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絆が深まるか、溝が深まるか


電動自転車は、夕暮れの鴨川を疾駆していた。
妻が前方を走っている。なだらかな下り坂で、ほとんどペダルを漕がずともするすると風を切って進んでいく。

上賀茂神社を出たときには山向うに陽が沈み、闇に呑まれるまでの青白い光が空に取り残されていた。日中は35度を超える酷暑だったけれど、この時刻には30度ほどに落ちていた。川面を渡る風が存外に涼しい。蝉の鳴き声が通り過ぎていく。
川べりでは時おりジョギングする人とすれ違うくらいで、妻はしぜんと陽気に歌を口ずさみだす。自転車の籠には、行きがけに出町柳の古本屋で買った本が揺れている。

どれだけ漕いでも、ずっと終りが来ないような景色を全身で体感できるのは、なんと気持のよいサイクリングだろう。
ああ、幸せってこういうことかもしれない、休みをとって妻とここまで来られてよかったな、としみじみ思った。

ぼくらにとっての初めての旅で、京都にいた。
ぼくらは出会ってまもなくして結婚したので、結婚後にふたりで共通体験を一つずつ積み上げている最中のようなところがある。ふだんの生活もさることながら、旅行となるとお互いのペースや段取りもよく判らないまま、旅先で何かすれ違うことも起きてしまいかねない怖さもある。

絆が深まるか、溝が深まるか。
そこが、旅には現れるような気もしてくる。

連日の猛暑日を覚悟して出かけたので、水分補給や仮眠をとるなど旅程にあらかじめ余裕を持たせていたこともあり、無理なく楽しむことができたと思う。トラブルに遭うこともなく無事に帰路につけたのも、大きな達成だった。そっと安堵している。

ぼくらはこうして、結婚してから一歩ずつ夫婦になっている。


祇園祭
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