長年の夢から醒めたシリコンバレー
こんにちは、Akiです。年末年始にレイクタホから帰る直前に、車のタイヤがパンクしてしまいました。(この辺りの道だとよく起こります。)ニューイヤーでテスラのロードサービスもすぐには対応できず、地元のサービスショップに駆け込みました。車がテスラなのを見ると、担当者の男性が開口一番「イーロン・マスクは好きか?」と聞いてきました。彼はマスクがXで有害な情報や誤情報の規制を撤廃したのが正しい行動だったと言っていました。アメリカにもこうした考えの人は少なからずいるという現実を改めて実感しました。
1月7日に、メタもフェイスブックやスレッズのような自社のソーシャルサービスで、コンテンツの事実確認を行うプログラムを終了し、Xで採用されているようなユーザーが注釈をつけるコミュニティノートのモデルに移行することを発表しました。
コンテンツの規制が廃止された後のXは、誤情報やヘイトスピーチが蔓延しています。フェイスブックも、コンテンツ規制がきちんと行われていなかったミャンマーにおいて、ロヒンギャの人々へのヘイトスピーチが拡散し、虐殺へと繋がったという大きな問題がありました。この変更によって、世界レベルで誤情報とヘイトが拡散し、社会に大変な害をなすことは確実です。それなのになぜメタはこのような施策を取るのでしょうか。(今有力なソーシャルプラットフォームで適切なコンテンツ規制を行っているのは、Blueskyで、僕は同プラットフォームを支持しています。)
トランプ政権にすり寄るテック産業
発表を行ったのは、5日前にメタの国際問題担当プレジデントに就任したばかりのジョエル・カプラン。カプランは二代目ブッシュ政権で副主席補佐官を務めた共和党員で、トランプ政権とも近いことで知られています。
トランプはかねてからフェイスブック等のメタのサービスで、有害情報や誤情報の規制が行われていることを批判してきました。昨年にはマーク・ザッカーバーグを「牢屋に入れる」といった発言もしています。トランプの当選を受けて、メタおよびザッカーバーグはトランプ政権への露骨なすり寄りを見せています。
トランプ/MAGAが主導する共和党は、大統領選の勝利のみならず、上院下院の多数を占め、また最高裁も共和党寄りの裁判官が多数派です。トランプ政権の意向に従わなければ事業に支障をきたすのは明らかです。例えばテック産業で、先の大統領選で真っ先にトランプ支持を打ち出したのはペイパル創業者のピーター・ティールです。彼自身、同性愛者であることが知られています。ここにトランプを支持するテック産業の大きな欺瞞を見て取れます。
また、民主党の失策もありました。バイデン政権はビッグテックに厳しい施策を取り、グーグル、アップル、アマゾンらを独占禁止法で訴追したり、企業合併や買収を難しくしてきました。こうした姿勢から、元々はリベラルだったテック産業の中でもビジネス寄りと見られているトランプ/共和党への共感が広がっています。
マーク・ザッカーバーグは、トランプの基金に100万ドルを寄付しました。メタはまた、自社のDEI(多様性、公平性、包摂)プログラムを縮小することも発表しています。こうした動きはメタにとどまるものではなく、ビッグテックはこぞって同基金への寄付を行って今す。DEIプログラムの縮小には、保守派のアクティビスト投資家からのプレッシャーも影響しています。ウォルマート、ボーイング、マクドナルド、トヨタなどの企業もDEIプログラムの縮小や撤廃を発表しています。
アップルは、大手テック企業では唯一、アクティビスト投資家からの提案をはねのけました。やはりここはさすがアップルというところです。今やアップル製品を使うのはUXやステータスにとどまらず、エシカルだとすら言えます。
理想主義の喪失
シリコンバレーのあるサンフランシスコ、またカリフォルニア州は、そもそもリベラの牙城です。パーソナルコンピュータやインターネットの産業が生まれた背景にも、権威主義的な支配を嫌うカウンターカルチャー/ヒッピー文化がありました。スタートアップがテクノロジーで世界をよりよくすると、本当につい最近までは多くの人が信じて取り組んできました。僕もその一人です。
ですがテック産業も成熟し、成長にもブレーキがかかると、理想主義はなりをひそめざるを得なくなりました。ビッグテックは長年大規模なレイオフをほとんど行ってきませんでしたが、2022年以降は継続的なレイオフが当たり前になりました。これは米国の企業としては普通のことです。
資本主義の権化である米国では、成長はすべての問題を解決するというのは本当のことです。シリコンバレーやテック産業も、長年続いた成長によって、理念の遵守や従業員の手厚い待遇などが可能になっていました。しかしもうそれは過去のものです。今のテック産業においては、利益が最優先です。インターネットを利用していれば、広告の多さなどで実感するでしょう。僕らのようなテック産業の労働者も、現実を見て、事業収支を一層優先しながら仕事をすることが求められます。