代背景は明確には示唆されません。最初の導入部分では中世のような描写が多く、最後になるに連れて、現代社会のように描写されていきます。この読み解きは後程。
物語は3部構成です。
1部では主人公モモとそのお友達たちについて紹介されます。
モモは円形劇場に住む女の子、住む家も生活力もない子です。周りの大人たちは心配して警察へ連絡するか?施設へ入るか?と相談しますが、結局モモがここにいたいと希望した為、みんなで支えていくことになります。
モモには不思議な力がありました。モモと話をしているとなぜか素直に自分が思っていること、感じていることを話せてしまうのです。なにか問題がある時、モモと話せばなぜか解決すると周りの大人たちに可愛がられながら、モモは円形劇場で楽しく暮らしていました。
そんな大人たちからの相談事や友達とのエピソードが紹介されます。
2部では、この物語におけるモモの敵役である「灰色の男たち」について紹介されます。
灰色の男たちは、時間貯蓄銀行の外交員を名乗っています。人々に時間の節約を促し、時間を貯蓄するよう推進して回っています。時間を節約・貯蓄するとは、より効率的に仕事を行い、無駄な時間を過ごさないということです。人々は皆懸命に働き、以前より多くの物を生み出し、多くのお金を稼ぐようになりました。時間も貯蓄されているはずでした。しかしながら、実際には時間は貯蓄などされておらず、節約された時間は時間貯蓄銀行に貯蓄された後、灰色の男たちに消費されていたのでした。灰色の男たちはその貯蓄された時間を使って命を繋いでいたのです。人々は皆、どんどん忙しくなり、時間がなくなっていきました。
灰色の男たちがモモの住む街で活動を始めたことで、モモの友達たちはより効率的に働くことに躍起になりはじめ、モモの所にお話をしにこなくなりました。モモは友達たちにアプローチしていきます。友達は皆、モモの力で現状に違和感を感じじ始めるも、仕事を止められません。
そんなある日、灰色の男がモモに脅威を感じ、モモを止めようと話をしに来ました。しかしながら、灰色の男はモモの返り討ちに合い、灰色の男は自分たちが街でどんなことをしているのか正直に話してしまいます。真実を知ったモモは、みんなを救おうと街の子どもたち(彼らもまた親から相手にされなくなっていました)と連携して、真実を知らせようとしますが、灰色の男たちに阻まれ失敗に終わります。
以前の友達たちに会いに行って説得を試みるも、みんななんとなく今がいい状態ではないと思いつつも、もう働き続けるしかないんだ、とモモの声は届きません。灰色の男たちの強さを知るのでした。
3部は最終決戦です。人の時間を生み出している老人に会いに行き、灰色の男たちとの闘い方を教えられます。最後、モモは灰色の男たちとの闘いに勝ち、友達たちはまた、モモの所に話をしに来てくれるようになったのでした。
どう解釈する?
さて、ではこの物語をどう読みましょうか。
まず、「灰色の男たち」は資本主義思想を表しています。彼らが勧める「時間貯蓄」とはより効率的に・より生産性を高めること、最大の付加価値をつけることです。
物語の中で、人々は最初のんびりと過ごしていましたが、灰色の男たちが活動を初めて以来、抗えたモモ以外の全員が時間貯蓄を始めました。子どもたちでさえです。
灰色の男たちに付け込まれる隙はなんでしょうか。それは「もっと欲しいと思う心」と「隣の人より良くありたいと思う心」です。
先ほど、物語を通じて時代背景が変わっているように読めると言いましたが、これは灰色の男たちの出現によって、文明が大きく進歩したことを現しています。
この物語は資本主義が我々にもたらしたものを害悪にフォーカスして表現したものでした。
感想・学び
灰色の男たちが象徴する世界のキーワードは「資本主義」です。たくさんの物が生産され、足りないものなどないぐらいです。それでも足りない物を探し生産し続けます。物には溢れていますが、皆、競争に忙しく、ゆっくり過ごす時間は足りません。わざわざお金を使って、誰かが作ってくれたリゾートに行って、やっと少しだけゆっくり過ごすのです。
一方でモモが象徴する世界のキーワードは「時間」と「友達」です。モモは、生産性はなくても、友達とゆっくりお話する時間を大切にしています。物質的には恵まれていないものの、助け合いながら生きています。それは最低限の物が満たされていれば、幸福なものでしょう。しかし、物をより多く作るには「時間貯蓄」が必要で、モモの世界で作れる量には限りがあります。
現実世界において、私達は時間貯蓄に励んでいるように思います。物語において、時間貯蓄に励むことは悪いこと、不幸なことと表現されていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
資本主義にドライブされ、私達の社会はとてもよくなりました。食糧には困らず、子どもはほとんど生き残り、健康寿命は延びる一方です(そうなの?と思う方は下記書籍を参照)。
「より多く・より効率的に」を目指す時間貯蓄に励んだ結果です。
今、この物語のように灰色の男たち(資本主義)を駆逐してしまっては生活水準は維持できません。果たして、私達そんな社会を本当に望むのでしょうか。私達は一度満たされてしまったこの欲望を手放すことなどできるのでしょうか。
私はそんなこと出来るようには思えません。0から社会を構築するのであれば、モモの世界を選ぶことも出来るのかもしれませんが、一度、灰色の男たちに支配され、物に溺れる快感を知ってしまった今、物を手放すことはできないと思います。
私達はモモのように灰色の男たちを一掃することなく、うまく付き合うことが必要なのです。
灰色の男たちとモモをバランスよく心の中に住まわさないといけません。
今、灰色の男たちに侵食されている方、そんな方は是非この本をご一読ください。心の中にモモを住ませましょう。あくせく働いて、一体なにを得るんだろうと気付かされます。
逆にモモに灰色の男たちを駆逐されてしまっている方、ビジネス書を読みましょう。競争に勝ち、物質を得る快感を思い出させてくれます。
現代社会で生きていると、灰色の男たちに支配されがちです。競争に疲れたらまた読みたいと思える、リゾートで読むのにぴったりの一冊でした。
ではまた。