たくさんの空
昨日、駅に向かう途中にあるショッピングモールの駐車場の中を、歩いていました。3階建てのかなり広い立体駐車場です。
前を歩く親子の会話が耳に入りました。
「ねえ、ママ。空ってたくさんあるの?」
「え?お空はひとつだけよ」
「だって、空って書いてあるよ」
小さな男の子が指さしたのは、駐車場の空き状況を示す電光掲示板です。
1F 空 2F 空 3F 空
平日なので駐車場は空いていました。
「空」という文字が、薄みどり色に光っています。男の子はそれを見て、母親に質問したのです。
「あれはね、空のことじゃないのよ。車が駐められますよって言う意味なの」
「そらじゃないの?」
不思議そうな顔をする男の子。
微笑ましい親子の会話を聞きながら、その発想がいいなあと思い聞いていました。
確かに空は一つしかないけれど、たくさんあると見立てれば、面白い。
例えば、1階にある空は朝の風景。
朝日と一緒に爽やかな青が広がっている。
2階には夕方の風景。
オレンジ色の太陽と、それに染まる柔らかな青。少し雲を流してもきれい。
3階にあるのは、夜の風景。
月をメインにしてもいいし、小さな星をちりばめても楽しい。
階によって、季節を表現してみるのもいいでしょう。
春なら、霞がかかったようなくすんだ青。輪郭がはっきりしないおぼろ雲を浮かせる。
夏は、コバルトブルー。真っ白な入道雲が力強さを感じさせてくれます。
秋は、澄み渡るような青。いわし雲が食欲をかき立ててくれます。
冬は、すこし重みのある青。凍雲が低く広がっている。
実現は厳しいかもしれませんが、立体駐車場の天井を空色に塗り、絵を描いたら明るくなるだろうなあと思います。
3階の駐車場に車を駐めたというよりも、朝の空に駐めたよとか、秋に車をおいたから、という表現の方が愉快な気持ちになれますね。
可愛い男の子がくれた言葉のギフトのおかげで、味気ない駐車場を歩いている間、想像して楽しむことができました。
ありがとう。