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【不妊治療】第2章【手探りの治療4】闇は深い・前編

闇は深い 前編


平成7年6月30日
どんなふうに『絶望』がやってくるのか、私達は知っている。
それがやってきたのは、2日前だった。

T病院の泌尿器科・・・主人の3度目の検査の日だった。

検査の結果を聞くまでに、すでにお互いが『期待はしないように』と思っていたに違いない。・・・そう、そして覚悟はしていた。
なのに・・・やはり、ほんの少し持っていた期待が、彼を落ちこませた。

治療法が変更になった。
注射がなくなり、今までの薬に加えて、朝起き抜けに飲む薬がプラスされた。しかし、そのプラスされた薬は注射以上にキツイらしく、ずっと飲み続けると、逆に効かなくなってくるらしい。

処方としては、1ヶ月間、毎朝1つ飲み続けるのだが、飲み続けているうちに効かなくなるので、月のうち初めの5日間は飲まないようにする、と言うものだった。・・・そして、これをまた3ヶ月間続けるのだ。

私はようやく『もう、別に子供がなくても・・・』と開き直れる余裕も出てきたし、少し落ちついていたが・・・おそらく婦人科のS医師は『体外受精をしますか?』と聞いて来るだろう。

しかし、今の主人のままで、体外受精に踏み切っていいのだろうか?
顕微授精がいかに高度な技術であっても、成功するとは限らないのだ。

彼の状態がこのままでは、例えうまく子供を授かったとしても、精神的には、うまくいかないかもしれない。

どうしたらいいのだろう・・・。迷う。 
体外受精をして、そして失敗・・・そうなった時にやってくる『絶望』は、きっと今までの数千倍の苦しみをもたらすだろう。

私は、このまま子供を一生産む事はないかもしれない

それでいい、と思う反面・・・女として産まれてきて、女にしか与えられていない機能を使ってみたいとも思う。両親は私にその機能を与えてくれたのに、それを使うことなく、一生を終えるのかと思うと、両親に申し訳なく思う。

もうじき姉に3人目の子供が生まれる

先日姉の家に行った時、姉に『体外受精でも、何でもやって、早く子供を作ったほうがいいよ!少しでも若いうちに早く作りや!』と言われた。
姉は、良き相談相手だし、確かに言われたことに違いは無いが・・ショックだった。

≪体外受精≫を、するかしないかを、人に言われて決める事じゃない!!
これだけは、この問題だけは、私と主人が決める事・・・私達だけが決める問題なのだ。

 だが、すぐに『体外受精をします』と、決める事が出来ない。
不妊症と戦い始めて、1年が過ぎようとしている


平成7年7月2日

主人の検査から4日経った。
彼は、今だに立ち直る事も、開き直る事も出来ずにいる様子。検査の結果よりも、それによって落ちこんでいる彼の姿を見るほうがよっぽどつらい。

≪そんな弱気でどうするの?今、こうして二人でも、十分幸せじゃないの!子供がいなくても十分生きていけるじゃない!子供だけが人生じゃないよ!

今のまま、落ちこんだまま過ごすつもりなの?その事の方がよっぽど不幸じゃない!!≫と、心の中で彼に向かって叫ぶ。

そんなに覚悟が出来ていなかったのだろうか・・・。よほど今回の検査に期待していたのだろうか・・・。だからそこまで落ちこむの?
私が仕事に行っている間、主人は仕事も休んで、1日中ボーっとしていたらしい・・・。ただ寝転んで、TVを見て、時々眠って、満足に食事もせず・・・ただ1日中何もせずに過ごしていたらしい。
それじゃあ、まるで廃人じゃないの?!

つらいのは分かるよ・・・誰よりも分かるよ。私だって・・・決して同じじゃないかもしれないけれど、別のつらさを抱えているよ。
けど、ただひとり『廃人』と化して行く彼を支えていられるほど、私も強くないのかもしれない。・・・こんな私達に、神様は子供を授けてはくれないよ。
もっと強くならなければ・・・。私達がもっと幸せでなければ。

今のままじゃいけない。


次回・・・第2章 手探りの治療<4>
闇は深い・後編
・・をお届けします。


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