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書評『ディンマスの子供たち』掲載のお知らせ

遅れての投稿となり恐縮ですが、「図書新聞」No.3599・2023年07月15日に、ウィリアム・トレヴァー『ディンマスの子供たち』(宮脇孝雄訳、国書刊行会)の書評が掲載されました。
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/index.php
「図書新聞」編集部の許可を得まして、書評を掲載します。

書評は下記リンクよりお読みいただけます。
https://note.com/yasushi_kaneko/n/n21c29c46cf0a

感想:
原作は1976年に刊行され、今回が初の邦訳となるようです。心の内が暴かれる様を緻密に描いた恐ろしい小説でした。作中では主に一人の少年に焦点が当てられていますが、大なり小なり、人は誰しも他人には言えない(もしくはあえて言わない)何かを抱えていて、そのことが個人や世間に与える影響の大きさについて改めて考えていました。

ただ、日常という大きな枠でとらえれば、個々の苦悩は些末な出来事として済まされることも少なくありません。時にはそういった視点も必要なはずですが、そのせいで大事なことを見逃してはいないかという不安もよぎりました。

一方、物語としても非常に読みやすく、この先どうなってしまうのかとハラハラして読む手が止まりませんでした。血生臭い描写はありませんが、途中何度も頭を抱え、「ひっ」という声が漏れました。

作者のトレヴァーは生前、その多くをイングランドで過ごしましたが、アイルランドを代表する作家と認識されています。アイルランドの作家は、時にブラックなユーモアを交えながら、現状から抜け出すことができずに閉塞感にさいなまれる人々を描くことが多いかと思います。また、非常に勝手な個人の見解ですが、「泣きながら自分も他人も笑顔で殴りつけている人たちの物語」というイメージもありました。トレヴァーはそれをどこか上品に、繊細かつ冷静に表現する作家と感じます。本作でもそういった部分を存分に堪能できるのではと思います。

https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336059185/