子どもたちに残すなら 人付き合いの真理
悩みを抱える若者が、
絶対に知っておくべき人付き合いの真理がある。
『カタブツおばさん』
塾に入ると、すぐに受付がある。
入塾後、しばらく経って気がついたが、
化石かと思うくらい頭が固いおばちゃんと、
若い大学生が2人で交代して、受付していた。
カタブツは、いつもうらめしそうに
山田先生、もう来てるよ。
生徒が先生を待たせちゃいけないよ!
と、死んだ表情筋で、せき立ててくる。
あなたは、聞こえる程度に
うるさいな。
と呟くと、走り去った。
ある塾帰り、
カタブツが、塾長に厳しい口調で
文句を言っていた。
塾長は、参ったな、と言いながら
木之下さんの言う通りだ、すまんすまん。
と、笑っていた。
木之下さんは、
もう、しっかりしてくださいよ、
と、わずかに表情を崩した。
初めてカタブツの顔が変化した。
新しい一面を見て、少し驚く。
次の日、大学生が受付に座っていた。
久しぶりですね、と、あなたが呟く。
おぉ、久しぶり、頑張ってね。
あなたは、一つうなづくと
山田先生のブースへ急ぐ。
今日もちょっとだけ、遅刻だ。
このまま大学生がいてくれないかな。
ある日、
いつものように、
授業が始まる塾生へ、
大学生が、なごやかに話しかけていた。
ほっとして、軽い挨拶で通り過ぎようとしたとき、
大学生の後ろのドアが開いた。
あはははは、
と、楽しそうな笑い声とともに、誰かが出てきた。
もう、何書いてるの〜と、その人が笑う。
ふと、あなたが後ろを振り向くと、
木之下さんが満面の笑みで笑っている。
思わず二度見したあと、
走って山田先生のブースへ入った。
山田先生、
木之下さんって、笑うの!?
山田先生は、おかしそうに、
そりゃ、笑うよ。
笑ったとこ見た事なかったの?
うん。あんなに笑ってるのは初めてみた。
僕、怒られたことしかなかったから。
なんか、意地悪なおばちゃんだなって
思ってて。いつも顔変わらないし。
そうだなぁ。
たしかに少し厳しいとこはあるけど、
意外と面白い人なんだよ。
君も今日の帰り、
ちょっと話しかけてはどうかな。
例えば、何かを褒めてみるとか。
人っていうのは、
意外に自分の態度を反映してたりするからね。
こちらの態度が柔らかければ、
相手もそうなる事は、よくある事だよ。
それに、意外性って、あるからね。
先生は、僕にふっと一つ笑うと
算数の教科書を開いた。
授業がおわり、ドキドキしながら、
木之下さんへ何を言うか考えていた。
受付には、木之下さんが座っていた。
木之下さんが、目をあげる。
あ、あの。
何?と、木之下さんが、答えた。
あ、あの、ぼく、
木之下さんって、
ちょっとこわいおばさんかなって
前は思ってたんだけど、
今日笑ってるのをみて、
優しいかもって思ったから、
話しかけてみようかな、って。
木之下さんは、大爆笑だった。
僕は、ほっとした。
木之下さんは、
あっはっはっはっはっ
と、ひとしきり笑った後、
優しい言葉をありがとう。
怖くないよ、
僕は優しいおじさんだよ。
と、涙を拭いながら答えてくれた。
他人の印象は、一面でしかない。
あなた次第で、
厳しくも優しくも、敵にも味方にもなる。