忘れられないお客様
以前、私は数年間旅行会社に勤務していた。
添乗員資格は持っていても、小さな小さな旅行会社だったので、チケット発券や行程表作り、伝票整理と私の担当は窓口業務が主でした。
それはそれで気楽にコーヒーを飲みに来るお客様相手に楽しく過ごしていた。(チケットも買わないのに顔だけ見に来た〜〜と言ってコーヒーを飲むおじさま達や人生相談にのって〜と来る女の子達etc😃)
そんな中、小学生の修学旅行の添乗員として乗務する事を所長から告げられた。
初、添乗だ!
しかもちびっ子隊!
大丈夫かなぁ
めちゃくちゃ不安感がいっぱいだったが、ベテラン添乗員の方からの指名と聞いたら、頑張るしかない!
修学旅行の行程も打ち合わせもベテランさんがやってくれるので、私は言われた通りに遂行すれば良いという楽なポジション。
しかも小学生達がバスでも盛り上げてくれるし、懐いてくれるし、言うこと聞いてくれるし、段取り良くいくし、
めちゃくちゃ楽しい!添乗員楽しい!
私は上機嫌で最終日を迎えた。
最終日はベテラン添乗員の粋な企画で子ども達のテーブルマナーを兼ねた夕食。
おフランス料理🇫🇷
粋だ!修学旅行生全員で食すフランス料理🇫🇷
みんなが笑顔を隠しきれず、ニヤニヤニヤニヤ!楽しそう!嬉しそう!最高だ!最終日最高!
私達は食べれないけど、子どもの笑顔でお腹いっぱいだ〜〜!!
と、思いながらサポートしつつ一人ひとりを見てまわっていたら
ガシャ〜〜ン!
えっ!何?
と思って振り向くといつも一番元気な男の子が真っ青な顔をして、椅子から転げ落ちるようになって床にしゃがんでいた。
大丈夫?
養護教諭と共に駆け寄り、部屋に連れていき、横になって貰った。
男の子は
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
と何回も私に謝る。謝る事なんかないよ、大丈夫よ、それより気分はどんな?
と聞くと
あの場から離れたら、楽になったと。
かなり緊張していたみたいだ。いつもムードメーカーの彼は本当に気配りができ、だからこそ色々感じ取りやすく、一番緊張感を感じ、具合が悪くなったようだ。
私は添乗員として、恥ずかしくなった。
この夜の企画を楽しみにする事は大事ではあるが、企画に臨む子ども達の事を実は少し忘れて、どうだ〜〜参ったか〜子ども達!みたいな気持ちを少し持っていた。
一番にお客様の様子をきちんと見なくてはいけない立場の私が初添乗員を少し旅行感覚で見始めていた矢先の出来事。
一番今まで私をサポートしてくれていた男の子に甘えてしまった未熟な添乗員が私だ!と思った。
謝るのは私だ。
彼はこれから先、フランス料理を食べる度に苦い味を思い出すかもしれない。思い出さないかもしれないが、私の失敗は消えない。消してはいけない。彼がフランス料理を食べれなかった事より、私を思い、私に謝ってくれた優しさを。
私はあれから職を変え、沢山のお客様と接し、何度となく失敗もしたし、笑顔で接してきた。けれど失礼だとは思うが、あれ以上のお客様はいない。私のサービス業人生の指針となる出会いだと思う。
いつか彼が素敵なお父さんになり、子ども達と笑顔でフランス料理を食べれたらいいなぁと心から思う。あの時お父さんはね…なんて語りながら。
私は今日もあの時のお客様を忘れないように気を引き締めて、かっ飛ばして行ってきます!
ではまた明日。