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メジロとすずんこ
買い物帰りに、かわいそうなスズメを見かけた。どこの悪い人間にいじめられたのだろう、背中に抹茶をぶっかけられているじゃないか、とよくよく見たら、メジロだった。
こんな寒い日でも、メジロっているんだ。まだ春は遠いような気がするのに。ついさっきまで、雹も降っていたというのに。
帰宅後調べてみたら、メジロって実は、通年見かけることができる野鳥なのだそう。むしろ冬の方が、木々の葉が少ない分、見つけやすいとのこと。
しばらく見つめていたのだけど、全然逃げない。少し距離をつめると、メジロも少しあとずさる、みたいな感じで、しばらくメジロとのひとときを楽しませてもらった。
同じ距離感で距離をつめたら、スズメならすぐに飛び立ってしまっただろう、と思う。おそらく、人間との関係性の問題だ。スズメを追い立てる人間はいても、メジロを追い立てようとはあまり思わない気がする。
人間だって、酷い目に遭わされてばかりいたら、人間など信用しない。人懐っこい子、というのは、相当親に愛されて育ったのだろう。大人はすべて敵だ、と思っていた子ども時代の私は、とうていメジロにはなれなかった。
私がそろそろ高校も卒業する、という頃に、スズメとセキセイインコのあいのこを見た、と母親が言ってきた。
当時、家族で住んでいた県営住宅に「セキセイインコのブリーダー」みたいなおばちゃんがいて、多くの家庭で、セキセイインコが飼われていた。
ところが、ほとんどの人がベランダに鳥籠を置いたため、かなりの脱走インコが発生していたのである。セキセイインコはなかなかかしこいので、くちばしで鳥籠をあけたりするのだ。電線に、スズメとセキセイインコが並んでとまっている、なんてのはごくふつうの光景だった。
「せやから、あいのこやねん。絶対あれ、スズメとセキセイインコが交尾してできた子や!」
と母親は言った。
なんでも、上半身(?)はセキセイインコ。よく見かける、黄色と緑色のまじったような頭と顔なんだけど、肩甲骨(?)より先は、茶色だったという。
母親はそのまぼろしの鳥に「すずんこ」という名前を付けた。次の日、学校で友人にその話をしたら、めちゃくちゃウケた。
「すずんこ、ってもう、響きがめっちゃ可愛い! そんな名前をつけるお母さんも、めっちゃ可愛い!」
とのことだった。
この友人とは、数少ない「高校卒業後、就職する」仲間だったので、卒業旅行しようよ、なんて楽しい話も出ていたのだが、父親がすべてぶち壊した。
アル中DV野郎の父親とは、物心ついたころから最悪な関係性だったのだけど、やはり卒業旅行をする(数日、家を空ける)ともなると、話を通さないと何も始まらない。夕食時、おそるおそる話を切り出したのだが、その話を半分も聞かないうちに、父親はブチ切れて、たてつづけに酒をあおり始めた。
そのとき、家の黒電話が鳴った。父親はもう、完全にブチ切れている上に、酒も入っている。電話の主が誰であれ、不快な思いをさせるに違いない。
せめて、自治会の連絡網だったらいいのにな、という私の期待は見事に裏切られ、最悪の状況を迎える。
電話の主は、卒業旅行の相談をしようとかけてきた、その友人だった。
今、ここに書くことも憚られるような暴言を、父親は友人に吐きまくった。私にはもう、どうすることもできなかった。下手に止めれば、さらに暴発することは見えていたから。
翌日学校で、もちろんその友人には詫びたのだが、
「あんたのお父さん、めっちゃ怖い! 怖い! 怖い!」
と言われるばかりで、しばらくはまともに会話することもできなかった。それでも、絶交されなかっただけ、よかったと思う。
その数日後にウケたのが「すずんこ」の話だった。父親の大きな穴を、母親が少しでも埋めてくれたのなら、ここは感謝するしかないだろう。
私は、無邪気に愛されるメジロには、なれない。だけど、何か大変なことがあったとき、すずんこのように、ほんのすこしだけでも、場をゆるめることならできるのかもしれない。そんなことを、ぼんやりと考えたりしている。
スズメとセキセイインコの交尾の事実など、ましてや、すずんこの実在など、本当はどうでもいいことなのだ。
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